ここにいると、人が死ぬ事に麻痺してくる。恐ろしい事だ。が、そう感じている
あいだはまだまだ正常なようだ。
昨日の日記を覗いたのか、ヘンリーが大丈夫かなんて言ってきた。突然、妖精の
話なんて始めたからだろう。まあ、冗談顔で言っていたから、本気で心配してい
るわけではないのだろうし、彼も妖精の伝説くらいは知っている。僕はそれが事
実だった事をこの目で確かめてきただけだ。ヘンリー、心配しないで。
そう、今日書くのはヘンリーとの出会いについてになる。そしてあの時が近づく。
妖精の村から地下室に戻ってすぐ、父さんがラインハット城に呼び出され、僕も
ついていく事になった。山を下り、川を越え、このあたりでは一番大きい城に着
く。
王様と父さんは二人だけで話をしていた。僕は衛兵たちと下に降りていったけれ
ど、なんだか奇妙な感じがした。衛兵たちはみすぼらしい格好をしていた父が王
と内密の話をするという事をいぶかっていたし、実際、なんだか僕らがいるのが
場違いな気がした。
城内を歩き回っているうちにいろいろ話を聞いた。いつのまにか第一王子の教育
係にされてしまったらしい。気になっていろいろ評判を聞いたけれども、
おっと、ヘンリーが覗いたりしたら大変だ。あまり書きすぎないようにしておこ
う。
初めてヘンリーと会った時の事はよく覚えている。子分のしるしを取ってこいと
いわれて、となりの部屋の宝箱を空け、部屋に戻るとヘンリーがいない。慌てて
父さんを呼んでくるとにやにやして椅子に座っている。父さんに「夢でも見てる
のではないか」なんていわれた時はすごく恥ずかしかったぞ。
新しく入った女の子がうなされているので中断した。マリアという子だ。
入ったばかりでさんざんムチを打たれたようだ。腕にもあとがついている。
ぬれた布切れで冷やしてあげている。