【第110話】

本音と建前


傭兵としてイシスに滞在するため、

マヨイから説明を受けた。


ゼネテスがさっそく彼女を口説こうとしたが

親方にとめられた。

マヨイは俺達を宿舎の方に連れていった。




「みなさん、イシスに滞在中はこちらの宿舎をお使いください。

 兵士と共用の場所になってしまいますが」


「わかりましたわい」


親方がこたえる。


「本当は皆さんに個別の部屋を提供できればよいのですが

 イシスでは傭兵を雇うことが今までにありませんでしたので」


「それはそうでしょうな。

 魔王が現れるまで、人間同士で争って

 他国を占領でもしようという考えがない限り

 街の治安を守るだけなら兵士だけでことが足りるでしょうからな」


「えぇ、そうなんです。

 また前の戦いで兵士達も少なくなっており、そういう意味では

 スペースはあります」


「これだけの大所帯だと宿に泊まるだけでもお金がかかりますから

 大助かりですわい」


親方のしゃべりはさすがだ。

マヨイに俺達が盗賊ではなく、傭兵にきた戦士であるとすっかり思い込ませている。

どのような話題にもすぐに対応できるし、

人に不快感を与えない話し方も熟知している。

さすがサマンオサで長く外交をやっていただけのことがある。


俺達だけだと最初の交渉だけでも、言い方がぶっきらぼうになったりして

相手に不愉快を与えることもあるし

普段交渉する人間が裏の人間が大半なので、相手も言い方が似てくる。


「ではワシらはここで待機をしておるので、何かあったら

 知らせてください」


「わかりました」


マヨイは宿舎を出ていった。




「とりあえずは一休みできるな」


仲間がほっとして、床に座りこむ。


「休んでおる暇はないぞ」


親方の目が鋭くなった。


「兵士の宿舎に、前の戦いで生き残ったものがいるじゃろう。

 奴らから、この地域に生息したり、

 前回戦った魔物などがいるから、詳しく聞いてくるんじゃ」


「なんで、そんなこと聞くんだ?」


俺は親方に質問をした。


「これは戦じゃ。

 戦は力だけでは勝てん。

 勝てたとしても多大な犠牲が強いられる。

 戦を制するには、自分の強さ以外に相手のことを知る必要がある。

 相手の弱点を知っていれば、楽に魔物を倒せる。犠牲が少なくなる。

 逆に情報を知らなければ、しなくててもよい苦労をすることになる。死人が増える。

 情報を制するものが戦場では強い」


知略的な親方らしい答えだった。


戦いで強くなるには鍛錬が必要であるということも言っていたが

肉体的な強さ以外に知識もつけろとも常々言っている。


ロマリア時代にいたときは、兵士それぞれが自分の力を磨くことしか頭になく

俺も例外ではなかった。


親方は騎士団出身だから、そういう意味では

俺たちに近い考えを持っているはずだ。


しかし団長や外交、盗賊の棟梁など人を束ねることをやっていると

情報を否応でも仕入れ、活用することになる。


俺にはまだ実感できないが、情報を知ることで

戦略が何倍も広がると言っているのだろう。


親方は俺に棟梁になれ言っていたが、今の俺にはとても無理そうだ。

だが学ばなければ親方の強さまでたどりつかないのかもな。


「しかし、ロマリア兵が来るかまで

 持ちこたえられるかどうかが勝負のカギとなると言っていたが

 逆に言えば、ロマリア兵さえくれば

 凌げるほどの魔物の量ということなのかな?」


「先ほどの話しだけでは断定できんが、そうとも考えられる。

 だが・・・」


親方が黙った。


「どうしたんだ、親方」


「ロマリア兵はさほど期待しないほうがよいかもしれん」


「どういうことだ?」


「ロマリア王がどこまで兵士を派遣するのかが疑問じゃ」


「前にも言っていたが、自国が手薄になるからという話か?」


「そうじゃ。さらに兵士達には砂漠越えをしなければならない。

 ここまで来るのも一苦労だろう」


「そりゃそうだな・・・

 まさか、イシスを見捨てるってことはないよな?」


「それはたぶんないじゃろう。

 救援を求めているのに無視するわけにもいかんからな、

 外交の建前もあるじゃろうて。


 そしてもちろん、ロマリア王も世界の平和は祈っているはずじゃ。

 だがな、昔、お主には話したが国王はまず自国のことを考える。

 自然とロマリアとイシスの国民のどちらを優先に守るかと考えれば

 前者の方をとるだろう。


 しかし自国が手薄になるからといって、少ない兵士を派遣すれば、

 みすみす死に追いやりにいくようなものじゃ。

 ある程度の人間を派遣しなければいけない。

 王としての判断は難しいところだろうな」


「・・・親方の言っていることはっわかるが、なんだか、納得いかねぇな。

 自国だから守る、他国だから守らない、

 同じ人なのに、なんだかおかしくねぇか」


俺はすべての人を救いたいと思うほど善人じゃねぇ。

むしろ、力あるものが生き残って弱者は虐げられる、

それはある程度真理のように思える。

そして俺も子供のころから這いあがってきたんだ。

強くなるかどうかは自分史第だと感じている。


しかし人一人の命には自国と他国関係ないんじゃないかって思う。

それは俺が国という枠にはまって生きていないからか?


親方は俺を見つめた。


「な、なんだよ・・・急に。俺、変なこと言ったか?」


「いや・・・ルーニ、その気持ちを忘れるではないぞ」


第111話 襲撃

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