【40、決戦前】
リディアとエッジは、離れ離れになったセシルやローザ、カインを探した。エッジはなかばうんざりとしていた。
「一体セシル達はどこにいやがる?」
「多分この階にはいると思うよ。文句言わないで進もう!」
リディアは常に前向きである。エッジはリディアのこのひたむきさがいとおしいと思う。
初めて会った時から興味はあった。彼女は今までエッジが会ったどんな女性よりも美しかったから。だが、今エッジは女性の魅力は外見だけではないと思うようになっていた。
リディアの魅力は外見の美しさよりも、その無垢な精神にあるとエッジは思う。
エッジは両親が殺された怒りで突っ走りそうになっていた時、自分を案じて彼女は泣いていた。この時はどういうつもりだろうとしか思わなかったが、今はその時の彼女の気持ちが理解できる。
また、彼女は幼い頃に村を焼かれ、最愛の母を亡くしたというのに、笑顔を忘れていない。彼女の笑顔の美しさは、顔かたちの美しさではなく、幼子のような心の美しさの表れなのだ。
「なあ、リディア。」
「何?」
リディアは後ろを歩くエッジに振り返った。
「おめえ、本当に強いよな。こんな強い女見たことねえってくらいに・・!!」
「何よ、それ?!」
リディアは頬をふくらませた。こんな一面もまた愛らしい。エッジはその顔を見ながら今度は本当に言いたかったことを口にした。
「ところで、おめえこの戦いが終わってからどうするつもりだ?」
エッジは真剣な目でそう言った。リディアは少し考えた。今はこの戦いに勝つことだけしか考えられないでいる。もしかしたら生きて帰れるかどうかもわからない。もし生きて帰れたとしたら、自分はどこにいけばいいのだろう。
「エッジはどうするの?」
逆にエッジに聞いてみることにした。エッジは即答した。
「そりゃ、俺は次期王様だからな・・。エブラーナに帰って国の建て直しをしなければならない!!じいも俺を待っているだろうし・・。」
「そっか。エッジは王様になる人だからね。」
リディアは少し寂しく思う。明るく開放的な性格から忘れてしまっていたが、エッジには大事な国のことがあるのだ。自分のように半ば故郷を亡くした人間とは違うのだ。エッジはこれから国王になって、それにふさわしい女性と結婚して、民のために国政に力を注いでいくのだろう。今のエッジからは少し想像もつかないが、エッジはこう見えても弱者をいたわる義侠心は強いので、良い国王になれるかもしれないと、リディアは思った。
「立派な王様になってね!」
リディアは明るく笑ってそう言った。エッジは少し面食らう。自分が聞きたいのはリディアのことなのに。
「俺のことより、おめえはどうするつもりだ?」
「うーん、そうねえ・・。」
リディアはまた少し考えた。ミストの村にも生き残った人はいるようだが、彼女としては、幻界で過ごした記憶のほうが強い。リヴァイアサンとアスラはかなり高齢で、後継者のことで頭を悩ませている。アスラはリディアに後継者になって欲しそうにしていた。
「あたしは幻界へ帰ると思う。幻獣王様と王妃様が待っているかもしれないし・・。」
リディアの答えにエッジは凍りついたように動かなくなってしまった。しかしエッジはリディアがそれを望んでいるのなら、それも仕方ないとふっとため息をつき、穏やかな笑みを浮かべて言った。
「そうか。どっちにしても俺達の前にはゼムスがいる。奴を倒さないことには、はじまらん!!」
「うん。頑張ろうね!!」
2人はお互いに相手を想っていることには気づかなかったが、敵を倒さなければならないという気持ちは同じだった。
☆
リディアとエッジはかなり歩きまわって、何とかセシル達と合流することができた。セシル達も探し回っていたらしい。リディアはセシル達の顔を見て、安心のあまりか倒れこんで一歩も歩くことができなくなってしまった。タイダリアサン戦で少々無理をしてまでリヴァイアサンを呼び出したのだから無理もない。エッジは彼女を抱え込んで運んだ。しかしエッジの疲労もかなりのものである。2人だけでない。セシル、ローザ、カインも体力的に限界であった。
「決戦前だけど、どこか休めそうな所でちょっと休んだほうがいい。」
「ああ、同感だ!!」
体力も限界だが、魔力も全く残っていない。セシル達は少し上の階に登って、ゆっくり休めそうな場所を見つけた。セシル達はそこにコテージを張り休むことにした。
皆疲れきって泥のように眠りこけていた。
・第41話 「最後の戦い」
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