潜入!?ゾットの塔
ダークエルフを倒し、土のクリスタルを取り戻したセシルたち。トロイア城に戻り、8人の女神官たちと喜びを分かち合っていると、どこからか聞き慣れた声が聞こえてきた。
「土のクリスタルを手に入れたようだな……」
「カイン!」
それはゴルベーザに操られ、彼の手先となっていたセシルの親友の声だった。
「表に出て飛空挺に乗れ。ゾットの塔まで案内してやろう」
声は更にそう続けた。ゴルベーザのもとには捕らわれの身となったローザもいる。彼女を助けるためには、土のクリスタルをゴルベーザに差し出さなくてはならないのだ。
「いやだ」
セシルの返事は開口一発これだった。
「なっ!?何を言っているんだ。ゴルベーザ様に逆らうと、ローザの命が無いぞ」
焦ったのはカインの方である。カインはローザに思いを寄せている。しかも、クリスタルとローザの交換はもともとカインの提案だったのだ。ここでローザが殺されてしまうのはとてつもなく不味い。
「安心しろ、カイン。土のクリスタルなら持って行くさ」
「そ、そうか。それを聞いて安心した」
会話の主導権が何時の間にか入れ替わっている。一連の会話を聞いていたヤンとテラは、セシルの親友である事の苦労を垣間見、カインに思いっきり同情していた。二人をよく知るシドは何時もの事だと溜息をついている。
「では一体何が不満なんだ?俺が姿を見せないのが許せないのか?」
「判ってないな、カイン。僕が言っているのはそんな些細な事じゃないさ」
セシルはやれやれと肩をすくめた。
「空を飛ぶ乗り物なら、別に飛空挺じゃなくてもいいんだろ?」
「そ、それはそうだが……。はっ!?まさかお前……」
あせるカインをよそに、セシルは勝手に城を出て行った。
空飛ぶ機械仕掛けの塔・ゾット。その最上階では、ゴルベーザとローザが向かい合っていた。
「もうすぐセシルがここにやってくる。奴をもてなすために、こちらが周到な準備をしてある事も知らずにな」
「何ですって……!」
うつむいていたローザがはっと顔を上げた。
「今生の別れになる前に今一度恋人の姿を拝ませてやろう。しかとその目に焼き付けておくのだな」
ゴルベーザは片手を挙げた。ローザとゴルベーザの間に、トロイア上空の画像が映し出される。
その中にセシルは居た。何かを必死に繰り返し叫んでいるようだ。
「チョコ!どこに行くんだ!?そっちじゃない、そっちじゃ!」
セシルは黒チョコボに乗っていた。黒チョコボとは黄色いチョコボの亜種で、空を飛ぶ能力を持っている。黒チョコボには二つの習性があった。
1. 森の中にしか着地できない
2. 一旦着地した後に乗ると、今度は住処の森の勝手に帰ってしまう
セシルたちはトロイアまで黒チョコボで帰って来た。よって、黒チョコボはその習性に従って、住処に戻ろうとしているのである。
赤い翼に乗っているカインは、猛スピードで北上を続ける黒チョコボの後ろ姿を呆然と見送っていた。
「…………」
「…………」
ゴルベーザとローザはしばらく固まっていた。ローザより早く我に返ったゴルベーザは、慌てて空のビジョンを消した。
「い、今のは手違いだ。あれは現実ではない。幻だ、幻」
自分自身に言い聞かせるように言った。
「セ~シ~ル~」
それは地の底から響いてきたような声だった。ローザは般若のような形相をしている。こうなるとバロン屈指の美女という称号も台無しである。
ドカーン!ズオオオオ……
ヒュンヒュンヒュンヒュン
その日、トロイア北の上空は青白い光に包まれ、矢の雨が降っていたという……。
-END-