【第83話】 皆殺し
ラゴスは俺を殴り、首を絞めてくる。
俺は何度もラゴスに呼びかけたが、ラゴスは正気を取り戻さなかった。自分の仲間が目の前で魔物にされ、その仲間に殺される。俺の頭の中で何かが切れた。
「ウァァァァアアァアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺は絶叫をあげながら、首を絞めるラゴスに思いっきり頭突きをした。ラゴスは突然のことで、吹き飛ばされる。俺の首から手が離れた。
俺は頭に血を流しながら、両腕に力を込めた。左肩は既に脱臼か骨折しているが、俺は痛みすら忘れるほど怒りで我を忘れていた。
力拳が浮かび出て、血管が浮き出てくる。切れかけた手のロープがブチブチと切れていく。人間、追いつめられると自分でも信じられない力が出てくると言うが今の俺がそうだった。
足のロープも手で引きちぎろうとする。指はロープに食い込み、手の皮はずるむけ、手も血だらけになる。しかし俺はかまわなかった。
力任せに足のロープも引きちぎった。
”コイツ、化け物か!”
”なんて馬鹿力だ!”
”ラゴス、何をしている”
魔女に命令されたラゴスは地面に倒れていたがやがて起きあがり再度俺に襲いかかってきた。
しかし体の大きさは俺の方が遙かに大きい。襲いかかってきたラゴスを骨折していない右肩で力任せに体当たりをした。ラゴスの体が宙に舞う。
さらにそのまま魔女の一人に突進し、右手で魔女の顔を鷲掴みにした。そのままの勢いで牢獄の鉄格子に叩きつける。
”ギャアアアァ!!!!”
血が飛び散り魔女の頭が鉄格子の合間にめり込み、絶命した。
もう一匹の魔女が、我を忘れていたが、すぐに自分の置かれている状況を思い浮かべ魔法を唱えようとする。俺はそれよりも早く、魔女に接近し足についていた鉄の鎖を魔女の首に絡め、絞める。
”…ウゥ…”
魔女は苦しげな声をあげた。
「死ねええぇ!!!!」
今の俺は怒りで魔物と同じ殺戮しか考えていなかった。俺は魔女の首を切り落とすのではないかというほど強く首を絞め、もう一人の魔女の息の根を止めた。
しかし、まだこれで終わりではなかった。吹き飛ばされていたラゴスが、先ほど魔女にはずされた鎖を手に取り背後から俺の首にまきつけてきたのだ。
「アァ…ウゥ…」
俺は苦痛の声をあげながら、鎖から逃れるため牢屋の鉄格子に何度も背中から体当たりをする。
しかしラゴスの鎖はゆるまない。俺の顔はだんだんと紫色になる。
俺はラゴスを鉄格子に体当たりさせながら今度は後ろ向きに頭突きをした。
何度も何度も頭蓋骨が陥没するのではというほど、俺はラゴスの頭に自分の頭を当てた。
そのうち、ラゴスの鎖を持っている手がゆるまる。俺は自分の首にかかっている鎖を引き剥がし、そのまま体を入れ替えラゴスの首を絞める。
「ラゴス…すまねぇ…」
俺は涙を流しながらラゴスの首の骨をへし折った。ラゴスの体は操り人形の糸が切れたかのように、動きも止まった。
第84話 生き残った二人
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