(だっ、ダメよクラウド! お願い! そんなところ……)

突如、休憩室にティファの押し殺したような声が響き渡りました。

(だめぇっ! そ、そんな…イヤだってばぁ…)

「ななななな…何してるのよ二人ともぉ……」

休憩室の外では、鼻血を出しながらもユフィが耳をべったりとドアにつけてます。

 

ここは神羅ビル二階にあるスポーツジム。どうせビルに入ったんだから、ちょっと一汗流していこうかという事でメンバー揃っていい汗を流していました。

特にバレット、何を勘違いしたのかさっきからプロテイン飲料ばかり飲んでいます。その内鏡の前で暑っ苦しいポーズでもとるつもりなんでしょうか。

「おうおう、やっぱり筋肉つけるにはプロテインとバナナだよなぁ

なんてほざきながらダンベル(一つで30Kg)を軽々と持ち上げています。

さて、そんな和やかムードの中、どこを探してもクラウドとティファの二人が見つからない事に最初に気づいたのはエアリスでした。

「ねぇユフィ、あの二人は?」

「え? いない?」

「うん。どこ探してもいないのよ。弱ったなぁ、私ちょっとティファに頼みがあったんだけど…」

「ふーん。…探してみよっか」

「そうね。それじゃユフィはそっちの方お願い」

「ん。OK」

とゆー事でユフィちゃんは足取りも軽く、真っ先に男子更衣室に向かったのでした。

 

「まさか…まさかあの二人……」

(だっ、だからクラウド……お願い……)

何恥ずかしがってるんだよティファ。幼なじみだろ?)

(でも……やっぱり…)

いかにも甘ったれたようなティファの声。

たとえて言うなら、ルパ○を騙すときの峰不○子の声とでも言いましょうか。あきらかに「修羅場」です。

そう、いまだ未成年(かつ最年少)のユフィちゃんにとっては修羅場以外の何者でもありません。とりあえずポケットからティッシュを取り出して鼻に当てます。

(ちょ、ちょっと……そんなところ……)

(ほら、肩の力抜いて…)

クラウドの声も、今までユフィが聞いた事もないような優しい「口説き」声です。もしクラウドがユフィにこの声を使って口説いていれば、恐らく十八歳未満のユフィはものの2.28秒でオチていることでしょう

ドア越しにティファとクラウドの会話を聞いているうちに、いつのまにか鼻息が荒くなっていました。鼻血を出しながら鼻息を荒くするのも、実は結構器用な真似なのですが、まぁそこら辺は気にしない、ということで()

(じゃあ……取るよ?

(あっ……クラウド…)

「取る…? 取るって…何を?

とーぜんこのシチュエーションで「取る」といったら、ユフィに想像できる事はたった一つです。

「そりゃ…そりゃあティファはデカいわよ。エアリスだってそこそこあるし……でもねぇ、でもあたしだってねぇ…あたしだってまだまだこれから…」

とブツブツ呟きながらちらりと自分の胸に視線を移します。

まぁなんて薄いんでしょう。それこそ「背中かと思ったよ」とでもいわれそうなくらいです。いやしかし、世の中には「それがまたいいんだ」という人もいます。それがユフィにとってはせめてもの気休めとでも言いましょうか。

(ほら、手をどけてくれないと…取れないだろ?)

(だって…)

(……大丈夫。ほら、手をどけて…)

(………うん…)

「か、佳境に入ってきたわね…」

「うん……ってエアリス!?

しーっ! 聞こえちゃうじゃない!」

「ご、ごめん……じゃなくって! どーしてエアリスまで…?」

「だ、だって…ユフィってばさっきから鼻血だしながら一人でブツブツ呟いてるんだもん。気になるわよ」

「…見てたの?」

「一部始終ね。それより……これって……やっぱり?」

「…だと思うよ」

(…こっちも取るよ……ほら、そんなに掴んでちゃ取れないじゃないか)

(も、もう……)

(もう逃げ場はないんだ…素直になりなよ)

(だ、だってクラウド……)

もーこの辺からはさすがにヤバいだろうと思ったユフィとエアリス、二人でタイミングを合わせて、鍵もかかっていないドアを蹴破りました。

何やってんのよ二人ともっ!!

「そうよっ! 管理人さんがあれほど『18禁はダメ』って……」

最初に怒鳴り込んだのはもちろんユフィ。鼻血で顔半分を真っ赤にしながら言ってもほとんど説得力はありません。

次にあらわれたのはエアリスでした。が、どんどん語尾が小さくなっていきます。

 

ドアの空いた休憩室、そこにいたのは…

「な、何よ二人とも? どうしたの?」

「…二人ともそんなに鼻血出して、大丈夫か? ピーナッツでも食いすぎたか?」

「え? …え?」

「…あれ?」

休憩室の中にいたティファとクラウドは、まるで何が起きたか分からないような顔をしています。しかも、「取られた」はずのティファも、きちんと服を着ていました。そして、クラウドとティファの間には…

「まぁいいか。それよりティファ、王手だぞ。どうする?」

「ちょ、ちょっと待って……」

うーん、と腕組みをして考え込むティファ。

そう、このお二人さん、詰め将棋の真っ最中だったのです。

「えぇー? これってえげつないわよぉ」

「ほらほら、どうする?」

「えっと……桂馬がここに来ても…あー、だめだわ、飛車に取られちゃうし……歩をここに打ってもあと2手で詰んじゃうのよね。これ、逃げ場ないじゃない」

「当たり前だろ? 何のためにここまで勝負を伸ばしたと思ってるんだよ」

と、まるでユフィとエアリスの事など眼中にありません。この二人にあるのは、ただ将棋盤だけなのです。

「あ……あんた達ねぇ~…」

「ちょっとティファ! どーして将棋であんな色っぽい声出さなきゃいけないのよっ!!」

「え? 私そんな声出してた?」

「出しまくってたわよ! それこそ「いや~ん」とか、「…あっ…」とか! もー何やってるのかと思ったじゃない!」

「何って…どこからどう見ても将棋じゃないか」

「将棋なら将棋らしく! もっと健全な会話しなさいよっ! クラウドもなぁにが「それじゃ…取るよ?」よっ!」

そんな事言われても、とでもいいたげなクラウドとティファ。

そんな二人の様子を見て怒り心頭に達したユフィちゃん、ついにキレました。

ふふふふふふふふ……あんた達…二人ともここが墓場よぉーーーー!!

森羅万象発動!!

クラウド達にとっては、完全に逆ギレなのですが、ユフィちゃんはそんな事お構いありません

彼女は「期待を裏切られた」という、ただそれだけの理由で歩くニトログリセリンと化してしまっています。

「だからなんの期待なんだよ!」

「そりゃあユフィも年頃だし…ねぇ?」

「ねぇ? ってそんなのんきな事…」

一瞬にして神羅ビル2Fのスポーツジム「フィットネス神羅」は壊滅状態になりました。

その十分後、警官隊と警備兵、ソルジャー2ndと救急隊員が駆けつけた頃には、クラウド達一行がすでに姿を消していた事は言うまでもないでしょう。

 

ちなみにユフィちゃん、この事件の後からティファを見る目が少し変わったそうです。


パステル・ミディリンのトップページに戻ります