【第307話】
ガライとの再会
赤いマーマンの群れが船を襲ってきたがトヘロスの光の結界によって阻まれた。初めて使った魔法だったがかなりの効果があったようだ。
「おぉ~、魔物達が帰っていくぞ!」
「さすが、勇者様のお力だ」
船員たちもほっとした表情のようだ。船も無傷だし、魔物の命も奪わなくてすんだのでよかった。
「戦わずにしてよかったですね」
そのとき聞き覚えのある声の主から声がかけられた。
「ガライさん!」
そう、以前森で迷ったときに魔物から救ってくれた吟遊詩人のガライさんだった。
「お久しぶりです、チェルトさん」
そう言って、手を差し出した。私も皮の手袋をとって握手を返す。
「何故、この船に?」
「ラダトーム王に頼まれたのです。
今回、海の魔王と戦わずしてすむのであれば
それに越したことはないとのことで
ラダトーム王が、森の辺境まで兵隊さんを派遣されて。
私も争いは好きではありません。
ですがアレフガルドは危機に瀕していて
誰もが今大魔王と戦おうとしています。
その戦う姿をあなたに教えられました。
私も無関係ではありません。
アレフガルドの住民の一人なのですから。
そして今回のように、私にしかできないことに目をつけてくださった
王の気持ちもわかりました」
そう言うとガライさんはにっこり微笑んだ。
「そうだったのですか。 でもガライさんがこの船に乗っているとは心強いです」
「そんなに期待しないでください。
私は詩人ですから、唄を歌うことしかできません」
ガライさんの微笑みは苦笑いに変わった。そして暗闇の海を見つめる。
「しかしチェルトさんは無事王者の剣と勇者の盾を手に入れられたのですね。
やはりチェルトさんは神に選ばれし勇者なのですね」
その言葉を聞いて今度は私が苦笑いになる。
「どうなんでしょう。私にはとても自分がそんな存在とは思えません。 もしそうだったら、私は多くの命を奪いも失わずにもしなかったかもしれません」
私は船べりに立ち、メルキド大戦のときの話をした。
「そのときの話は私も伺っています。
ラダトームもそのとき大魔王の軍との戦で
私も戦の醜さというのを目の前で見させられました」
ガライさんは悲しい顔をした。
「神であれば・・・・・ 神が選んだ者であれば、こんな戦いはしなかったのではないでしょうか」
「それはどうでしょうか。
神でさえ、過ちをおかした事はあります。
そして、どれが正しいことかということは誰もわからないと思います。
大切なのは、立ち向かう心を持つこと、
一人一人が勇気を持つこと、
自分が行動を起こして、初めてこの暗闇に閉ざされたアレフガルドを
変えることができるということ
それをあなたは教えてくれたと思います」
「・・・・・・・・」
「後は私達ができるのは自分達が信じる道を進むことのような気がします」
「・・・・・・・そうですね」
私とガライさんは暗くどこまでも続く暗黒の海をいつまでも眺めていた。
第308話 つぶやき
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