【第15話】
地獄絵図
世の中に地獄絵というものがあるのだとしたら目の前に広がる光景がそうなのだと思う。体には5人の血の臭いがしみついていた。 ぼく達は再度応接間に戻った。香山さんは、夏美さんの部屋にいたままである。一人では危険だが、香山さんはその場を動かなかった。あれだけ、みんなといることをイヤがった啓子ちゃんも応接間にきた。夏美さんも、可菜子ちゃんも鍵が掛けられている部屋で殺されていたのだ。密室殺人。だが、別の人物がマスターキーを持っていれば密室殺人はいつでも行える。しかし考えても現実離れしている出来事もあった。村上さんの死。悲鳴が起き、わずか10分の間に体をバラバラにされ杭を埋め込まれる。・・・・・これは人がやったことだとは思えなかった。 かまいたちによる、神の裁き。先ほど村上さんが言っていた言葉が頭によぎった。 ぼく達の思考回路はおかしくなっていた。度重なる惨殺死体。現実離れした出来事。もう何も考えたくなかった。応接間の時計の刻む音だけが静かに聞こえた。 真理の白い顔は涙に濡れ、目がはれ鼻は赤くひどかった。啓子ちゃんも目が真っ赤だった。友人が殺された苦しみ。俊夫さんは、妻のみどりさんの消息が未だに不明で肩を落としている。小林さんは腕を組んで考え込んでいる。「すいません・・・・みなさんに一つ聞きたいことはあります」 ぼくは真理の言葉を聞いてからずっと聞きたかった質問をしようと思った。小林さんと、俊夫さん、啓子ちゃんが重そうに顔を挙げる。「俊夫さん、それと啓子ちゃん・・・足か、お腹、または背中に・・・・・アザができたことはありませんか?」 ぼくの唐突の質問に三人は唖然とした。ぼくは、真理から聞いた聖痕の話をした。小林さんと俊夫さんと啓子ちゃんはぼくの話を黙って聞いていてくれたが、話し終わったあと、俊夫さんは自分のTシャツをめくった。すると俊夫さんのお腹には、鞭でうたれたような細いアザが何本もあった。「やはり・・・・・・」 海に行ったとき、俊夫さんはずっとTシャツを着ていたのでわからなかったのだ。 啓子ちゃんはサンダルを脱いだ。すると、真理と同様、足に杭に打たれたようなアザがあった。俊夫さんも啓子ちゃんも聖痕持ち主だった。「私にはないが」 小林さんは自分に聖痕がないことに少しほっとしたようだがぼくと真理にも聖痕があることを伝えると、小林さんの顔は引きつった。「小林さんは、元々この館に招かれたわけではありません。これは予想ですが、聖痕を持つものがこの館に招かれたのではないでしょうか」 小林さんは真理から話をきいて半ば強引に付いてきただけなので正式な招待客ではないのだ。「つまり・・・・・聖痕を持つ者への・・・神の裁きってやつかい・・・・」 俊夫さんがつぶやいた。「それは・・・・わかりません。美樹本さんや、正岡さん、村上さんの死体を調べてはいないのでなんとも言えませんが、しかし今ここにいる招待客全員が偶然聖痕を持っているというのは信じられないことです。しかも密室で、殺人が起きるということは現実離れしすぎています」 ぼくの言葉にみんなが沈黙する。「人間、罪をもっていない奴なんていやしない。必ず人間は罪を犯すさ。でも・・・・・・何でぼくらなんだ。何故僕達が死をもって償なわなければいけないんだ。死をもって償うほどの罪を犯したっていうのか・・・・」 俊夫さんは力なさげに言った。「もし・・・・神の裁きなのだったら・・・どこに逃げても同じなのかもね・・・・」 啓子ちゃんももう生きようとする力を失ったかのようにつぶやいた。小林さんはかける言葉もなく、うなだれている。「キヨさんは・・・聖痕がありますか?」 ぼくはキヨさんにも聞いてみた。「いえ・・・わたくしにはそのようなアザはございません。ただ・・・・先ほどの矢島様の話を聞いて一つ思いだしたことがありました。 三日月館に書庫があるのですが、その中にキリスト教関連の本があったかと記憶しております。見てみれば、何かわかるかもしれませんが・・・・・」 そういえば、ぼく達が館内を探索したときに書庫があったのを思いだした。「そうですね、何かわかるかもしれません。行ってみます」 少しでも不安要素を取り除きたかった。もしかしたら神の裁きから抜け出す方法が記述されているかもしれない。「私も行くわ」 真理も立ちあがる。「私も行こう」 小林さんも立ちあがった。しかし、俊夫さんと啓子ちゃんは立ちあがらなかった。「ぼくは・・・ここにいるよ。みどりの帰りを待っている」 俊夫さんは気だるそうにぼくに顔を向けた。半ば、みどりさんのことも、もう死んでいると思っているのかもしれない。啓子ちゃんも生きる希望もなく、何も言わなかった。「わかりました。俊夫さんと啓子ちゃんはここにいて鍵の方は閉めておいてください」「あぁ・・・わかった。神の裁きだったら無駄のような気もするが一応閉めておく」
第16話 書庫
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