【41、最後の戦い】
セシル達は、体力と魔力を回復すると、すぐに出発をした。こうしている間にもフースーヤとゴルベーザのことが気にかかる。どれくらい進んだであろうか。クリスタルの埋められたフロアに入ってから何回も下の階に降りている。ふとエッジはこの先に人がいるのを感じ取った。気のせいか空気が殺伐としている。
「何か戦いの臭いがするぞ!!」
彼の言うように確かに何者かが戦っているのがわかる。焼け焦げた臭いと血の臭いがして、白い煙が上がっているのが見える。
「この力は!!」
この先にいるのはフースーヤとゴルベーザに他ならない。そしてもう1人異様に邪悪な気を発している者がいる。彼こそゼムスであろう。セシル達は直ちに気配のするほうへと急いだ。
☆
フースーヤとゴルベーザはかなり疲労気味ではあったが、しっかりと戦っていた。ゼムスは確かに邪悪な気を発していたが、その姿は意外にも人間らしかった。長い銀髪に雪よりも白い肌の色。顔立ちもまるで女性のように美しい。
「あ、あれがゼムス?思ったより弱そうだぞ!!」
エッジは言う。確かに彼から感じる気は邪悪な闇の気であったが、この程度なら今までに戦ったダークバハムートやタイダリアサンのほうがよっぽど闇の力が強かったのではないかと思えた。しかしその銀色の目はまるで凍りつくように冷たかった。
「ずいぶん老けたようだが、もうろくしたか、フースーヤ?!高等な月の民であるこの私が、貴様のような老いぼれと、野蛮な青き星の混血であるその男に倒せるなどと思い上がっているわけではあるまい?」
ゼムスは傲慢にもフースーヤとゴルベーザを、まるで汚いものでも見るような嘲りの目で見下ろしている。
「思い上がっているのは貴様のほうだろう?この私を操った借りを今返させてもらう!!」
「同じ月の民として貴様を許すわけにはいかぬ!!ゴルベーザ、行くぞ!!」
「はい!!」
フースーヤとゴルベーザは共に呪文の構えを見せた。セシルはこの時2人の必死の気持ちを感じ取った。
「まさか、あなた達は死ぬつもりでは!!」
この時の2人の様子からテラがゴルベーザに向かっていった時のことが重なった。
「大丈夫だ。勝算はある!お前達はこの戦いをしっかりと見ていてくれ!!もしもの時は頼む!!」
ゴルベーザはセシルを見て言った。セシルはゴルベーザがこんなに優しい男だったのかと驚きにも似た気持ちだった。彼がゼムスに操られていたことや、実の兄であると知り、憎しみの感情はやわらいだものの、今まで彼のために苦しめられたということもあってか信用しきれていなかったと思う。
「ゴルベーザ、死なないで!!」
セシルは心からそう言った。兄とはまだ呼べないが、せめて彼の無事は祈りたい。ゴルベーザはそれを聞き、力強くうなずくと、ゼムスをしっかりとその目で見据えてフースーヤと気持ちを同調させて呪文を唱えた。
☆
「天かける巨大な隕石よ、諸悪の根源ゼムスを打ち滅ぼさん!!」
フースーヤとゴルベーザの呪文が重なり合い、ゼムスの頭上に無数の隕石が落ちてゆく。
「ググググ、バカな!!貴様らごときにやられる私ではない!!」
ゼムスは隕石の下敷きとなり絶命したかに見えた。
「やった!」
「これで奴は死んだ!!よくやったゴルベーザよ。」
ゴルベーザとフースーヤは手を取り合って喜んでいた。セシル達もこれで終わったと安心していた。
「ああ、良かった。これで星は救われる。」
「ちょっとあっけない感じがするが、まあいいか!!」
「俺もゼムスの野郎には一発くらわせてやりたかったけど・・!!」
しかしこれで終わりではなく、これこそが最後の戦いのプレリュードだったのである。
「クククククッ!愚か者ども、これこそ私の願いだったのだ!!」
「そ、その声はゼムスか?絶命したわけではなかったのか?!」
フースーヤとゴルベーザは再びメテオを唱え始めた。ただのメテオではない。二人の力によって2倍の威力を誇るWメテオである。再びゼムスの頭上に無数の隕石が襲い掛かった。しかし今度は全く手ごたえがない。そこにはゼムスの身体はなく、見るも醜悪なモンスターが現れた。
「我が名はゼロムス!全てを憎み、全てを滅ぼす者。私は全てを無に返す!!」
ゼロムスは脅威の波動でフースーヤとゴルベーザに襲い掛かった。
「な、何というすさまじい力・・!!」
「もはやここまでか・・!!」
2人はあまりの衝撃に耐えられず、倒れこんでしまった。元々Wメテオを連続で繰り出して弱っていたところだった。その上にこんな攻撃を受けたのだから無理もないことだった。セシルはゴルベーザに駈け寄り、助け起こす。
「ふふん、美しき兄弟愛か。その男が今まで何をしてきたのか忘れたわけではあるまい!!」
ゼロムスはセシルの中に眠る憎しみに訴えかけようとする。セシルは凍りついたように硬直し始めた。そんなセシルにゴルベーザは、弱々しくもはっきりと話しかける。
「セシルよ、私を許さなくてもよい。どんなに憎んでもかまわぬ。だが、私に代わってゼロムスを倒してくれ!!奴を倒さないことには愛する青き星は救われないのだ!!」
「ゴルベーザ・・。」
セシルはゴルベーザの瞳から一筋の光るものをみつけ、自分の中のわだかまりがスーッと消えていくのを感じた。思えば自分以上につらい思いをしたのはこの兄のほうかもしれない。それなのに、自分は彼の苦しみを思いやろうともしていなかった。
「兄さん、あなたに代わって僕達が戦います!!」
「セシル、お前はこの私を兄と・・?!」
セシルは優しく穏やかな笑みをゴルベーザに向けて立ち上がった。
「戦いが終わったらゆっくり話しましょう!!」
セシルは迷いを振り切るように聖剣ラグナロクを構えた。この様子を見ていたローザたち4人も戦いのために武器を構えてゼロムスを見据えた。
☆
ゼロムスの強さはセシル達の想像をはるかに超えていた。セシルは確かにゼロムスに確実にダメージを与えているのだが、ゼロムスにとって大した威力ではないようだった。それにゼロムスの攻撃ビッグバーンが脅威であった。
「フハハハハハ!!これで貴様たちはおしまいだ!!永遠に消えうせるが良い!!」
ゼロムスの腕のような部分から、ものすごい熱とスピードを持った波動が繰り出される。
ローザは皆にケアルガをかけ続けたが、このままでは魔力が尽きるのを待つばかりだと嘆いた。
「ああ、きりがないわ。もう時間の問題なのかしら?」
あきらめてはならないと思うその一念のみがそれぞれの肉体を支えている。しかしゼロムスの圧倒的な力の前に皆どうすべきなのかわからず、精神的にも限界がきていた。
そんな彼らに、ゴルベーザは何かまばゆい輝きを放つものを差し出した。
「こ、これを!?」
「これはクリスタル!!」
邪悪な力を封じ込める力を持つクリスタルは清浄な輝きを放っていた。それを受け取ったセシル達には、かつての仲間達の声が聞こえてきた。
「あんちゃん、おいらたち、待ってるぜ!!」
「私達の魔力を送るわ。」
幼い双子の魔道士の無垢な声が響く。二人の優しさが、セシル達に生きる力を与えた。
「みんな勇気を!君たちならできるよ!!」
「成せば成る、自分を信じろ!!」
愛するものを失った悲しみを乗り越えた若き吟遊詩人の声と、死して尚、セシル達を思う老賢者の声が聞こえてきた。二人の願いが、セシル達に耐える力を与えた。
「精神を集中させろ!!」
「必ず帰ってくるんだぞ!!」
さらに不屈の精神を持つ戦友二人の声がした。二人の祈りが、セシル達に戦う力を与えた。
セシルは皆の思いの込められたこのクリスタルをゼロムスに投げつけた。
「く、こしゃくな・・。だが、この程度のクリスタルでは我が力を押さえ込むことはできぬぞ!!」
クリスタルの力をもってしても、ゼロムスを封印するまでにはいたらなかった。しかし、このことがセシル達を再び奮起させるきっかけとなった。
☆
セシル達は皆の心を1つにして戦おうと言った。
「ゼロムスは闇の力そのものだ。それに対抗するには皆の団結と意思が不可欠だ!!」
「お、おう・・!」
セシルが突然何を言い出したのかと皆顔を見合わせた。
「僕達がなぜ戦って勝たなくてはならないか分かるね?」
セシルはまず、ローザを見て言った。
「あの星は私達の住んでいる場所そのものですもの。私はあなたと一緒にあの星に帰りたいから!!」
ローザがこういい終わるとカインも言った。
「俺は・・。俺の中でけじめをつけたいからだ。」
セシルは何か言いかけたが、言うべき言葉が見つからず次にエッジに聞いた。
「そんなもの、決まっているだろ!!こんな奴にこれ以上好き勝手させられねえからだ!!俺はこう見えてもあの星を愛しているからな!!」
セシルはエッジらしいとうなずき、リディアにも答えを求めた。
「これはあたし達皆の戦いだもの!!何が何でも勝たなくちゃ!!前にも言ったよね?」
「うん。確かに君はそう言っていたね!!」
セシルは皆の意見を聞き終えると、今度はもっと強い声で言った。
「理由は色々あるかもしれないけど、僕達が戦いに勝たなきゃいけないのは確かだ。だからどんなことがあっても負けられない!!だからそれぞれの思いを込めて行動するんだ!!」
セシルの強い言葉に皆うなずいた。この戦いは敵を倒すためではない。自分達の思いを守るために勝たなければならないということを皆感じ取っていた。
☆
セシルは聖剣ラグナロクを握り、その聖なる力を信じ、思いを込めてゼロムスを斬りさいた。ゼロムスは今までよりも強い聖なる力によって大ダメージを受けた。
「ありがとう!僕がこんな風に戦えるのは皆のおかげがあってのことだ。暗黒騎士だった頃の自分には考えられなかった。」
セシルは隣にいる美しい白魔道士の顔を見つめた。どの皆にも感謝しているが、やはりもっとも自分の支えになってくれたのは彼女だと思った。
カインはセシルに心の中ですまないと言い続けた。
「セシルよ、俺はお前にはこうやって戦うことでしか借りを返せない!だが、いつか何のわだかまりもなく話せる日が来ることを俺は信じている。そのためにも俺は懇親の思いを込めてゼロムスに挑む!!」
カインはいつになく高く飛び上がってゼロムスにかかっていった。ゼロムスはスピードと威力を兼ねた鋭い突きによってまたも大ダメージを受けた。
エッジはクリスタルと共に道具袋に眠っていた包丁を手にしていた。家庭の道具である包丁が武器として役に立つかどうかはわからなかったが、彼は何としてでも勝たねばならないと思った。そしてそれと同時にあの青き星に残っている人々の好意も大切にしたいと思ったのだ。エッジの投げた包丁はどんな名剣よりも鋭い切れで刺さっていって、ゼロムスはさらに大ダメージを受けた。
ゼロムスはセシル達にビッグバーンをしかけてきたが、読みを読んでいたローザのケアルガによって回復されてしまった。
「私達は何としても生き残らなきゃならないわ!!どんなに強いダメージを受けたとしても私達はちゃんと立ち上がる。何度でも・・!!」
彼女の顔にはあきらめの文字は全くといっていいほど消えていた。
リディアは全ての魔力を使ってバハムートを召喚した。
バハムートはさっそうと姿を現すと、いつもよりやや威厳のある声でゼロムスに言った。
「ゼロムス、あなたが全てを憎み滅ぼすというのなら、私は全身全霊をかけて愛するものを守ります!!悪しき魂と共に光の中に解けていきなさい・・!!」
バハムートのメガフレアの息によってゼロムスは動けなくなるほどの大ダメージを受けた。
「さあ、セシルさん、今です!!」
バハムートはセシルに合図を送った。セシルはラグナロクではなくエクスカリバーでゼロムスにとどめを刺した。威力自体はラグナロクのほうが高かったが、エクスカリバーには青き星の住人ククロの思いが込められているのだ。ここはあえてエクスカリバーを使った。エクスカリバーはいつもよりも鋭い光を放ってゼロムスを斬り裂いた。
「ウググググ、バカな・・!!しかし闇は滅びぬ・・。私はまたいつの日か必ず復活する・・。
闇はお前たちの心の中にあるのだ・・。」
セシルはゼロムスの言葉を聞きながら、その姿が消えていくのを不思議な気持ちで見ていた。
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ゼロムスは消滅したが、ゼムスは実はまだ生きていた。もっとも瀕死の状態で動けなかったが、まだわずかながら命が残っているようだった。
「何という強さ・・。完敗だ・・。」
「この野郎、まだ生きてやがったのか!!」
エッジはムラサメとマサムネでゼムスに斬りかかろうとした。
「エッジ、お願い!!やめて!!」
リディアが言った。エッジは手を止めながらも戸惑いを隠せなかった。リディアは村を焼かれ、最愛の母を失い、この中で最もつらい思いをし、最もゼムスを憎んでいるはずである。そのリディアがゼムスを助けようと考えるのは信じられないことだった。
「おめえ、こいつが許せないとは思わないのか?!」
「許せないよ!!お母さんが死んだのも、村が焼かれたのも、テラのおじいちゃんが死んだのも、みんなみんなこいつのせいだから!!だからちょっとくらい反省してもらわなきゃおさまらないよ!!」
リディアはそう言って涙を流していた。ゼムスはリディアの様子を見て、何かを感じながら息を引き取っていった。
☆
ゴルベーザはゼムスの亡骸を埋葬し終えると、セシル達にすまないことをしたと何度も謝っていた。
「仕方ないよ、操られていたのだから・・。それにもしかしたらゼムス自身も操られていたのかもしれないって僕は思う。」
「しかし私が操られたのは悪しき心を持っていたからなのだ。私は混血ということで月の民からは劣等とみなされ、青き星の民からは得体が知れないという目で見られた。母がお前に父のことを話さなかったのはそのせいだろう。」
もう誰もゴルベーザを責める者はなかった。セシルは操られた兄のほうが自分よりつらかっただろうと思った。
「まあ、月の民も俺みたいに正しい奴ばかりだったら何も問題なかったと思うが・・!!」
エッジが調子に乗って言うと、すかさずリディアが突っ込みを入れた。
「何言っているの?あんたなんかゼムスに利用されなかったのが不思議なくらいじゃない!!」
「こう見えても俺は正義を愛しているからな!!」
ややムキになってこう言い返すエッジを見てこの場にいた一同は楽しそうに笑った。しかしいつまでもこうしているわけにはいかなかった。青き星には、セシル達の帰りを待っている者達がいるのだ。
「帰りましょう、セシル!!シド達も首を長くして待っていることだし・・。」
ローザは名残惜しそうにフースーヤとゴルベーザに別れを告げた。ゴルベーザは、自分はあまりにも多くの罪を犯したので青き星には戻れないというのだった。
「そんな操られていただけなのに・・。」
「私はフースーヤと共に月に残る。そして新たな星を求めて再び旅に出よう。どんなに離れていても私達は血をわけた兄弟なのだ。それだけは忘れないで欲しい。」
どんなに引き止めても無駄なようである。セシルはあきらめて言った。
「わかりました。兄さん、どうぞお元気で!!」
セシルは再び会える日を約束して、一番後で魔導船に乗り込んだ。しかしセシルがゴルベーザとフースーヤの姿を見るのは、これで最後となった。
・エピローグ
・第40話 「決戦前」に戻ります
・小説目次に戻ります
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