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【1、クリスタルの強奪 】

 名君バロンは確かに変わってしまった。
 誰でも気軽に入れた城が、閉鎖的になり、関係者以外は入ることができなくなった。そして今まであった騎士隊の他に、飛空艇部隊「赤い翼」なるものを結成した。文字通り血の色を思わせるような毒々しい赤い船体をした飛空艇である。
 そして優れた能力を持つ騎士に暗黒剣を身に着けさせ、暗黒騎士となるよう命令した。暗黒剣とは、人間の持つ負の感情暗黒の力を取り入れた強力な剣技だが、そのために人間としての温かい感情をなくしてしまい、敵だけでなく自らも滅びていくといういわば恐るべき禁呪法である。
 この飛空艇団赤い翼の隊長となったのが、バロンに最も信頼され愛されたセシルだった。セシルは父と慕い尊敬するバロンの命令に従い、暗黒騎士となり、その後はバロンの言うとおりに動いた。
                    ☆
 そんなある時、バロンはミシディアにあるクリスタルを奪ってくるようセシルに命令した。セシルはさすがに躊躇した。
「しかし、陛下。ミシディアの者がクリスタルをおとなしく差し出すでしょうか?それにクリスタルはむやみに所定の場所から動かす物ではないと・・。」
「かまわぬ。抵抗する者は殺せ!!わが国が豊かで平和になるためにはクリスタルが必要なのだ。ミシディアの者はクリスタルの秘密を知りすぎている。いつまでもクリスタルをあの者達の手に渡しては置けん!!」
 セシルは結局バロンに逆らえず、命令に従うことにした。
                    ☆
 セシルは親友のカインと共に自分の部屋で飲んでいた。カインは話を聞き、セシルに同情した。
「陛下のためとはいえ、何だか気の進まない仕事だな。」
「本当だよ。部下たちも文句ばかり言っていたよ。僕も立場上、部下をなだめるしかなかったけど、本当は同じ気持ちだ。」
 セシルは酒を飲んで気を紛らわせようとしたが、ひどく酒の味もまずく感じる。カインは話題を変えた。
「ところでお前は、このごろローザを避けているらしいな?どういうつもりだ?」
「・・・。」
 セシルは何も言えなかった。自分だってローザを愛したいし、愛されたいとも思う。だが、彼女の愛を受け入れてしまったら自分は今の自分を受け入れられなくなる。それにローザには、自分よりもカインのほうがふさわしいのではとセシルは思った。
「ローザはお前のそばにいたいばかりに白魔道士隊に入ったのだ。それなのにお前に会えないって嘆いていたぞ!お前の今の自分の姿を見られたくないという気持ちはわかるが、大事な友達のローザを泣かすようなことをしたら俺は許さないからな!!」
 カインは、大事な友達の、の所に力を込めて言った。
                    ☆
 次の日セシルは赤い翼と呼ばれる飛空艇を数機率いてミシディアに向かった。魔道国家ミシディアの名が示す通り、この国は老若男女問わず、魔道士ばかりの国である。
 それはさておき、魔道士たちは何事かと様子を見に現れた。特に敵対心を抱いている様子はなかったが、セシルたちが、クリスタルタワーに向かおうとすると、行く手を阻む者がいた。セシルは部下に命令した。
「刃向かうものは捕らえろ!・・だが・・殺すな!!」
 セシルは苦々しい思いで命令し、魔道士たちを捕らえさせ、また自らの手で捕らえたりもした。やがてセシルはミシディアのクリスタルタワーに行き、長老に呼びかけた。
「無駄な抵抗はやめておとなしくクリスタルを渡すのだ!それとも無駄に命を落としたいのか!?」
「愚かなことだ。クリスタルを手に入れて何とする?あれがどういうものかわかっておるのか!?
 長老もその周りにいた魔道士たちも非暴力不服従の精神で、あえてセシルたちに攻撃しようとはせず、だが、おとなしくクリスタルを渡そうとはしなかった。
「若き暗黒騎士よ。このまま引き下がることをすすめる。さすればバロンのミシディア攻略はなかったことにいたそう。」
 長老はセシルの良心に訴えかけるように話しかけてきた。セシルは心を鬼にして、強引にクリスタルルームに行ってクリスタルを取ってきた。
「よし、引き上げるぞ!!」
 セシルは苦い思いを噛みしめながらミシディアをあとにした。
                    ☆
 バロンに帰る途中、部下の兵士たちは今回の任務について不満タラタラであった。
「いくら命令とはいえ、罪もない人々から略奪をするなんて気が進まない!」
「我々は誇り高き騎士。これじゃ強盗じゃないか!!」
 兵士たちの愚痴ももっともである。セシルとて同じ気持ちである。しかし隊長としてここは部下たちをたしなめなければならない。
「やめるのだ!クリスタルはわが国の繁栄のためにどうしても必要なのだ。『ミシディアの者たちはクリスタルの秘密を知りすぎている』との陛下のご判断だ。我々はバロン飛空艇部隊赤い翼の兵士。陛下の命令は絶対なのだ!!」
 セシルの声が部下たちを沈黙させた。部下たちもセシルが心から望んでいないことを知っていて、それ以上は不満を口にしようとはしなかった。
                    ☆
 バロンへの帰還中、セシルたちは魔物に二度襲われたが、一度目は目玉の大きなモンスターで、2度目はズウと言う大きな魔鳥のモンスターだった。セシルたちにとってたいした敵ではなかったけれど、飛空艇に乗っている状態で2度も襲われたのは、初めてである。
 「それにしてもずいぶん魔物の数が増えたな。」
「闇の力が世界に影響しているという噂だな。魔物が増えたことと関係があるかもしれないぞ。」
  部下たちの噂を聞きながら、セシルは何故か胸騒ぎを覚えながらバロンへと帰っていった。近頃バロンの様子がおかしいのも、もしかしたら闇の力によるものかもしれないという考えが彼の頭によぎった。

第2話 「幻獣討伐」
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