【第77話】 尊敬
魔王復活と人体実験組織の関連はあるのか。
俺は船の中で考えたが、答えは出なかった。テドン近くの港に行くと、人がまったくいなかった。俺達は情報を得るために、港に散った。
日没が近づき、俺は集合地に戻った。情けないことだがリーダーのくせに、なんの情報も集められなかった。人がいないのだ。
ただ気がついたのは、魔物に港が荒らされた形跡はなかったこと、しかしどこも慌てて街を出ていったように荷物の大半がなくなってたことだ。
俺が集合場所に来ると、見知らぬ人間が一人いた。どうやらラゴスが捕まえてきたそうだ。ラゴスが連れてきた人間は大きな袋を持ちこれから旅に出るような格好だった。
「どうやら、今テドンの村は魔物に襲われているそうですぜ」
ラゴスが俺にそう言った。
「何!?」
「詳しくはこの男に聞いてくだせぇ」
「テドンが魔物に襲われているというのは もしかして先日の魔王と関係あるのか?」
俺は男に質問をした。
「俺にも魔王の声は聞こえた。だがテドンを襲っている魔物が魔王と関係あるかどうかはわからん。
しかしテドンの村が魔物に襲われたのは事実だ。 港の人間は、テドンに救援にいったか
この港から逃げたかのどっちかだ テドンが滅ぼされたら、この港も危ないからな」
「だから、この港は誰もいないのか」
「そうだ」
「それともう一つ聞きたいことがある。 魔物の中に人間のようなものがいたか?
例えばゾンビであるとか」
「俺は実際に魔物を見ていないからわからない。
なぁ、もう行っていいか?」
男はそわそわしながら、俺に言う。
「あぁ。すまなかった」
俺は男に少しばかりの銀貨を渡した。男は無言で受け取ると船のほうに向かった。
「いよいよ雲行きが怪しくなってきましたね…」
ラゴスが顔をしかめながら俺に言う。
「あぁ…」
「どうしますかい?」
「港ではこれ以上情報は集められないな。 危険だが、テドンに向かう」
「わかりやした」
「一人は親方に報告をしてくれ」
俺は仲間の一人に、シャンパーニの塔に戻ることを指示した。今親方はイシスにいるころだが、そのうちに親方かゼネテスが戻ってくるだろう。
今、テドンで起きている情報を伝えていく必要がある。人数を減らしていくのは、残っている者にはつらいが少しずつ人を送り返せば、仮に全滅しても、それまでの情報はシャンパーニの塔の人間には伝わっていくはずだ。もし、その後、残った者が戻らなければそこで何かが起きたということなのだから。
盗賊流の情報の確実な伝え方である。親方から教わった方法だ。
親方は、「情報」と「人の心」というものを何より大事にしている。シャンパーニに来た時は、ただ親方の強さに惹かれ、そして強さを越えてみたいと思っていたが親方はそれ意外に、人をどのようにあつかったらよいか、情報はどのようにしたらもっとも効率よく使えるかなどを熟知していた。
人間的に学ぶべきことが親方からたくさんあり、今では心の底から親方のことを尊敬をしている。ロマリアにいたときに王に仕えるのがイヤで、シャンパーニに来た俺だったがまさか俺が心変わりをするとは当時思わなかっただろう。
だから、この仕事は親方のために最後までやりとげたいし、俺を以前利用した組織を調べたいという思いもあった。
「よし、テドンに向かうぞ!」
第78話
気遣い
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