「ぼくのせいで……」
昔からの仲である暗黒騎士は、ただ俯きながら呟いた。
「何度言えばわかる?
お前のせいではないさ」
バロンを発ってから3日。急場しのぎにたてたテントが
風に吹かれて揺れている。
目標は、ミストの洞窟。幻獣討伐に向かう前の晩のこと。
「やはり陛下の様子がおかしいと思わないか?」
セシルの言葉に、俺はそっけない返事をした。
「陛下も人間だ。昔と今が違おうが、不思議はないと思うが」
「しかしカイン、最近の赤き翼は……」
セシルの表情が曇った。おそらく、少し前の――
「ミシディアでのことか?
あれは素直にクリスタルを譲らなかったからだと聞いているが」
口ではそんなことを言っていても、内心はセシルと同様、混乱している。
しかし今、彼にその意思を伝えても無意味。とりあえず、
平行線で相手があきらめるのを待つ。――それが得策だと思ったからだ。
「でも、彼らは無抵抗だったんだ!それなのに…それなのに!!」
「落ち着け、セシル。……今ここで、何もせず
愚痴をいいあって、それで事態が解決するのか?
先に寝ていろ。見張りは俺1人で十分だ」
俺がそう言い放つと、セシルは申し訳なさそうな顔をした。
いかん、少し強く言い過ぎたか。
「わかった……。おやすみ、カイン」
「ああ、少し頭を冷やすといいだろう」
セシルはやはり、陛下のことを本当の父のように感じているのだろう。
バロン周辺の森に捨てられていた彼は、当時ナイトとして名を
馳せていたバロン王に拾われた。
7歳頃に父をなくし、陛下に育てられた俺とは違い、
セシルには追いかける父の背中がない。
似てはいるが、まったく境遇が違うのだ。
心から尊敬していた人の態度が、急に変わったとなれば
受けたショックは相当のものだろう。
――この続きを考えるのは、討伐を終えてからにしよう。
ふと、空を見上げてみた。
……数多の星々が輝いている。
いつもと変わらないふたつの月がやわらかい光を放っている。
刹那、ひとすじの輝き。……流れ星だ。
次々と通り過ぎてゆく美しい光景に、思わず見とれていた。
「セシル、流星群だ」
返事はない。どうやらもう寝てしまったようだ。
「さて、そろそろ俺も寝るとするか…」
しかしもう少しばかり、……夜空を見上げていることにした。
|