【第79話】 縄抜け
灰色の騎士に襲われた俺達は各自でテドンに向かうことにした。
しかし突如俺の体はベギラマにより自由を奪われた。全身からは皮膚のやけるイヤな臭いがして俺は瀕死の重症を追う。そこで俺の意識は途絶えた。
冷たい…俺は体が冷えていく感覚で目を覚ました。上半身は裸になっており、どうやら石床のようなものの上に寝ていたようだ。
俺が意識を取り戻した時、周りは真っ暗だった。一瞬地獄かと思ったが、体を動かそうとした瞬間俺の全身に激痛が走った。
「クッ…」
あまりの痛さで声が出ない。だが、痛いということはまだ俺は生きているということだ。
ここはどこだ?どうやら森の中ではなさそうだ。俺は暗闇の中で目を凝らすと、暗い独房のような部屋だった。
俺は苦痛に耐えながら身体を動かそうとした。しかし手足はロープで縛られ、身動きができない。手のロープは背中側で縛られており、足にはおもりの着いた鎖がつけられていた。完全に囚人扱いだ。
ここが例の組織なんだろうか。であれば、俺はこれから人体実験に使われるため、囚われた、そう考えるのが自然だ。
俺はこれからどうするか、考えようとしたときに遠くから足跡と共に明かりが見えてきた。
そして、だんだんとその明かりが大きくなってくる。
鍵の音が開くような金属音がした後、一人のばあさんが入ってきた。先ほど俺にベギラマをかけた魔女に違いない。
”目を覚ましたかい”
俺は何も答えず、憎々しげに魔女を睨んだ。
”あとの二人の方はまだ意識を取り戻さないようだね”
魔女がそう言うと俺の隣を見た。そこにはウッソという、俺の盗賊仲間が俺と同じように縄で縛られていた。また少し離れたところには、ラゴスが横たわっている。
”まぁ、良い。そのうち目を覚ますだろう。 そうしたら、おまえ達においしいご馳走を食べさせてやるよ。 フフフ…”
魔女はそう言うと、また牢屋のカギを閉め出ていった。俺は芋虫のように地面を這い、ウッソの隣に行こうとしたが足についている鉄の鎖が重すぎて、近づくことができなかった。
俺は大声でウッソを呼んだ。
「おい、ウッソ。起きろ。 大丈夫か!?」
「ウッ…」
ウッソはうめき声をあげる。
「ウッソ、しっかりしろ」
何度も呼びかけると、意識は朦朧としているもののウッソは俺の声に反応した。
「ルーニ…か?」
「あぁ、どうやら俺達は捕らえられたらしい」
「そうか… ルーニ…体中が痛ぇよ…」
「俺もだ… だがここにいたら、俺達はどうやら人体実験にされそうだ。 なんとかして逃げ出さないと」
俺は縄抜けの術を試みようとした。以前、ロマリアで俺とリュックが金の冠を盗んだときに親方に囚われ、ロープで縛られた。
あの時は親方も普通ではほどけないような結び方をしていたので脱出もできなかった。しかし今回のロープは普通の結び方だ。魔物達もロープの結び方に関しては素人ということだ。
俺はこの盗賊の組織に入って、親方から盗賊の技術として縄抜けのことを知識として習っていた。
体の関節をはずし、ロープを脱出することができるという方法である。慣れた者であれば、自分の関節を自由にはずすことができるようだが大変危険であり、やれば全身に苦痛を伴うので試したことはない。
しかしこの場にいれば、間違いなく俺達は実験に使われてしまう。
俺は腹筋の要領で、上半身を起こした。その後、思いっきり左の肩を床にたたきつけた。
「グワアァ!!!!」
ただでさえ、全身火傷で苦痛なのに肩にはそれ以上の痛みが走る。
「何やっているんだ!ルーニ!!」
突然の俺の行為に驚くウッソ。
「なんとか…縄抜けをしようと…試みているんだよ」
俺は痛みをこらえながら、ウッソに答える。だがまだ肩の関節ははずれていないようだ。
俺は再度上半身を起こし、再度右肩を石床に叩き付けた。
「グワアァ!!!!」
「やめろぉ!!!」
俺はウッソの声を無視して、また右肩を石床に叩き付ける。
「そんなに叩き付けたら、肩の関節が外れる前に 肩の骨が粉砕されるぞ!」
「それでも…かまわねぇ。 そうすればこの縄から抜け出せるかもしれねぇ!」
第80話 緑の液体
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