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【5、愛する人(後半) 】

 ギルバートは泣き続け、そこから動こうとはしなかった。
「アンナ、ひどいよ!これから幸せになろうって時だったのに。君がいない世界でなんか生きていく気はないよ。シクシク!!」
 絶望と悲しみはわかるが、大の男とは思えない有様である。リディアは思わず言ってしまった。
「弱虫!!お兄ちゃんは男でしょ?大人でしょ?!あたしだってお母さんが死んでつらいのに、ちゃんと前を向いて頑張っているのに・・!!」
 なじられたというのに、ギルバートは否定すらしなかった。
「そうだよ。僕は弱虫の意気地なしさ。愛する人一人守ってあげられなかったよ。」
 セシルはリディアのほうを少し見て、それからギルバートのほおを平手打ちした。
「こんな小さな女の子でさえ前を向いて健気に生き抜こうとしているのに、君はなんてザマだよ!!こんな姿をアンナが見て喜ぶとでも思っているのかい!?」
 ギルバートはやっと涙をふいて立ち上がった。
「確かにこんな姿をアンナに見せるわけにはいかないよ。」
「僕らに力を貸して欲しい!君の助けが必要だ!!」
 アントリオンの洞窟に入るには、ダムシアンに伝わる竪琴の力が必要である。
「でもこの僕にできることなんかあるのかい?」
「お願い、力を貸して!ローザが高熱で大変なの!!」
 リディアは必死にギルバートにすがった。
「僕たちはこれからアントリオンの巣へ砂漠の光を採りに行く所だ。それには君の力が必要だよ。ローザを助けるために力を貸して欲しい。頼むよ!!」
「ローザって人は君の大切な人だね?」
 ギルバートはセシルとリディアの必死の様子に心を動かされた。
「そうだよ。僕らにはあそこまで行く乗り物と、君の力が必要としている。あの洞窟にはいるにはダムシアンにある竪琴の力が必要だけど、僕らには竪琴は弾けない。でも君のあの技術なら間違いなく封印は解けるよね。」
 尚も必死に説得するセシルに、ギルバートは力強くうなずいた。
「わかったよ。アンナを死なせてしまったけれどかわりに君の大切な人を助けるために、僕も行くよ。」
 ギルバートは、冷たくなった恋人に別れのキスをして、生き残った部下たちにアンナのことを頼んだ。セシルたちはそれを見守りながらアンナの冥福を祈った。
                    ☆
 3人はダムシアンからホバー船でアントリオンの洞窟に向かった。ギルバートが竪琴を奏でると、洞窟の入り口が開いた。
「アントリオンの巣はこの洞窟の最下層にあってね。砂漠の光はアントリオンの出す分泌物の結晶化したもので、その名の通り、まばゆく光ってとてもキレイな宝石だよ。」
 ギルバートはリディアに砂漠の光について語った。ギルバートは吟遊詩人だけあって物知りで、色々な伝説や物語をリディアに聞かせて、彼女の心を和ませていた。セシルは彼を仲間にして良かったと思った。彼は優しいし、子供の相手も上手である。
 だが、ギルバートはあまり戦闘には向いておらず、そのことで引け目を感じているようだった。
「いつも僕は足を引っ張っていて申し訳ないと思っている。本当に僕なんかが一緒にいていいのかい?」
 確かにギルバートの戦闘能力は頼りにならない。身体もあまり丈夫ではないし、線が細いだけあって、体力も弱い。しかしセシルもリディアもそんなことは大して気にしてなかった。
「戦闘ならセシルに任せれば大丈夫。」
「そうだよ。僕らは君がいてくれるだけで心強いよ。」
 セシルはリディアにとって親の仇である。リディアはあの日以来セシルを責めるようなことは言わないし、心を開いてくれているが、セシルのほうはずっと罪悪感を抱き続けている。リディアがどんなに明るく接してくれていたとしても、それは消えるものではない。
 しかしギルバートはセシルとリディアを確かに癒してくれていた。セシルはリディアと二人きりだったらかなり気まずさを感じただろうが、ギルバートがいることでそれはかなりなくなった。リディアのほうもギルバートがいてくれて素直に甘えられて助かっていた。
「ありがとう。2人には本当に感謝しているよ。」
 ギルバートは、静かな笑みを浮かべた。いい意味で男臭さのない繊細な美貌、優しく甘い澄んだ声、物腰柔らかで、俗っぽさのない性格。こういうのを癒し系というのだろうか。
 セシルもリディアもギルバートと接していると、何故か心が洗われるような気がした。最初は、アンナがどうしてこんな軟弱な男を好きになったのか不思議だったが、今ではその理由がよくわかった。
「本当は僕のほうが、君にお礼を言わなければいけないかもしれない」
 セシルは心の中でそうつぶやいた。
                    ☆
 アントリオンは洞窟の最下層にいた。ギルバートはアントリオンの口に触れようとした。アントリオンが本来おとなしい性質のモンスターで、人を襲うことはまずないからであった。しかし何か様子がおかしかった。
「い、痛い!!」
 ギルバートはアントリオンにかまれてしまった。アントリオンが闇の影響で凶暴化していることに彼らはやっと気づいたのだ。セシルが剣で向っていくと、アントリオンは角で反撃してくる。
「セシル、大丈夫!?」
 リディアはすぐケアルをかけようとしたが、セシルは首を振った。
「僕は、大丈夫。リディア、魔法は攻撃に使ってくれないか?」
 セシルは自分のことよりも病床のローザのことが気になっていた。これくらいの傷はローザの苦しみに比べたらたいしたことはない。リディアはうなずいてブリザドを唱えた。虫系のモンスターなら冷気に弱いとにらんだ。思ったとおり、かなり効果があったようである。
「今度はギルバート、竪琴の音色でアントリオンをかく乱してくれないか?」
 ギルバートが竪琴を奏でると、アントリオンは眠った。こうすれば、角で反撃してこないだろう。これを数回繰り返すと、アントリオンは動かなくなった。
「これが砂漠の光?ギルお兄ちゃんの言ったとおりキレイね。」
「う、うん。」
 ギルバートは闇の力でアントリオンが凶暴化していることに心を痛めていたが、悩んでいても仕方ないので、その美しい宝石を手にして洞窟をあとにした。
                    ☆
 彼らはホバー船でカイポの村に戻り、ローザの頭上に砂漠の光をかざすと、ローザの熱はみるみる下がっていった。
「ああ、良かった!ローザ、助かったよ!!」
「ああ、セシル・・!!」
 ローザは愛しい男に会えて、まだ夢でも見ているのではないかと思った。
「良かったね、セシル。好きな人が助かって・・。」
「セシル、すごく心配していたものね。」
ローザはセシルの傍らに、ほっそりとした青年と小さな愛らしい女の子がいることに気づいた。
「あなたたちは?」
 セシルが二人を紹介すると、ローザは上半身を起こし、二人に礼を言った。
「ありがとう、ギルバート、リディア。私はローザ。」
 セシルはローザにこれまでのことを色々と聞かせた。ギルバートとリディアは、久しぶりに会った恋人同士を二人きりにしてやろうと気遣って外に行った。
                    ☆
 セシルとローザは、これからどうするのか話した。セシルはバロンに戻って国王に色々と話さなければと思っていたが、ローザの言うように近隣の国へ助けを求めようという意見を聞き、その方がいいかもしれないと思い始めた。
「何でも自分ひとりで解決しようとしないで!」
「・・・。」
「あなたはいつも一人で抱え込みすぎてしまうの。それがあなたの優しさだってわかっているけど、私はもう、そんなあなたを見ているだけなんて嫌!!」
 セシルはローザが自分を想っていることをとてもうれしく思う。しかしどう答えたらいいのかわからなかった。ローザは尚も自分の想いをぶつけた。
「セシル、私も一緒に連れて行って!!」
「そ、それは・・。」
「私はこれでも白魔道士。足手まといにはならないはずよ。」
 セシルはそんなことを気にしているわけではない。ただローザを危険に巻き込みたくないだけである。だがローザはセシルのそんな気持ちを読んでいた。
「心配しないで、セシル。あなたが私を気にかけてくれているのはわかるけど、私はあなたと一緒にいたいの!もう待っているだけなんて嫌!私はあなたと一緒に戦いたいの!!」
 ローザの自分を見つめるまっすぐな紺碧の瞳は、穏やかながらも強い意志を宿している。
彼女はたおやかな印象だが、実はかなり強い心の持ち主だとセシルは知っている。
「わかったよ、ローザ。一緒に行こう!!」
 セシルはそう言って愛しい女性を抱きしめた。
                    ☆
 セシルとローザが感動の再会をしていた時、リディアは、お世話になったイサクとリベカの老夫婦と話をしていた。老夫婦はリディアがミスト出身ということで、彼女に聞きたいことがあったのだ。
「ちとお嬢ちゃんに聞きたいことがある。」
「頭に角の生えた娘を見たことはないかしら?」
 リディアには心当たりがなかった。しかしリディアも興味があったので、その娘について話を聞いていた。
「わしら夫婦には子供ができなかった。しかしちょうど10年前じゃ。あれはわしが行商のために砂漠を旅していた時だった。小さな女の子の泣き声がしたので行ってみると、そこには母親の屍にすがって泣いているネフティがいたのじゃ。」
「ネフティの頭には角があって、尻尾も生えていたけれど、私達にとってはそんなことどうでも良かった。あの子はかけがえのない私達の子。あの子は素直でいい娘に育ってくれたわ。」
 リディアは老夫婦が本当に善良な人達であると知って心が温まる思いだった。そのネフティという娘もいい人に拾われて幸せだろうと思った。
「それで、そのネフティさんはどこにいったの?」
「わしの持病の腰痛に効く薬草をもらいにミストの村に行った。ちょうど、ミストの村で大火事があって山が地震で崩れてしまった日じゃ。もしかすると、火事か地震に巻き込まれてしまったのかもしれぬ。もうここには戻ってくることはないかも知れぬのう。」
 老夫婦はがっくりと肩を落としていた。よほどネフティを愛していたのだろう。リディアはイサクの肩に手を置いてギュッと力を込めた。
「あきらめちゃダメ!まだネフティさんは生きているかもしれないでしょう!!」
「お、お嬢ちゃん?!」
 老夫婦は涙を流してうなずいた。
「まことお嬢ちゃんの言う通りじゃ。わしらがあきらめてしまってはいかん!」
「ありがとう。もし、ネフティに会ったら元気でいてくれるよう伝えておくれ!」
 リベカはエプロンのポケットから女性物の髪飾りを取り出した。古めかしい造りだが、金でできているのかまばゆく輝いている。
「もし、あの子に会うことがあればこれを!!」
「これは?」
「あの子の母親の形見じゃ。あの子は母親が死んでつらい思いをしたであろうが、それを思い出させたくないばかりに今まで渡せずにいたのじゃ・・。」
 リディアは金の髪飾りを受け取り、ネフティの無事を祈った。きっと彼女は生きている。なぜかリディアはそう確信していた。
                    ☆
 ギルバートは夜眠れず、一人オアシスにやってきていた。
「アンナ、僕はセシルのように強くない。君がいないのは寂しすぎるよ。」
 アンナを失った悲しみと寂しさをまぎらすために、ギルバートは竪琴を奏ではじめた。物悲しい聴く者の魂をゆさぶる美しい旋律が辺りに響き渡る。だがそのメロディに魅了されるのは人だけとは限らない。
「ガウウウウ!」
 オアシスからサハギンが現れ、ギルバートは不意打ちを食らう。戦いの苦手なギルバートはやられかけた。彼はこのまま死んでもいいと思った。それならアンナに会える。そんな彼に奇跡の声が聞こえた。
「ギルバート、戦って!!」
 目の前にギルバートの最愛の女性が現れた。その頭上には赤々とまばゆく輝く巨大な火の鳥がいた。
「アンナ、この弱い僕にどうしろと・・?」
「ギルバート、あなたは自分が思っているほど弱くないわ。大丈夫、自分を信じて!!」
 アンナの言葉にギルバートは力付けられ、サハギンと戦った。やればできるものである。ギルバートは息をきらしながらもサハギンに勝つことができた。
「やったよ、アンナ!!」
 ギルバートはアンナに笑顔を向ける。アンナは満足そうな笑みを浮かべると、だんだんその身体は頭上の火の鳥に吸い寄せられていく。
「行かないで、アンナ!愛している!!」
 アンナに手を伸ばそうとするギルバートに、アンナは静かに首をふった。
「ギルバート、私を心から愛してくれてありがとう!私もあなたを愛している!最期にあなたを守れて本当に良かったわ。私のことは哀しまないで!私はこれから大きな命と一つになるの。だからこれからは私を愛する気持ちを、あなたを必要としている人のために・・!!」
 アンナはそう言って火の鳥の中に溶け込んでいった。火の鳥は飛んでいく。ギルバートはその姿が見えなくなるまで空を見上げていた。
「アンナ、君の言うようにやってみるよ。」
 ギルバートはもう泣かなかった。あの世に行けばアンナに会える。でもそれは今ではない。それまで自分は彼女の分まで精一杯生きなければならないとギルバートは思った。

第6話 「恐怖を乗り越えて」に行きます
第5話 「愛する人(前編)」に戻ります
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