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【19、炎のルビカンテ】

  バブイルの塔に入ったらすぐに行き止まりになってしまった。セシルたちはがっかりしていたが、エッジはすぐに左の壁を調べて笑った。
「ヘヘヘ!これなら壁抜けの術で侵入できるぜ!!」
「壁抜けの術?!」
「まあ、見ていろ!あらよっ!!」
 エッジが忍術の構えをとり、壁に一時的に抜け道を作るのだった。おそらく白魔法テレポや、黒魔法デジョンと同じ原理ではないかと思える。その道を皆が通るとそれはいつの間にか消えていて、元のただの壁になっていた。
「便利な術だね!」
 リディアが感心していると、エッジはさらに得意げな顔になっていた。カインはすかさず突っ込みを入れていた。
「どこでも使えれば本当に便利だが・・。」
「な、何だと?!」
 確かにカインの言うとおり、この術はうすい壁にしか使えない。それにしても、エッジのおかげで塔の内部に入れたのだから、何もケチをつけることはないと思う。しかしカインにしてみれば、すぐ調子に乗るエッジに釘を刺しておくつもりで言ったに過ぎなかった。
「おっと、悪かったな!あんたのその術で塔に入れたわけだ。礼を言わねばならんな。」
「当然だぜ!!今度おかしなことぬかしやがったらぶんなぐるからな!!」
「もう!仲間同士で喧嘩している場合じゃないでしょ!!これから力を合わせて一緒に戦いに行くのに!!」
 リディアがエッジにこう言うと、さすがにエッジは黙ってしまった。どうもエッジはリディアにはからきし弱いようである。元々エッジにはフェミニストの傾向があるが、美人となればなおさらである。それに彼女を泣かせてしまったことも彼の中で負い目になっていた。
「すまなかったな、リディア。心配をかけさせて。」
 カインがリディアにあやまると、リディアはようやく笑顔になった。その笑顔の美しさにエッジは思わず見とれてしまった。
                    ☆
 セシル達の前に意外な敵が現れた。その2体のモンスターは、確かに身体はおどろおどろしい姿をしていた。しかしその顔はエッジの最愛の人物そのものだった。
「親父、おふくろ!!」
 エブラーナの王と王妃はルビカンテによって殺害されたが、その後ルゲイエによってモンスターと合体させられ、異形の者としての生命を与えられたのだ。無念の死を遂げた挙句、それを冒涜するかのごとくの屈辱を与えられた。彼らはその憎しみによって人の心を失ってしまっていた。
「さあ、エドワード。お前も死ぬのだ!!」
「死ねば楽になれるのよ。苦しむことも、哀しむこともなくなるわ!!」
 エッジは哀しみのあまり動くことができない。モンスターになったとしても愛しい両親には違いない。
「親父、おふくろ・・どうしちまった?!」
 エッジは攻撃を受けても反撃しようとはしない。リディアはエッジをかばうようにして訴えた。
「やめて!どうして自分の子供にこんなことを?!」
 一方、エッジの両親は戦っているうちに正気を取り戻した。愛しい息子の悲痛な声と無垢な娘の声が確かに彼らに伝わったのである。
「エッジ・・わが息子よ・・。」
「ごめんなさいね、愛するお前にこんなつらい思いをさせて・・。」
「私達はもうこの世の人間ではない!!」
 エッジは2人の声を聞き、激しく慟哭する。
「嫌だ!!2人とも一緒に俺達と戦ってくれ!!」
 両親は優しく首を振った。
「残念だが、その願いは聞けない。」
「エッジ、私達にはもう、こうしている時間はないの。でも最期にお前に会えて良かったわ。」
 両親はエッジにこういい残して光の中に消えていった。
「クソッタレー!!」
 エッジは悲しみと怒りで地面をこぶしで殴り続けて泣き続けた。リディアももらい泣きした。
「畜生!ルビカンテの野郎、許さねえ!!」
 エッジは激しい怒りで身から闘気の様なものを発していた。泣いていてもはじまらない。こうなったら何としても、ルビカンテに一太刀あびせなければ気がすまなかった。
                    ☆
 怒りと悲しみに包まれたパーティの前に、ルビカンテは姿を現した。彼の態度は意外にも紳士的であった。
「お前にはわびねばならん!死者を冒涜するようなことをして本当にすまなかった。」
「すまないですむかっ!俺は絶対てめえを許さねえ!!」
 エッジは怒りのあまり、新たな力を身につけたようだった。拳から、水遁の術と、雷迅の術を次々に放って、ルビカンテに浴びせた。
 しかし、いきりたつエッジに対して、ルビカンテはダメージを受けた様子もなく、態度をくずさなかった。
「あいかわらず、威勢のいい男だな。気に入ったぞ!」
「やかましい!てめえなんかに好かれたかねえ!!」
 エッジはサッと身構えた。セシル達もエッジが1人で先走らないように、それぞれ武器を構え、魔法の体勢を取った。
「ほう、なるほど。力を合わせてこの私を倒すというか。ならば全力が出せるように回復してやろう。遠慮せずにかかってくるがよい!!」
 ルビカンテはその言葉通りにセシル達を回復した。
「畜生、バカにしやがって!!」
 エッジはかえって腹をたてたが、セシルはこのルビカンテが今までの四天王に比べて、ずいぶんスケールが大きいと感じた。先ほどのエッジの両親に対する仕打ちは許せないが、自分の非礼をきちんとわびる態度といい、お互いに全力が出せるように相手を回復させたことといい、敵ながらあっぱれだと思った。
「エッジ、落ち着いて!怒りにまかせて倒せる相手じゃない!!」
 リディアが、怒りで今にも火がつきそうな殺気をみなぎらせているエッジにささやいた。エッジの悲しみや怒りはわかるが、そのために突っ走ってエッジが命を落とすようなことがあってはならない。彼の両親とて仇討ちよりもエッジが無事でいてくれることを望んでいる。リディアにはそんな風に思えてならなかった。
                    ☆
 ルビカンテと戦ってどれくらい時間がたったであろう。ルビカンテは赤いマントで自分の身体を守りながら炎系の強力な魔法攻撃をしかけてくる。
「火の攻撃は厳禁だ。やはり氷系の攻撃でないと!」
 しかし彼が、ブリザド系が弱点とわかりながらも、決定的なダメージを与えることができずにいる。
「あのマントが曲者だな。マントを開いている間にブリザラを!」
 セシルがリディアに指示を与えた。
「んじゃ、俺は雷迅か水遁で攻撃したらいいのか?」
 エッジとしては新たに身に着けたこの忍術よりも剣で攻撃したかった。
「いや、君はこれを投げてくれ!!」
 セシルは一本の剣をエッジに渡した。白い半透明の剣で、持つとひんやりとした感触である。氷の属性を持つアイスブランドである。
「よっしゃ!これで奴を仕留めるのか!?」
「奴がマントを開いている間に、正確にねらってくれ!!」
 リディアの氷系魔法ブリザラによってダメージを受けたルビカンテはマントを閉じて防御体勢となった。
「チッ、マントを閉じやがった!!」
 エッジは次に機会を待つことにした。セシルは続いてローザに指示を与えた。
「ローザ、ヘイストを!!」
「えっと、誰にかけたらいいのかしら?」
「リディアかエッジだな。」
 ルビカンテにはカインのジャンプ攻撃はあまり効かない。セシルの攻撃もあまり期待できない。だからこそエッジにアイスブランドを渡したのだ。リディアのブリザラが一番効果的なのだが、ここはエッジにかけてやりたい。一番とどめを刺したいのは彼であろう。
 ローザはエッジにヘイストをかけた。ただでさえ動きのすばやいエッジはこれでルビカンテの動きを見極めやすくなり、タイミングもつかめるというものだ。
「よし!じゃ、カイン。エッジにとどめを刺す前に、ジャンプ攻撃でルビカンテを翻弄してくれ。」
 カインのジャンプ攻撃ではダメージを与えることはできなかったが、その後ルビカンテが攻撃体勢をとってくると、セシルは読んだのだ。そしてルビカンテはセシルの読み通りに動いた。
「そんな攻撃ではこの私に傷一つつけられぬぞ!!」
 ルビカンテは油断してしまった。セシルはエッジをチラッと見ると、エッジは力強くうなずきアイスブランドを投げつけた。アイスブランドはルビカンテの心臓を直撃した。
「グッ!不覚!!」
 ルビカンテは倒れた。しかしそれほど悔しそうではなかった。
「み、見事だ!力を合わせてよくぞこの私を・・。」
「御託を並べている間にとっととくたばりやがれ!!」
 エッジはルビカンテののど元にくないを突きつけた。しかし何を思ったのかエッジはそれをすぐに鞘へとおさめた。
「どうした?私を憎んでいたのではなかったのか?さっさと首を斬らぬか?!」
 ルビカンテは死を恐れてはいなかった。どうせ心臓に剣が刺さっているので、死は時間の問題である。首を斬られれば、その分苦しむ時間が短くてすむというものである。
「勘違いするな!俺はお前らみたいに死人に鞭打つような真似はしねえ!!どうせてめえはこのまま死ぬ。その前に自分のやったことをしっかり懺悔しやがれ!!」
 エッジはそう言ってとっとと先に進んでしまった。リディアがエッジを心配して後を追い、さらにセシルとローザがルビカンテをチラッと見ながら2人を追った。
                    ☆
 カインはなぜか1人残っていた。
「ルビカンテ、エッジの両親をあんな目にあわせたのはルゲイエの仕業だろう。」
 カインは操られている間に何度かルビカンテと接したことがあった。親しい関係ではなかったが、彼があんな非道なことをする男でないことくらいは知っていた。
「その通りだ。だが部下の不正は私の不正だ。下手な言い訳などするものか。」
 ルビカンテは、元々聖騎士を目指していた男である。彼は他の四天王と違い、元は普通の人間で、ミシディアの魔道士だった。しかし氷系の魔法の使い手である父との確執によって、ルビカンテは魔法への道を捨て、試練の山で聖騎士となる試練を受けた。しかし父を憎む心によって試練を乗り越えられず、息絶え絶えになっていたところをゴルベーザに助けられたのである。それからルビカンテはゴルベーザの忠実な部下となり、ルゲイエに魔物に身体を改造してもらい、父とは反対に炎系の魔法の使い手となったのである。両親を殺されたエッジがルビカンテを憎むのは当然だったが、カインはこの男を憎む気にはなれなかった。カインはルビカンテの胸に刺さったアイスブランドを引き抜いた。
「ふっ、甘いな!敵に情けをかけていては生き残れぬぞ!!」
「お前には謝らねばならぬことがある。お前の愛するバルバリシアをこの手で葬ったのは俺達だ。」
 ルビカンテはそれを聞き、穏やかに笑った。
「知っていた。バルバリシアがお前を好きだったことも・・。だが、私もあいつもお前達を恨んではいない。」
 彼はそう言って息を引き取った。武人として誇り高い死を迎えられて、バルバリシアもルビカンテも安らかな死を迎えられたのかもしれない。その死に顔は安らかであった。カインはルビカンテの身体をていねいに横たえて、2人の冥福を祈った。前方からセシルが呼びかけてきた。
「カイン、早く来い!クリスタルがたくさんある!!」
「今からそっちへ行くぞ!!」
 カインはあわてて駆け出していった。
                    ☆
 セシル達の目の前には、クリスタルが7つならんでいた。
「あれがミシディアの水のクリスタル。あれがダムシアンの火のクリスタル・・。」
「ファブールの風のクリスタルにトロイアの土のクリスタル・・。」
「ねえ、エッジ!あの黒っぽいクリスタルは?」
 リディアはひときわ大きなクリスタルを指差した。
「あれは何を隠そう我がエブラーナにあったクリスタルだ!」
 エッジが得意げにリディアに語ろうとしたが、リディアはサッサとカインの所に行ってしまった。
「カイン、遅かったね。」
「あ、ああ。ルビカンテがちゃんと死んだのを見届けただけだ。」
 カインはルビカンテが死に際に言った話はふせておいた。エッジにとって、ルビカンテは憎い親の仇でしかないのだ。
「ここにあるクリスタルは7つか。すると残りはあと1つか・・。」
 冷静な顔で言うカインに対して面白くなさそうにエッジはそっぽを向いた。せっかくリディアを口説こうと思ったのに、といわんばかりである。
「バカやろう!!ここのクリシタルを全部持っていけば大丈夫だろうが!!」
 エッジは親の仇をとって肩の荷が軽くなっていたせいか、浅はかにもクリスタルに仕掛けてあった罠を見落としていた。エッジが一番近くのクリスタルを手にしようと近づいた時、突然床が底抜けしてしまったのである。
「ゲゲッ!落とし穴だ!!」
 落ちたのはエッジだけではない。残る4人も同様にかなり下まで落ちていった。身軽なエッジはリディアを抱きかかえ、セシルとローザは竜騎士であるカインにつかまった。彼らはゾットの塔のかなり下層部まで落ちていった。
                    ☆
 セシル達が気づいた時、目の前に赤い翼が並んでいた。誰も怪我はしていなかったが、リディアがエッジに対して怒っていた。
「もう!どうしてそんなことをするの?落っこちちゃったじゃない!!」
「悪リィ!でもおめえが怪我しないように抱えてやったんだから堪忍してくれ!!」
 エッジはリディアに謝っているが、リディアのほうは聞く耳持たないという感じである。
2人の様子を見て、カインとローザはクスクスと笑っている。
「取り込み中、悪いけどこれを見てくれないか?」
 セシルが頃合いを見計らって4人に言った。4人は思わず感嘆の声をあげていた。
「おお、でけえ!!」
「すごい、これが赤い翼なのね!!」
「敵はいないな。」
 メンバーは赤い翼に乗り込んで、その設計のすばらしさに驚いていた。もっともセシルやカインにとってはただなつかしいという気持ちしかなかったが。
「これ、頂いてしまおうぜ!!」
 エッジが言った。リディアはそれを聞き、美しい眉をひそめた。
「それって泥棒じゃない?!」
「どうせ奴らはこれを侵略とかに使っているぜ!悪い奴から盗むのは、泥棒じゃなくて義賊だぜ!!」
 エッジは誰が何と言おうが、この飛空挺をもらうつもりでいる。セシルもエッジの言うことにも一理あると思って同意した。
                     ☆
 こうしてセシル達は、赤い翼に乗ってバブイルの塔を抜け出して、ドワーフの城に向かった。

第20話 「最後のクリスタル」
第18話 「エブラーナの王子」に戻ります
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