【第96話】 譲れない一線
イシスに向かうことを決意した親方。
勝算があるというその理由は親方がいつも肌身離さず持っている背中の剣。
俺が抜こうと思ったがどんなに力を入れても引き抜くことができなかった。
しかし、親方は軽々と剣をぬいた。
「この雷神の剣にはすさまじい魔力が封じこまれておる。 一振りすれば、小隊が全滅させられるほどのな」
「そんなにすげぇ、剣だったのか。 親方がその剣使うの、見たことねぇよ」
「使う必要がなかったからの。 ワシら仕事は情報集めなど、裏方が主じゃ。 だが、今回は違う。 力押しで来る相手にはこちらも力が必要じゃ。 それが戦争というものじゃ」
戦争。そう、これは人間と魔物の戦争となるのだ。
歴史では聞いたことがあったが、俺が生まれてからは世界で、人間同士の戦争はなかった。
魔物は以前からいたが、数は少なく、人里にもこなかったので、旅の道中さえ気をつければ脅威ではなかった。
だが、テドンが滅ぼされ、イシスが攻め込まれこのままでは世界が魔物によって滅ぼされるだろう。自分達が生き残るために、戦えば、間違いなく殺しあいになり、戦争になる。
「だが、この剣を使ってそれなりの勝算があるとはいえ、 生きて返れる保証はない。 魔物とはいえ、中には十年以上も前から人身売買で 人を魔物にして、兵をふやすような狡猾なやつらもいるからの。
だから、もし、ワシに何かがあったときは、お主が・・・棟梁をやれ」
「・・・親方」
俺は言葉を返せなかった。親方の決意は硬そうだ。
俺は親方にはイシスに行ってほしくなかった。それほど、俺にとって親方の存在は大きくなっていた。親方には、武器や体術、盗賊の技術だけでなく、人間としての考え方なども深く学んだ。
俺は家族というものがいないが、もし父親というものがいるのなら俺は親方に父を感じていたのかもしれない。
だから、俺は精一杯の抵抗を言った。
「俺は・・・棟梁にむいてねぇよ。 それに、もし棟梁にするんなら、ゼネテスの方が適しているよ。 あいつ、むかつくことあるけれど、俺より強いし、いつも冷静だ。 あいつの方が、棟梁に向いているさ」
「おまえには申し訳なかったが、実は最初にゼネテスに話をした。 だが断られたわい。 しかも一緒にいくと、言いだしおって・・・」
親方は渋い顔をした。しわに刻まれた顔がさらにしわしわになった。
「だったら、俺も一緒にいく。 親方には世話になったし、命令はきくつもりだ。 だけれど、今回だけはゆずれねぇ。俺も一緒にいく。 あんたにもし死なれたら、俺は親方を一生超えることとができねぇ」
最後の理由はあと付けだ。とにかく親方には死なれたくなかった。だから、俺も一緒にいって、戦いを見届けるつもりだ。
第97話 似たもの同士
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