「
セフィロスっ! なぜだ! なぜこんな事を!?」「…クラウドか……クックックック…」
今俺の目の前には、常人では持ち上げる事すらできない正宗をもったセフィロスが立っている。
神羅カンパニーのソルジャーの中でも最高の戦功を上げ、自他共に認める最強のソルジャー「セフィロス」。
どう考えても俺が勝てる相手じゃない。
「なぜだ…? あんたを…あんたを信じてたのに……尊敬…してたのに…」
「尊敬? 信じるだと? そんなものが何になる?」
「……よくも…よくもっ!」
俺はソルジャー1stになるどころか、ソルジャーになる事すらできなかった。そんな俺がこの英雄セフィロスに勝てるわけもない。それでも今、この目の前の男を許す事はできなかった。
「ふん…ソルジャーにすらなれない男が…このセフィロスに何ができる?」
セフィロスは不敵な笑みを浮かべたまま、俺の真正面に立っている。
じわりと間合いを詰めた。正宗を下段に構えて、すり足で一歩ずつ俺の方へと近づいてくる。あまりの戦慄に背筋が凍りそうだ。
「ふん…その剣でどうする? 俺を許さなければどうするんだ?」
「黙れっ! まだ……まだ4日前に俺の
ワカメソバにケチャップを入れた事は許せる! あれはあれでそこそこ食えたし…それでも…これだけは許さん!」「そう騒ぐな。たかだか
クランキーチョコ一枚で」「
言うなぁっ! それ以上何も聞きたくないっ! それは…それは俺にとっては虎の子の一枚なんだ! 訓練の後のクランキーチョコが俺の生きがいなんだ! それを…それをっ(涙)!」ここ神羅カンパニーの社員食堂では、場違いなほどな修羅場が繰り広げられている。
原因は一枚のクランキーチョコ。たまたま俺のバッグを見つけたセフィロスが、その中に入っていたクランキーチョコを一枚全て食べてしまったのだ。
神羅カンパニーの訓練はかなりハードだ。はっきり言って疲れる。帰りに歩きながら寝そうになった事も何度かある。
そんな時、俺の体にひとときの活力を与えてくれるのが、この一枚のクランキーチョコだ。毎日訓練前に近くのコンビニで買っていく事が、俺の日課の一つとなった。そのお陰で、コンビニで毎朝6:30から昼の1:00まで入ってる
おねーちゃんも、俺のこのツンツン頭を見て、後ろでまとめた髪からシャンプーの香りを漂わせてにっこり笑いながら
「いらっしゃいませ。…クランキーチョコ、お好きなんですね(にこっ)」
「え? あ、いや…まぁ……」
「私も好きなんですよ。…あの、神羅の方ですよね?」
「そうですけど…どうして?」
「あの……(もじっ)…神羅の制服を着てるところを…何度かこの近くで…そのっ……(
赤面)」「えっ?…(
こちらも赤面)……そ、そうだっ! そろそろ行かなきゃ!」「あっ、お客様! おつりが…」
「そこの募金箱に入れておいて! それじゃっ」
「……お客様…(
ぽっ)」
なんていうやり取りが
もーちょっとでできそうなくらいになってきた。それぐらい毎日毎日食っていた…もはや俺の第二の主食といってもいいかもしれない。そのクランキーを…
「よくも…
よくもっ!」「そういうな。まぁ黙って食ったのは俺も悪かった。お詫びといっちゃあ何だが…ほれ、俺がそこの売店で買った
クリフだ。冬しか食えん味だぞ? 最近は広末涼子がCMやってるじゃないか。お前結構好きだろ?」「
こんな物に何の意味があるっ!? 俺が欲しいのは、毎朝6:30から13:00までバイトしてる、『あの人』が俺に手渡してくれたやつだ! 確かにヒロスエは好きだが、お前が買ってきたクリフなんぞに興味はないっ!」「やれやれ…駄々っ子は相変わらずだな。そんな事じゃいつまで経ってもソルジャーになれんぞ」
半ば呆れ返った表情で正宗をテーブルに立てかける。
悔しいがセフィロスと俺じゃあ
給料が全然違う。いつも俺がうどん・そば定食で、肉うどんにしようか、それともかき揚が乗った天プラそばにするか、はたまた節約のためにワカメソバにしようか迷っている時に、セフィロスは余裕で焼き肉定食なんかを頼んだりする。ここら辺は悔しいがどうしようもない。今だってセフィロスの目の前には「オージービーフフェア! なんとサイコロステーキ定食が850円!」と銘打たれたサイコロステーキがある。はっきり言って美味そうだ。しかも、サイドディッシュとか言って、追加で
牡蠣フライを頼みやがった自慢じゃないが、牡蠣フライなんてここしばらく食ってない。それを…それをこれ見よがしに俺の目の前で…
「ん? どうしたクラウド?」
「セフィロス……お前とは
いつか決着をつけてやるっ! いつか必ずだっ!」荒々しい足音で社員食堂を出る。
その後には、半ば呆気に取られて牡蠣フライを箸でつまんだままのセフィロスが一人残されていた。
思えば、俺とセフィロスの戦いはあの時から始まっていたのかもしれない……
(この思い出話の後、ティファの
マジツッコミが入り、クラウドはムチウチ症と全治二ヶ月の打撲を負ったという)