<人間になる>

 

私の名はベス・・ではなく、ペスタ。錬金術師エドガン様に拾われてからすでに半年の月日が流れている。

 コーミズ。それがエドガン様達の住んでおられる村の名だった。人々はみな優しく、何も不自由はなかった。


「ペスタ、散歩行こっか!」

「いこういこう!」

(村の外に出てはいけませんよ)

 ペスタは、毎日幸せだった。亡くした祖母達の死に顔をときたま忘れてしまう時があるほど。

(ずっと・・このまま・・幸せに暮らしていきたい・・・)


「では、マーニャ、ミネア、ペスタ、行ってくるよ」

 エドガンとオーリンは、一週間ごとにキングレオ城に通っていた。キングレオ城・・今は、ウォルト=クロムス=キングレオ国王が治めている、 荘厳華麗な城。二人は、その城に錬金術の報告をしに行くのだ。

 二人が城に行っている間、マーニャとミネア、ペスタは家で留守番をしている。マーニャとミネアは、時にはペスタと鬼ごっこをしたり、時にはかけっこをしたり、時には、一緒にお話をしたり・・・


「・・でね、ペスタ。ミネアったら恥ずかしいのよ~。前にもねぇ・・・」

「あーおねえちゃん!そのこといったらいやだよぉ!」

「でもペスタは聞きたいみたいだけど?」

「ぺすたぁ、はなしてほしくないよね?」

(ミネア様が嫌がるなら、無理に聞こうとはしませんが・・・)

「ほら、ペスタもミネアのあの話、聞きたいって」

「うそだよ!ペスタはべつにききたくないっていったんだよ!」

「あのねペスタ・・実はねぇ」

「あ~おねえちゃ~ん!」


(おねしょ・・ぷぷぷっ)

 ペスタは、思わず笑ってしまった。

「もう四歳にもなるのにおねしょなんて恥ずかし~い!」

「はずかしくないもん!よんさいでもおねしょするもん!」

「アタシはおねしょなんかしたことないもんね~」

(ミネア様、おねしょなど気にする必要はありませんよ。まだ幼い身なのだから・・・)

「おねえちゃんのうそつき!おねえちゃんだってぜったいおねしょしたことあるもん!」


 ペスタは、時々、少し寂しくなった。

(私の言葉は・・人間には伝わらないのですね・・・)


(人間になれば・・人間と話ができるのだろうか・・・)


 ミネアは、少し暗い顔をしてうつむいているペスタを見て、思わず声をかけた。

「どしたのぺすた?」

「どうしたの?ペスタ」

 マーニャも、声をかけた。

(人間になりたい・・・)

「ペスタ、どうしたの?」

(人間になりたいのです)

「わんわんわんじゃわからないよぉ。ちゃんとしゃべってよぉ」

「バカねぇミネアは。犬はワンワンとしか話せないのよ?」

「え・・そうなの?」

 ミネアは、初めて知ったような顔をして、目をキョトンとさせた。

「・・そっかぁ。ぺすたはわんわんしかいえないんだぁ・・・」

(・・・)

「じゃあ・・・」

 
「じゃあ・・わたし・・いぬになりたいなぁ・・・」

(!・・ミネア様・・・)

「な~に言ってんのよぉ!犬になんかなれるわけないでしょうが!」

「わたし・・ぺすたとおはなししたい・・いぬになれたら・・ぺすたとおはなしできるかな・・・」


 わたし、、ぺすたとおはなししたい、、いぬになれたら、、ぺすたとおはなしできるかな、、、


 その日の夜。

(そういえば・・・

)  ペスタは、ふとこんなことを考えていた―――

 そういえば、昔、風の噂で聞いたことがある・・「人間になったスライム」がどこかにいると・・・。

名は確か・・スラリンだっただろうか・・・。一度、どうやって人間になったのか、お話を伺いたいものだ・・・

 人間になるということは・・どういうことなのだろうか・・・どんな感じなんだろうか・・・

 ――そんなことを考えていると、ふと祖母の言葉が頭の中に蘇った。


 いいかい 人間には近づくんじゃない 奴らは非情な生き物だ とてつもない悪魔だ 人間をみかけたら すぐさま逃げるんだよ


<続く>


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