【第74話】
自我崩壊
ノアニールでできた出来事も今ではかなり前のことになる。
未だにノアニールの村民は眠りからさめないらしい。薬や魔法、教会の神父による祈りも通じず助ける手段がないそうだ。ロマリアからは定期的に兵を派遣するくらいしかできない、リュックからの手紙にはそう記されていた。
俺はあれからノアニールには行っていない。
ある者はこのシャンパーニから去りある者は新たに親方の組織に加わりいつのまにか俺もこの中では古株になっていた。
「クソ…」
俺の武器が血塗られていた。魔物の血ではない。人の血である。
俺の前に立ちはだかる仮面をつけた人間は槍を繰り出してきた。その槍も血で塗れていた。先ほどまで俺と一緒にいた仲間の血だ。
俺は槍をかわし、攻撃をくわえようとするが痛めた左肩のせいで力が入らない。攻撃はいつもの鋭さがなく宙を切る。
仮面男は大きくジャンプをして俺の攻撃をかわした。常人の人間とは思えないジャンプ力だ。
そして全体重を乗せて俺に槍で狙いをつけてきた。
当たれば即死だ。俺はなんとか横に飛び、攻撃をかわしながら右手でナイフを投げる。ナイフは仮面男の体に吸いこまれた。仮面男が痙攣をして、倒れる。ナイフには致死性の毒を塗ってあった。人を殺すための毒である。
「倒したか…」
俺は乱れる息を必死におさえようとする。まだ他にもいるかもしれない。
俺は警戒しながら、辺りを見る。
俺は仕事の依頼をうけていたとき、人殺しだけはしないようにしていた。しかし今は状況がそれを許さなかった。
親方は俺が入る前から、ある組織の動きを追っていた。以前俺に金の冠を盗めと依頼した組織だ。
親方は長くここにいる俺にようやく組織の全貌を教えてくれた。
人殺しから、人身売買などをやっていたと聞いていたがその本当の目的は「人体実験」を行う人集めをしていたそうだ。
兵隊となる人間をかき集め、薬づけか魔法で言うことを聞かせるかもしくは殺し、ゾンビとして蘇らせ不老不死の兵隊を作り上げるそれが組織の全貌のようだ。
今、俺が倒した相手も、操られた人間である。人間とは思えないほどの強靭な体をした組織の兵隊は操られた人間は自我が崩壊し、二度と元に戻ることがない。殺すことでしか安眠させてやる方法がないのだ。
第75話 宣戦布告
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