この小説は、私が書いたDQVの「その後」の話で、王妃の2度目の出産、王女の結婚など、グランバニア王家に起こる様々な出来事の話はグランバニア王(本編の主人公)と、彼のブレーンである神父ロレンソを中心に展開されます。この小説の面白いところは、王妃がビアンカでもフローラでも、どちらでも読めるようになっています。もちろん、小説・CDシアター・ゲームブック・ギャグ王の「天空物語」などのシナリオにも通用します。
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外伝 ドラゴンクエストV
~グランバニア司祭ロレンソ~
1 仕官
闇が払われ、真の平和が訪れてから数カ月も経つと、お祭り騒ぎも収まり、人々はそれぞれの仕事につこうとしていた。そんなある日、グランバニア国の家老サンチョが一人の神父を伴って王の前に来た。
「王様、ロレンソと申す神父を連れてきました。この神父、学識高き故に王の相談役となってくれるやもしれませぬ」
「うむ、サンチョは下がって良い。ロレンソとか言ったな」
ロレンソは頭を下げた。
「ははっ、お初にお目にかかれて光栄にございますぞ、グランバニア国王」
「学識高き噂はもはや聞いておる。そなたなら我が国の王子と王女の教育係にふさわしそうだ。しかと教育するがよいぞ」
「はっ」
王は王子と王女に新たな師を紹介すると、二人は挨拶をした。
「初めまして、ロレンソ神父」
二人の挨拶に神父は答えた。
「ふむ、二人とも王を継ぐにふさわしいようですな。今日よりそなたらを教育いたしますぞ」
「ロレンソ神父、お願いします」
ロレンソは理数や文学などについての話を教育した。
そして、彼の授業が終わると、二人は親にこう言った。
「ロレンソ神父の勉強、とてもわかりやすかったよ」
しかし、ロレンソはこう答えた。
「いえ、二人の飲み込みがかなり早いだけの事です。故に私の方も教え甲斐があるというものです。 しかし、私はわかりやすい教育をした覚えはありませんが、なぜかわかりやすい教育として映ってしまうのです」
こうして、これを持論とした彼の熱心な教育観念は、王や王妃のみならず、他の家臣も学ぶほど浸透していった。
2 君民共働
ロレンソはオジロンとサンチョにこう言った。
「我々家臣は税金をいかに得て、そして使うべきかをよく考えなければなりませぬぞ」
「ふむ、では、いかに得るかだが、仮に普通の税収で足りなかったらどうするのだ」
「普通の税収より大きく得る方法がございます。それは君民共働です」
「して、その君民共働とは」
「人間は働いて金銭を得ます。しかし、王や家臣は働かずして民からの税金をいたずらに使うかもしれません」
「これでは世の中の混乱につながりかねないからな」
「ですから、王も家臣も人間ですから、働いて自分の金銭を持つ事です」
「これなら税金もいたずらに使わなくなる訳ですね」
「その通りです」
「しかし、老人や子供など働けない者につきましてはどうしますか」
「老人には月ごとに金銭を与え、子供には将来の労働の為に知識や技能を身につける学校を創ります」
「そのような考えで家臣は賛成するのでしょうか」
「それならその内容と理由を述べて、賛成しない者には納得する理由を述べるまでです」
ロレンソは王にその案を報告した。
「なるほど……、人間としての常識からその案を出したという訳だな」
「はい、それに、王が先頭に立って働けば、働かぬ者もいなくなるでしょう」
「よろしい、ならばその案を認めよう」
こうして君民共働は国のキャンペーンとなり、その収益は、君民共働と共に提唱していた学校の創設に充てられた。 これにより文字の読み書きや計算のできる子供もかなり増えた。
しかし、ロレンソにも懸念するようなことはあった。収入の増加に比例した極端な浪費や贅沢による財政の破綻だ。
「せっかくの収益も贅沢な浪費で赤字となっては元も子もありません」
そこで、王はこう答えた。
「ならば、贅沢はほどほどにと指導するがよい。いきなり禁止ともいかないからな。やはりほどほどが一番と言う事だ」
「しかし、神父とは申されども、仕官の短い拙僧では他の家臣からの嫉妬を買いかねませぬ。やはり長く仕えている者が指導すべきでは」
ロレンソは自分からの指導を固辞し、代わりに長く仕えている家臣を推薦した。結局、推薦された家臣の指導で国民も了承することになった。
こうした彼の経済思想は国益を上げる結果となった。
なお、王が冒険中に失った同種の魔物を仲間に加え直した事を付け加えておく。
3 再即位の計画
平和が訪れて三年後のある日、ロレンソは提案した。
「お言葉ですが、お妃様の三人目のお子様の出産と同時に再度即位式を行ってもらいたいと思います。前回はお妃様が怪物に拉致されてめちゃめちゃになり、その結果として、石にされるという不幸な結末でしたが、今では拉致する怪物ももはやおりません」
「その必要はない。なぜ再即位せねばならぬ理由はあるのか」
「はい、この即位は真の国王として改めての再即位です」
「真の国王だと?」
「はい、新たな慈愛王のことです」
「なるほど…そういうのなら、王子と王女の処遇はどうするのだ」
「お二方はもうそろそろ成人してもよいお年頃ですので、それも行いたいと……」
「それも行いたいだと?それでは数年分の収入では済まされないほどの出費になるぞ」
「心得ております。その辺につきましては、私が責任を持ってやりくりします」
「わかった。まあ、後で石にされた無念さを思い出せば是非もあるまい。して、その計画とは」
「はい、その件につきましては、出産直後に即位式を、そして成人式の日には、今のお子様の誕生日に合わせて行う予定です」
「しかし、そう簡単にはいくのか」
「大丈夫です」
ロレンソは式の計画表を王に見せた。
「まず、この表をご覧下さい。即位式については前回と同じ過程で行い、成人式はお子様の名前を変えて、成人としての意味を持たせます」
「なるほど」
王はそう答えた。
その日の夜、王妃は王に言った。
「ねえ、男の子と女の子、どっちがいい?」
「うーん、どっちでもいいけど、両方は無理かな」
「あら、両方だなんてそううまくいくものじゃないわ」
「なに、大丈夫さ」
二人はベッドに入り込んだ。
数カ月後のある日。奇しくも国王が妻を連れて帰郷した日と同じ日だ。王妃はいつになく元気に起きてこなかった。
看病に来た尼はこういった。
「お妃さまは二度目のおめでたです」
この二度目の懐妊は人々に知られた。
特に二人の子供は大喜びした。
「これで僕たちに弟か妹ができるんだね」
「お母さん、頑張ってね」
双子は母を励まし、この事を知った王は子供にこう言った。
「そうか、お前達もいよいよお兄さんとお姉さんか……」
それから数カ月後。子供達は、大きくなった母の腹の両端に触った。
「あっ、お母さんのお腹が中から動いたよ」
そういうと、二人の母は、喜んで言った。
「うふふ、これはね、お腹の中にいる赤ちゃんが動いたのよ」
「ほんと?」
「もう少しだね、お母さん」
「ありがとう」
母は涙ながらに喜んだ。
4 もう一組の双子
それから数カ月後。王のもとに緊急の声が伝わった。
「王様、大変です!お妃様が!」
「生まれたのですか?」
「いえ、もうすぐ生まれそうです」
国王は子どもとともに妻のベッドにかけ込んだ。
王妃は息切れしそうな声でいった。
「私、頑張って元気な赤ちゃんを産むわ……ハアハア……愛してるわ、みんな……」
「頑張るんだ、もう少しだから」
「お母さん、頑張って」
すると、シスターがいった。
「新しい命が生まれようとしています。どうか下でお待ち下さい」
国王は、子供とともに三階の宮殿で出産を待つ事にした。
そこへロレンソがかけつけた。
「ご出産おめでとうござりまする。ところで、今のお子様の成人式には、名前を変えて大人としての自覚を持たせるようお伝え下され。私はサンチョ殿、ピピン殿と式の準備をしているものでして」
国王は頷いて、自分の子供に伝えた。
「お前達はもう大人になるから、名前も変わることになる」
「えっ、じゃあ、今の名前はどうなるの」
「大丈夫だ、ちゃんと残しておくから。お前達は大人としての責任を持って頑張るのだぞ」
そういって、彼は二人の子供に新しい名前をつけた。
すると、メイドが再び駆けつけた。
「お産まれになりました」
オジロンは喜びながらいった。
「さあ、儂にかまわずいってあげるがいい」
その言葉に、新しい真の王と子供は妻のところに駆けつけた。
男と女の双子である。しかも、上の双子の誕生と同じ日時での出産である。この出産に、側近の人々は驚いた。
「王様は奇跡の果報者としか言いようがない」
王妃は出産で疲れたようにいった。
「ハアハア……みんな…私、頑張ったよ。よく頑張ったってほめてくれる?」
「もちろんだ」
「ありがとう、みんな。ところで、名前はなんてつける?今度もあなたにつけてほしいな」
王は、成人したばかりの子供の幼名をつけた。
「えっ、上の双子のと同じ名前を二度もつけるの?」
「いいじゃないか、上の双子はもう大人になったからな」
「そう、でも、ちょっと変わってるけどすてきな名前ね」
王妃は少し笑みを浮かべた。
一方、成人した上の双子は、生まれたばかりの弟や妹をしげしげとながめていた。
「わあ、弟の方は僕にそっくり」
「私の妹も結構かわいいわね」
二人は自分の子供が生まれたかのように喜んだ。
新しい王と王子、王女の誕生。そして成人。この慶事は国中に知られ、人々は大いに喜んだ。
そして夜が明けると、新しい王妃はいった。
「ねえ、夕べはとてもよく眠れたわ。今日はあなたの即位式と上の双子の成人式でしょ。
みんな頑張ってきてね。ところで、上の二人が生まれたときに果たせなかった約束、ついに果たせそうね」
「ああ。では、いくか」
そういって、新しい王は、上の双子とともに三階の宮殿に向かった。
階段を降り、兵士に連れられてオジロンの前にきた。
「皆の者よく聞くように!こちらにおるのが新たなるグランバニア前国王と長男、そして長女である。余はこれよりこの新国王に王位を譲ろうと思う」
オジロンは兵の前で新国王の即位を示した。
「さあ、ひざまずくがよい。グランバニアの子にして仁君の誉れ高きパパス王の嫡男とその子たちよ、余は神の名にかけて本日このときよりそなたに王位を譲り、王子と王女を成人として認めるものである。さあ、そこの玉座に座るがよい」
新国王は玉座に座り、間に王子と王女が立った。
「グランバニアの新しい国王の誕生と王子と王女の成人じゃ!」
「新国王ご即位万歳!」
「王子、王女のご成人万歳!」
「グランバニアに栄光を!新国王万歳!」
兵士達の歓声の中、オジロンはいった。
「さあ、国中の民々にも新しい国王のお姿を!」
新国王はオジロンや兵士とともに三階の宮殿を出て、城の一階の平民たちのところへ降りた。
「新国王に敬礼!」
「新国王万歳!」
「ご成人万歳!」
「国中の民が下の階で国王様のお出ましを待っております!」
途中、兵士達の挨拶の後、城の一階に着くと、オジロンはいった。
「皆の者、待たせたな!たった今、グランバニアの新しい国王が誕生した!」
その声に、平民達は歓喜をあげた。
「新しい王様万歳!新国王万歳!王子王女ご成人万歳!」
そして、代表としてサンチョが祝辞を述べた。
「まことにおめでとうございます!このサンチョ、これほど嬉しい日は……」
彼の祝辞は、彼自身を泣かせた。
ピピンやロレンソも、上の双子の成人の祝辞を述べた。
「ご成人おめでとうございます!どうか大人としての自覚を持ち、これからも頑張って下され」
その日は国中を挙げて、夜遅くまで祝賀の宴が催された。人々は歌い踊り、その日の歓びを分かち合った。
こうしてロレンソ達重臣や王族のおかげで、ついに即位式を成功させた。しかも上の双子の成人式も追加されて。
5 自立
即位式も無事に終わり、人々は各自の仕事を再開して、人々はより精を出すようになった。王や王妃も、出産した双子を育てる事に喜びを再び覚え直し、安らかな顔を見ては疲れを癒していた。ロレンソ達の教育を受けた、成人したばかりの双子も然りで、彼らも親の手伝いをしながら弟や妹を見ては笑みを浮かべていた。もちろん、自らの仕事を一日たりとも欠かさなかった。
それから六年後。王に二通の手紙が届いた。一通は王の岳父からのものだ。
「 親愛なるグランバニア王へ
陛下とご家族はお元気ですか?私は元気です。
陛下はずいぶん頑張って国を治めているようですが、私もすっかり年老いてきたもので、私の家をこの代で終わらせたくないと思い、せめて孫の一人でも家を継がせてほしいと思っております。
岳父 」
もう一通はラインハット王族のヘンリーからである。
「 親愛なるグランバニア王へ
陛下とご家族はお元気ですか?私も妻子とともに元気です。
ただいま、盟友グランバニア国では、国民とともに頑張って働いているそうですね。
そろそろ我が嫡子コリンズも結婚しても良さそうな年齢になったと思うので、貴国の王女と結婚させたいと思っております。
ヘンリー 」
これらの手紙を家臣に読ませた後、王は尋ねた。
「今、岳父からの手紙とヘンリーからの手紙についてどう思われるのか」
オジロンは答えた。
「岳父様からの手紙につきましては、ご長男様はこの国の王を継ぐお方ですし、ご長女様に至ってもコリンズ様とご親密である以上、岳父様の家は継げません。後から生まれたお子様もまだ幼い方ですから、お育て続けたいとお思いになりましょう。ですから、継がせるにも成長する間に岳父様が生きていられるか心配です」
サンチョはオジロンの答えに賛同した。
「岳父様の家につきましては、いずれにしても後から生まれたお子様のいずれかに継がせなくてはならなくなります」
そこで、ロレンソはこう答えた。
「それならば、岳父様の家はご長男様に継がせてはいかがでしょうか。後から生まれたお子様が充分に成長なさったときにご長男様を城に召還して、後から生まれたお子様と家を入れ換えるのです。確かにご長男様はこの国の王を継ぐお方ですが、入れ換えるときに城に戻れば、王位を継がせる事ができますし、後から生まれたお子様を分家として独立させる事もできます」
ロレンソの答えに王はこう答えた。
「つまり、岳父の家を、長男をつなぎとして継がせ、成長した二組目の双子に譲るわけか」
「はい」
そして、王は長男にこう伝えた。
「お前ももうすぐ二十才だろう。そろそろお爺様の家で暮らしてはどうだ」
長男は答えた。
「えっ、僕がこの城を継がなくてはならないのに、どうして行かなきゃならないの」
「お爺様が孫に家を継がせたいといっているんだ。本当はお前に王を継がせなければならないのでお前の弟と妹に継がせたいと思っているんだけど、まだ小さいから継がせられないので、弟と妹が十分に成長したら、お爺様の家を弟と妹に譲って、お前をこの城に呼び戻すというわけだよ」
「つまり、ぼくが、弟と妹が成長するまで代わりに家を継ぐわけでしょ」
「そうだ。でも、この城に来てもいいんだよ」
「ほんと?実は僕もおじいちゃんと一緒に住みたかったんだ」
長男は喜んだ。
一方、長女にもこう伝えた。
「お前ももうすぐ二十才だから結婚してもいい年齢だろう。相手はお前と婚約していたコリンズ君だそうだ」
「ほんと?コリンズ君との婚約がついに果たせるね。ありがとう、お父さん」
長女の喜びは言わずもがなだった。
やがて王は岳父とヘンリー宛の返事の手紙を書いた。
「 親愛なる岳父へ
これまでにも何度か孫に家を継がせたいという手紙を受け取りましたが、子供がまだ小さかったので長引いてしまいました。しかし、今では上の双子も立派に成長したので、我が長男に家を継がせたいと思います。本当のところは、二組目の双子に継がせたいところだったのですが、未だに年が浅いので、継がせるのに早いと思い、長男に家を継がせることに決めました。しかし、二組目の双子が成長したら、継がせようと考えています。
グランバニア国王 」
「 親愛なるラインハット王族のヘンリー様へ
これまでにも我が長女は既に婚約した貴方の息子コリンズと幾度も手紙をやり取りした仲と聞いておりますので、これほど親密な仲ならば、結婚話が持ち上がるのも道理なのかも知れません。こちらもそろそろ結婚しても良い年頃と思いますので、そろそろ結婚させたいと思っています。
グランバニア国王 」
ロレンソは、長女の結婚式の計画表を作成し、王に見せた。
「場所につきましては、ラインハットのコリンズ様が御結婚致しますので、ラインハット城の教会で行おうと考えておりました。しかしながら、この国の長女の御結婚でもございますので、あちら側のみで行うのでは不公平と思い、ラインハットとグランバニアのほぼ中間にある修道院で行うことと致しました。この事をヘンリー様にお伝えしとうございます」
「移動費用が偏らぬよう中間地点の修道院を選んだという訳か。わかった、その事をしかと伝えていくがよい」
ロレンソはラインハット城でヘンリーとマリアにこの事を伝えた。
「なるほど、ラインハットとグランバニアが盟友関係にある事を知って、移動費用が公平になるように修道院で行おうという訳だな。マリアも修道院の出身なら、修道院での挙式を了承するだろう」
「ええ。こちら側も光栄ですし賛成ですわ。両国間の友好を深まりますもの。修道院に伝えておきますわ」
「わかりました。こちらも修道院から挙式の許可をもらいますので」
次は修道院だ。式場として認めてもらうために。
「え?この修道院で式を行うのですか?神聖な修道院を何と思っていらっしゃるのですか」
「修道院が花嫁としての学校なれば、花嫁になる事が卒業になる筈ではないのですか。サラボナのフローラ様やラインハットのマリア様も花嫁になるためにこの修道院を出たのではないのですか」
「マリア様?ええ、そのことは彼女から聞いております。ラインハットのコリンズ王子様とグランバニアの第一王女様がご結婚なさるのですね。わかりました」
こうして修道院での挙式が決定された。
グランバニアに戻ったロレンソはラインハット側の了承と修道院での挙式の許可が 得られたことをグランバニア王に伝えた。
「よし、よくぞ許可を取ってくれたな。実は今、長男の引っ越しと長女の結婚式の準備中だ」
「準備中申し訳ございません。私が手伝ってもよろしゅうございますか」
「かまわぬ」
ロレンソは準備を手伝った。
こうして長男の引っ越しと長女の結婚式の準備は完了した。
「よくぞご苦労であったな、ロレンソ達」
王はロレンソ達をねぎらった。
次の日、グランバニア城で花嫁の出発式が行われた。式場である修道院に向かうためだ。花嫁の衣装はかなり豪華なものだった。
「こんなきれいな王女様の花嫁姿は見たことがない」
その豪華な衣装に人々は大いに驚いたことは、言うまでもなかった。
そして、彼女は歓声のアーチをくぐり抜けて修道院の控え室に着いた。そこにはラインハットから来た新郎コリンズがいた。彼もまたラインハットで出発式を行っていたのだった。
「いよいよ始まるね」
二人は手を握り合いながらドキドキと音を鳴らした。そして、コリンズは花嫁にヴェールをかぶせた。
そのヴェールはかつて花嫁の母が父との結婚に使われたものであった。
花嫁はいつもの時とは違って、少し緊張を加えた。
「ありがとう、コリンズ君。さあ、私を修道院まで連れて行って」
二人は修道院の門前に立つと、修道院内での準備が終わっていた。
「さあ、どうぞ良き結婚式を!」
二人は修道院の中に入って修道院長の前にやってきた。
「本日、これにより、神の御名においてラインハット王子コリンズ様とグランバニア王女様の結婚式を行います。まずは神へのご誓いを。汝、コリンズ様はグランバニア王女様を妻とし、健やかなる時も病める時もその身を共にする事を誓いますか? 汝、グランバニア王女様はコリンズ様を夫とし、健やかなる時も病める時もその身を共にする事を誓いますか?」
二人ははいつものとは違って、少し緊張を加えながらほぼ同時に答えた。
「はい、誓います」
こんどは二人の指輪の交換だ。
「よろしい。それでは、指輪の交換を」
二人は互いにそれぞれの指輪を交換した。
「そして、神の御前で二人が夫婦となる事の証をお見せなさい。さあ、誓いの口づけを」
二人が誓いの口づけをすると、修道院長は祝福した。
「おお、神よ!今ここに新たなる夫婦がお生まれになりました。どうか末永くこの二人を見守って下さりますように、アーメン」
その祝福後、夫婦となった二人は歓声のアーチをくぐり抜ける中、親の激励が飛び交った。
「おめでとう!コリンズ君!」
「しっかりやるのよ、コリンズ!」
その日は両国を挙げて、夜遅くまで祝賀の宴が催された。人々は歌い踊り、その日の歓びを分かち合った。
次は長男の転居だ。彼の母の実家で家を継がせてもらいたいという祖父の願いである。
長男の母の実家に着いたときの歓迎は大きなものがあり、祖父はよろこんで大いにもてなしてくれた事は言うまでもなかった。
「よく来たな。これで私も楽にできるよ」
こうして王の岳父は、暫定的ではあるが自分の孫に家を継がせる事が出来たのである。
一方、後から生まれた双子は、優しかった兄や姉と別れるのがつらかったが、ときどき戻ってくると思ったため、淋しさはあまり感じず、元気さは日ごとにを増していったという。
6 家の互譲
先に生まれた双子が自立して十数年。後から生まれた双子も立派に成長して、自立に十分な年齢になった。
ロレンソはかつての約束を王に思い出させた。長男の家と後から生まれた双子の家を互譲する約束だ。
「もうそろそろ約束を果たしてはいかがでしょうか」
「約束とは?」
「後から生まれたお子様も立派に成長して自立に十分な年齢になっておりましょう。 陛下の岳父と暮らしておるご長男様の家と後から生まれた双子の家を互譲する約束です」
「おお、そうか。では長男が帰ってきたらこの事を伝えようか」
長男がこのグランバニア城に戻ったのはそれからの事だった。
「実は、お前はこの城に残ってくれないか」
「どうして」
「お前の弟と妹が自立できるほど十分に成長した。本当は最初からお前の弟と妹に継がせたかったんだけど、まだ小さかったから継がせるには早かったから、成長するまで代わりに継いでもらいたかったんだ。自立の名目で勘当するつもりはなかった。済まない」
王は長男に謝った。
「いいよ、そんな事は出ていく前に言ったでしょ?勘当される心当たりもなかったし、自分の事を自分で出来るんだもん。僕はこの城に戻って王位を継ぐ事にするよ」
「そうか、この国を本当に継ぐのはお前だものな」
こうして王の長男はグランバニア次期王位継承を宣言した。
一方、後から生まれた双子は、兄の帰りを喜んでいた。
長男が戻って一か月後、彼は弟と妹にこういった。
「実はなんだけど、どうしてここに戻ってきたか分かるか」
「知っているよ、僕たちが成長するまで代わりにおじいちゃんの家を継ぐためでしょ」
「そうだね。もう一つは僕もそろそろこの城で、お父さんの後を継がなくちゃならないんだ。二人とももう自立できる年齢だろう?だから、おじいちゃんの家を継いでほしいんだ」
「ええー、なぜ?」
「継いでもらわなくちゃおじいちゃんに悪いだろう。おじいちゃんがどんなに会いたいか……」
「うん、わかった」
こうして、長男と弟・妹の家を互譲する約束は果たされ、長男はグランバニアの王位を、弟と妹は祖父の家を継ぐ事になった。
以上の事をまとめると、王と王妃の子供である長男はグランバニアを、次男と次女は母方の祖父の家を、長女はラインハット王家を姻戚として継いだ。なお、次男と次女の宿屋は後にグランバニアの分家を立てて独立した。いずれも兄弟仲良く暮らしていたことは言うまでもなかった。
ところで、子供たちの配偶者については、長男は城の家臣の娘と、次男はかつて父が結婚相手の選択時に選ばれなかった相手の娘と、長女はヘンリーの息子コリンズと、次女は兄と姉の乳兄弟と結婚したといわれている。
おわり
あとがき
拙者がこの小説の資料探しを始めたのは平成七年の夏休みの事でした。しかし、大学での「仕事」やシナリオの見直しなどで完結が遅れに遅れて、完結したのが八年十一月の下旬でした。この小説は、ゲームにおけるシナリオの終了後(エンディング後) のグランバニア城を舞台にして書きました。この小説のオリジナルキャラクターにロレンソという僧侶(神父)がいますが、彼は王(主人公)のブレーンとして王家にまつわる儀式を行った人です。
この小説を書くきっかけは、主人公の妻(ビアンカあるいはフローラ)がジャミの手下に拉致される事件でした。せっかく子供が生まれて、いよいよ母として新たな人生を歩もうとした矢先に拉致されて、さぞかし彼女も不本意だったろうと思います。そこで、もし彼女とその子供が拉致されなかったらという前提で二度目の出産を書きました。小説(久美沙織著)の三巻目の終わりの近くに書いてあるように、平和がやってきたからにはもう一度産んで、今度こそ最初から育て直そうという主旨が書いてあったので、その願いをかなえさせようと書いてみました。二度目の出産については、必然的に一人しか生まれないと思うでしょう。しかし、ここは一度目の時と同じく、男の子と女の子の双子にしてみました。双子にしたのは、主人公の子供が弟や妹を欲しがっているだろうと思い、一緒にして作りました。本当は、主人公の妻が二組目の双子を育てる話も書きたかったのですが、これは皆様方のご想像にお任せということにしますので、どうかお許しください。
さて、主人公の子供達についてですが、これは「1」の主人公のと似た方式にしました。具体的には、長男(勇者)を王位に継がせ、次男と次女(この小説における二組目の双子)を別の王家として継がせ、長女(勇者の双子の兄弟)を他国の王子(コリンズ)に嫁がせて仲良くしようという寸法です。
3章で、王と王妃がベッドに入り込んだシーンがありましたが、入り込んだからといって2組目の双子ができたわけではありませんので、ご了承下さい。どうやって2組目の双子を作ったかは本編(1組目の双子を作ったとき)と同じ場所ということにして下さい。 <(^_^;)
また、大人になったときに付けられた上の双子の名前ですが、小説・CDシアター版の続きとして読むなら「ティムアロム」「ポピレアラ」、「天空物語」の続きとして読むなら「テンクウ」「オオゾラ」として読んで下さると幸いです。
この小説で分からない事がありましたら、返事と共に書いて下さい。この文責は私にありますから……。
次回作のリクエストを頂きましたら、これほど嬉しい事はございません。
びすけっと
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