【第2話】
城への憧れ
行く宛もなく、俺たちは孤児院で育てられた。
そんな生活に疑問を持った同じ孤児のリュック。俺のダチだ。性格が真反対な俺たちだったが、何故かこいつとはあった。
翌朝俺達はいつものように働くため、大人達に連れられ近くの鍛冶屋に来た。この鍛冶屋で俺たちは、大人が作る武器作りの手伝いをする。
高熱で溶かした鉄を容器に入れ大人達は剣を鍛えるため、密室で鉄を打ち続ける。
部屋は40度以上の暑さとなり、息をするのも苦しい。鉄と汗のにおいが充満して、いつになっても慣れない。
俺たちの仕事は、鉄を作るために冷やす大量の水を運んだり、大人たちが食べる食事を作ったりすることだった。
俺達は子供の特権「遊ぶ」ということを知らなかった。
朝から晩まで働く。飯を食うために、雨風をしのぐ場所を得るために。
昼の仕事が終わり、休憩をもらっていて俺たちは各自休みをとっていた。
俺の横にはいつもリュックがくっついてきた。
「ふぅ・・・疲れたね」
「あぁ・・・・・
昨日の話だけどよ」
「昨日の話?」
「何かしたいことがないのかっていう話」
「あぁ、それのことね」
「やっぱり金持ちになりたいな。
こんな汚いところで働かないで
うまいものいっぱい食いたい」
「うん、そうだよね」
リュックはにこにこした顔で俺に話をあわせた。なんか、こいつと一緒にいるとホッとするんだよな。
「おまえは何かなりたいことあるのか?」
「う~ん・・・・・・」
「おまえ、人に聞いておいてないのか?」
「う~んと・・・う~んとね
ボク、お城の宮廷魔導師になりたいな」
「宮廷魔導師ってなんだ?」
「お城に仕える魔法使いのことだよ」
「ほぉ~」
「ボクたち、ここからほとんど外に出たことないじゃない?
周りに何もないし、ここがどこかもわからないし。
だいたい外の世界もほとんど知らないから。
それでまずお城を見てみたいんだ」
「城か。俺も話は聞いたことあるぞ。
世界にはお城っていっぱいあるんだってな。
そこには王様っていうのが住んでいるらしい」
「うんうん、それでいっぱい兵隊さんが守っているんだって。
お城にはいっぱい本があるからそこで本を読んで
いっぱい勉強して魔法を使えるようになって
魔法使いになりたい」
確かにリュックは本好きだったな。この孤児院にも少なからず本はある。俺は興味がないのでまったくさわったこともないがリュックは暇を見つけては、ぼろぼろになった本を眺めているのが好きな奴だ。
「城に行くんだったら俺は王様になりたいな」
「アハハ、そうだね」
「もっともこんなところにずっといたら
一生無理だろうけれどな」
と急に現実的な話をした。
「・・・・・・・」
ニコニコしていたリュックの顔が急に沈んだ。
こいつはすぐにへこむんだから。
しかし根はすごくいい奴だし、こいつは俺と違ってこんなところにいる奴じゃないと思う。
こいつなら、本当にお城に生まれていたらきっと宮廷魔導師やらなんでもなれたに違いない。
神は何故こんないい奴をこんなところにいさせるのだろう。
いや・・・・・何故人間は生まれつき平等じゃないんだ。俺達は何故・・・・物心がついたときからこんなところで過ごさなければいけなかったんだ。
俺達は外の世界は知らない。しかし世の中には俺達と違って、家庭もあるし、城の中で幸せに暮らしている奴がいることくらい知っている。
ケッ・・・・本当に不公平だぜ。
リュックの顔を再度見てみるとこいつはまだ下を向いてうつむいていた。
ふぅ・・・・・・
俺は少し以前考えていたが、一人で実行に起こすの気にはならなかった一言をリュックに言ってみた。
「抜け出すか?」
「え?」
「昨日の話だよ。マジで言っているんだ。
”ここ”を抜け出すか?」
俺は急にマジメな口調で話した。
「で、でもそんなことしたら・・・」
「なんだよ、おまえが外の世界を見てみたいいったんじゃないか」
「そ、それは見たいよ!」
「以前ちらっと俺も考えていたけれど
そのときは抜け出すことはやめた。
一人で抜け出すのも怖い気がしたからな。
だが、もう一回考えてみた。
俺はどっちでもいい。
ここにいればとりあえず飯は食えるからな。
だが、ここから抜け出したいとも前々から思っていた。
だからおまえがここを抜け出したいっていうのなら
俺も付き合ってやる」
「そ、そんなこと突然言われたって・・・・」
「どうする?」
俺たちが他の連中に聞こえないように小声で話していたら
「おいおまえたち、もう休憩時間は終わったぞ!」
大人達の声が聞こえた。
立ち上がる俺たち。
「じゃぁ、夜までに結論だせよ・・・わかったな?」
リュックに小声で言っておいた。
「う、うん・・・・・・」
第3話 リュックの決断
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