【第94話】 老勇者
親方が金を恵んだ村の1つで
村人が一人残らず消えたという事件があった。
その事件をはじめとして全国の名もない村から人間が消えるということが相次いだそうだ。
結局、それが人身売買の組織であり、魔王バラモスの配下が、魔物を作り出すために行っていたということだ。
「親方が組織を作った理由はよくわかったよ。 だが、どうしても納得いかねぇことが1つだけある。 俺に組織をまかせるって、どういうことだよ」
「ワシが組織を作った理由は話したとおり。 ワシはサイモンをはじめ、全国の勇者達に魔王バラモスが行っている 実情を広め、各国に対策がとれるようにするつもりじゃ。 このままでは、貴族も貧民も、生きるものすべて バラモスに支配されてしまうからの」
「あぁ、親方がやろうとしていることは立派だと思う」
俺は素直にそう思った。一個人ができることはたかが知れている。まして、えたいの知れない、魔王というものと対決しようという物好きはそうそういないだろう。自分が殺されるのが怖いし、魔王の陰謀を阻止したことで誰かからか報酬をもらうわけじゃないからだ。
だが、親方は弱者であり、力がないものこそ、生きてほしいという想いがあり、魔王バラモスと対峙しようとしているのだ。
オルテガやサイモンのような表舞台に名を残す勇者ではないが形は違えども親方は間違いなく勇者であると俺には思えた。
「テドンは、もう間に合わなかったが、 イシスはまだ間に合うかもしれん。 しかし各国の勇者がイシスの救援に来るのは間に合うとは思えんし、 わざわざイシスに来るとも思えん。 まず、自国を守ろうと考えるのが普通じゃろう。 だから、ワシがいってくる」
「親方・・・が?」
俺は驚いた。
親方が武器を持って戦っているところは見たことがないしこの盗賊団を束ねる棟梁として、部下に指示をしているだけだった。
それが、自ら魔物が群がっているイシスにいって戦おうというのだ。
親方が強いのは知っている。それは俺がこの組織に入ったときに思い知らされたしあれから俺も腕をあげ、親方は年を老いたが、その差が縮まったかどうかはわからない。年老いたとはいえ、親方の体が鍛えられているのは明らかだった。
しかし、どれだけ親方が強かろうが、凶暴化した魔物の巣に足を踏み入れるようなもので自殺行為にも思えるのだ。
もしかして、それで親方は俺に・・・組織を任せるといったのか?親方は死ぬ気でいるのか?
第95話 雷神の剣
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