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FINAL FANTASYⅣ-恋い焦がれる異国の王-<第四話>


その日の朝は清々しかった。こんなに気が晴れた朝を迎えるのは何 年ぶりだろうか。
テシンは逸る気を押さえることが出来ないまま、朝食を素早く済まし、 今日ここエブラーナを訪ねてくる客人を心待ちにしていた。
その客人とはリディアであり、テシンのリディアを待つ気持ちはエッジ 以上かも知れない。
予定ではリディアの他にもう一人の人物も連れてくるはずである。エッ ジに対しては詳しい事情を伺っていない事となっているがため、その 人物を紹介されたときは自分も知らぬ振りをしなければならない。当 然、驚く芝居もしなければならないだろう。
そして、リディア達は昼を一刻過ぎた頃にエブラーナに到着した。テシ ンは諸手をあげてリディア達の到着を歓迎し、すぐさまエッジの私室へ と通された。
「おう、よく来たな・・・て、誰だそいつ?」
リディアを迎えたエッジは、彼女と共にいる連れの男性にやや不機嫌 さを顔に出しながら問いた。
「この人?私の恋人よ。」
「えっと、初めましてアルセド・メーディスです。」
リディアは悪びれることなく、すんなりと自分の恋人を紹介する。あくま で仮のだが。
また、紹介された男は歳はリディアと同年ぐらいで、長い銀髪を後ろに まとめており、顔立ちも整った聡明そうな人物だった。
「何と、リディア殿の恋人でありましたか。なんとも利発そうな方で、や はり魔術師ですかな?」
テシンは当初の予定通り驚く振りをしつつ、リディアに言われた通りの 発言をする。
「ええ、黒魔道士です。」
テシンの問いに、アルセドは笑顔をこぼしながら答える。
「へっ、黒魔道士だかなんだか知らねーが、俺以上に魅力あるのかそ いつ?」
完全に殺気を放ちだしたエッジが、挑戦的な発言をし始める。
(リ、リディア先生。この人、怖いんですけど・・。)
エッジの気迫に押されながら、アルセドは心の中でリディアに訴えた。
今、魔法の力により、心を繋いでいるためアルセドの心の声はリディア にも伝わるようにしているのだ。俗に言う『テレパシー』というある程度 の魔道士なら操ることの出来る基本魔術である。また、これを昇華さ せた魔法が『ライブラ』を呼ばれている。
(我慢しなさい。私が退出した後、私があなたを操るからそれまでは持 ちこたえて!)
(魔道書一冊じゃ、割に合いませんよこの役・・・。)
リディアの激励の言葉を聞いた後、アルセドが予想外の大役にそう心 の中で呟き、溜息をついた。話ではどうしてもしつこい男がいるから、 諦めさせるのに恋人の振りをしてくれとしか聞いておらず、また前々か らほしかった魔道書を貰えるために喜んで承諾したのだが、相手が世 を救った英雄の一人であり、しかもエブラーナの王とは生命も縮まるよ うな役目だと思う。
しかし、途中からリディアが『傀儡化の魔法』をかけ、自分を操作してく れるらしい。そこまで持ちこたえれば良いのだが、自分にしてみれば そこまでの時間が非常に長く感じた。
「そう、私賢い人が好きなの。」
いつの間にか話が進んでいるようだ、リディアが自分の腕に腕を絡ま してきた。この様な美しい女性にこうされると、少々損だと思った役も 嬉しく思い始める。
これも役得だと、アルセドは思った。
「ハハハ・・仲睦まじいですな。」
テシンもリディアに続き、エッジの怒りを仰ぐような発言をする。
「そうそう、我が国の書物庫になにやら古代の魔術書が発見されまし てな、この機会にご覧になってはいかがですか?」
テシンが話を一転させ、リディアとアルセドに誘いの言葉を持ちかける 。
「そうね、見てみようかな?まだ、発見されていない魔法が見つかるか も知れないし・・。アルセドは行く?」
リディアが隣にいる、仮の恋人に意見を伺った。
「いや、僕はここで待っているよ。リディアだけで行ってくるといい。」
優しい笑みをこぼしながら、アルセドはリディアの誘いを断り、待ってい る旨を伝えた。
心中では、目の前で睨んでいるエッジに恐慌しつつも。
「じゃ、行って来るから。」
リディアはアルセドにそう言い残し、テシンと共にエッジの私室から退 室した。部屋にいるのはエッジとアルセドだけだ。
アルセドとしては、エッジから放たれる圧迫感で、息が詰まりそうであ る。しかし、ここが正念場である、退出した自分の師はすぐさま『傀儡 化の魔法』を唱えているはずだ。
魔法を受け入れるために、なんとか心を落ち着かせるように努力する 。
どんなに長い魔法でも、息を三十回繰り返すことが出来るほど長い詠 唱を要する魔法存在しない。また、傀儡化の魔法はファイアなどの完 成された魔法ではないために魔法詠唱も一瞬に近い。だが、その一 瞬がこれ程までに長く感じさせられるのは初めてであった。
しかし、そうこう考えている内に眠気に近い感覚がアルセドを襲った。 どうやら魔法が完成したようである。
(やっと、役目が終わったか・・・。)
消え失せ始める意識のなか、アルセドは安堵しながら暗闇に意識を奪 われるのであった。
「ところで、お前本当にリディアが好きなのか?好かれているのか?」
沈黙を守り続ける、目の前の黒魔道士にエッジは不意に質問を投げ かけた。自分としてはやはり納得はいかない。先程までの話にはどう もぎこちなさを感じられずにはいられなかったのだ。
また、自分としてもあきらめのつくような言葉がほしいと思っている。
「私・・・いや、ぼ、僕はリディアの事が好きさ・・。誰よりもね・・。」
「リディアだって僕のことは好きなはずさ、さっきも言ってたでしょう?『 頭のいいヤツが好き』だって。」
口元に微笑を浮かべながら、アルセドは言う。
「だから、あなたのような学のない方にリディアは、絶対振り向きはし ませんよ。」
「手紙の方も、そういうわけで止めていただきたい。」
淡々とアルセドはエッジに侮辱の言葉を投げかける。口元には依然と して微笑を浮かべつつ。
「・・・・そんなはずはねえ、俺の知っているリディアはそんなヤツじゃね え。」
その言葉に、エッジは怒りを抑えるような静かな声でうつむきつつ言う 。
「人間は『心』が大事なんだ。人を思う『心』、優しくいたわる『心』。」
「そして、今のテメエの言葉で大体、テメエがどんなヤツか分かったぜ 。テメエはリディアを全然分かっていない、『心』の強さも全然分かって いない・・・ってな。」
エッジはそう言い、ゆっくりと顔を上げアルセドを睨む。
(・・・・上手くいきそうね・・・。)
アルセドを操りながら、リディアは心の中で呟く。だが、自分のしている ことがエッジの心を踏みにじっているような気がしてならなかった。また 、この後の計画を考えるとまさしく絶望を与えるような気がしてならない 。
しかし、今は後に引くことは許されない。エブラーナ国の安泰のため、 戦を起こさないため、平和な世で命を失うような惨劇を再び起こさない ためにエッジの力は必須なのである。
心痛いが、これを目処に恋沙汰とは縁を当分切ってほしい。
「へえ、『心』の強さってそんなに魅力あるものなのですか?素晴らし いものなんですか?」
リディア操る、アルセドがエッジの言葉を軽くあしらうかのような発言し た。
「テメエの使える最高魔法はなんだ?」
唐突にエッジは、アルセドの行使できる黒魔法の中での最高魔法を聞 く。
「僕の最高魔法ですか?変なことを聞く方ですね・・・。」
「まあ、自慢ではないですが炎の最高魔法『ファイガ』を行使できます よ。」
「『ブリザガ』『サンダガ』はまだなんですが、この世でファイガを使う魔 道士なぞ十人にも満たないでしょうね。」
つらつらとアルセドは自慢話を続ける。話しているのはリディアの意志 だが、実際にアルセドは黒魔法の炎の魔法『ファイガ』を修得している 優秀な魔道士なのである。
リディアの言っている言葉全てが嘘偽りではないのだ。
違うとすれば、本人の性格と今のリディアの作り上げた偽の性格であ ろう。実際の本人の性格は人を思いやることの出来る優しい心の持ち 主であり、今の作り上げた性格の全く正反対と言っても良い。
「じゃあ、その内の一人になってやるぜ。お前が既に修得している『フ ァイガ』と、まだ修得していない冷気の最高魔法『ブリザガ』、稲妻の最 高魔法『サンダガ』を一週間で身に付けてやる。」
(・・・・来た!・・・・)
予想通りの行動に出たエッジに、リディアは心の中で一言そう呟く。
「フッ、いいでしょう。魔法とは縁のない者が何処までやれるのか、じっ くりと拝見するとしましょう。『心』の強さとはいかほどのものか楽しみ です。」
まるで初めからこの勝負に揺るぎない自信があるかのように不敵な笑 いを浮かべ、アルセドは立ち上がる。
「もしも、この一週間で魔法を修得できなかった場合、どうするんです か?」
「その時は、リディアを諦める!」
アルセドの問いに、エッジは胸を張りそう宣言する。その瞳には不安と いうものは存在しておらず、逆に自信溢れた瞳をしていた。
「で、テメエはどうするんだ?」
「フフ、万が一もないと思いますが、修得した場合リディアから手を引く ことを約束しましょう。」
肩を揺らしながら、嘲笑しつつアルセドはエッジと約束を交わす。
「では、そろそろお暇しましょうか。一週間後を楽しみにしていますよ。 」
アルセドは別れの言葉を言い、扉に手をかけた途端。
「首を洗って待っていやがれ。」とエッジがアルセドの背に向けて言い 放った。
アルセドは何も言わず、ただ忍び笑いをしつつエッジの部屋を後にし たのだった。

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