【第93話】 消えた村人
親方はこの組織を作った理由を語ってくれた。
親方の考えには共感できることが多くあった。貧富の差で苦しんでいる人間はたくさんいて、生まれが違うというだけで決まってくる。自分がそうだった。
「ある日のことじゃ。 不作で税金を払うのが苦しい村があり、 村に援助をしたことがあった。
村の人間は大変喜んでおった。
しかし、一ヵ月後村の様子を見ようと訪れてみると 村人は一人もおらんかった」
「村民が消えた? 災害があって、どこかに避難したとか?」
「その可能性もなくはなかった。 しかし、それなら、災害の危険がなくなれば 村に戻ってくるはずであるし、 食料なり、金なり、持っていくであろう。 村はそのままの形で人だけがいなくなっていたのだ」
「たしかに、それは奇怪だな。 もし、魔物などなり、人間なり、襲われれば 争いのあとくらいはあるはずだよな」
「そうじゃ。抵抗のあとが見られなかったということは 抵抗できない状態であった、ということだ。 仮説はいくらか考えられる。
たとえば、村の人間の誰かが人質にされて、抵抗することができなかった、 他には村全体が魔法か何かで 眠らされ、連れていかれたということが考えられるであろう」
「まぁ、確かに考えられるわな」
「ワシはこの村人達のことを調べ始めた。 すると、この事件を境に、いたるところで 小さな村の人間が消えるということが起こったのじゃ」
「何か同じ目的で、村人を誘拐しているってことか」
「ワシは自分の人脈を使い、各地の情報をあつめた。 すると・・・人身売買の組織にあたったわけじゃ」
「そうか・・・それが魔王の手下の仕業だった、 ということか・・・」
「そのときは、魔王の存在まではわからんかったがの。 だが、組織の情報はつかんでいた。 人身売買が行われていたのはお主がワシの組織に入る前のことじゃ。 随分前から、魔王の手下達は この世界を支配する準備を進めていたということじゃな。
あるときは、村人を眠らせ、あるときは金をかきあつめ、人を買った。 ロマリアの金の冠を、お主に盗ませて資金稼ぎをしようとした組織も 魔王の配下であった、ということだ」
「そうだったのか・・・だから、親方は組織を追っていたときに 金の冠の件で俺をつかまえたんだな。 ようやく話しがすべてつながったぜ」
今まではもう十年も前の話なので気にもしてはいなかったが、過去にあったことを思い出して合点がいった。
第94話 老勇者
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