FINAL FANTASYⅣ-恋い焦がれる異国の王-<第三話>
「どうも、お待たせしました。」
自宅の客間にテシンを通したリディアは、テシンに椅子を勧めなが ら謝罪の言葉を述べた。
「いや、リディア殿の配慮には感謝いたします。」
深く頭を下げながらいい、そしてリディアに勧められるがままにテシ ンは椅子に腰を下ろした。
「お茶をどうぞ。」
テシンが椅子にかけたと同時に、ポロムが紅茶を盆に乗せながら 現れ、二人の目の前に置いてゆく。
「いや、どうぞお構いなく。」
テシンがポロムに対して、恐縮しつつ言った。また、テシンのその 言葉にポロムは「いえ、お客様にこれぐらいのもてなしは当然です 。」とにこやかに返した。
それから茶を配り終えたポロムは、退出の言葉を述べその場から 出たのだった。
「良くできた子供ですな。しかし、何となく先程の少年と似ているよ うな・・。」
テシンは先程見た、口の悪い魔道士の少年を思いだした。性格は 正反対なものの、顔と雰囲気がそれとなく似ているように感じたの だ。
「似ているのも当然ですよ、彼女ポロムとパロムは双子の姉弟な んですから。」
クスクスと笑いながら、リディアが双子の姉弟について説明した。 その他にも、研修生としてミシディアから来ているのも説明した。
「成る程、そういうわけでありましたか。」
顎に蓄えた髭を撫でながら、テシンは頷く。
「それでは、本題に入りましょうか?」
話が一区切りした所で、リディアは本題に切り替える。ある意味仕 方ないような、なんとも言えない表情をしつつ。
「それで、話とはエッジのことですね?」
全てを見透かしたかのようにリディアはつらつらと話を進めてゆく。 また、テシンもリディアの言葉にうなだれつつも、顔を立てに振り続 けた。
だが、そんな彼もただ言葉無く頷いているだけでなく、不意に意を 決した表情を見せると、一気にリディアに質問を投げかけた。
「若の文に対する返事をすぐさま止めていただきたい!リディア殿 が何を考えているのか存じませぬが、我が国は今が重要な時期、 恋にうつつ抜かしている暇なぞないのです!」
息を切らしつつも、テシンは一気に溜まった不満や疑問をリディア にぶつけた。しかも、勢いで椅子からも立ち上がっての抗議だ。
少々、テシンの剣幕に押されながらもリディアは彼を宥め、落ち着 かせた。
「取り乱してしまい、申し訳有りませぬ。」
我に返って自分の失態を気づいたテシンは、謝罪しながら椅子に 座った。
「テシンさんのお気持ちは十分に分かります。ですが、私は面白半 分でやっているわけではないのです。」
「と、申しますと?」
意外な言葉に、テシンはリディアの言葉の続きを促した。
「実は、面倒な文書を出したのはエッジを国から出させないためな のです。何故なら、彼の性格上、文書の返事を途絶えさせた場合 、必ず私の元に押しかけにくるに違いないですから。」
リディアが苦笑を交えつつも説明する。確かに、あの実直な心の持 ち主である国王はそれぐらいの行動を平然にやってのけると背筋 が凍る思いをしつつテシンは思った。
「確か、今のエブラーナは復興に力を注いでおり、エブラーナに反 感を持つ部族がそれに乗じて不穏な動きをしているとか・・。」
「その通りです。」
目の前の女性魔術師の情報の速さに感服しつつ、テシンはリディ アの指摘を肯定した。
「ですから多少、国政に手を抜いていても、城主がその場から居な くという最悪の事態よりましと思い、私はなにかしら難しい文面の 返事を書くことを思いつきました。」
「城主の不在を知れば、それこそ反感を持った部族はエブラーナ に雪崩れ込むこととなるでしょうね。」
リディアはテシンに淡々と語ってゆく。そしてやはり魔道士は博識 であるとテシンは思いつつ聞き入っていた。
「ですが、そのことを警告した文面を送れば宜しいのでは?」
もっともな発言をテシンはする。
「いえ、それは無理です。恋文の返事を期待して文書を送るのです から、それにそぐわない返事を送れば、話をはぐらかせていると勘 違いし、更にこの事態を軽視してしまう恐れがあります。」
「成る程、信憑性に欠けてしまうというわけですな?」
「それもありますが、恋い焦がれるが故に非常に冷静な判断が出 来ないのもありますね。」
リディアは文書の効果、人間の心理や情報の意味などを説いてゆ く。
「どうせなら、諦めてくれてくれると一番良いのですが。まさか『下 位古代文字』まで解読するとは思いませんでした。」
エッジの行動はリディアにとって予想外だったことを、テシンに告げ る。
「私も諦めてくれればと思っていたんですが、遂最近送った『上位 古代文字』で書かれた文書もどうやら、解読するらしく・・。」
額の汗を拭きつつ、テシンはエッジの近況を言い、まるでこれから の対応をどのようにしたらよいか、すがるような視線をリディアに送 った。
「そうですか・・・。こうなればやや強引な手でゆくしかありませんね 。」
なにやら思案する素振りをしつつ、リディアは考えた。
(この問題を解決する方法は、エッジが私に対する気持ちにケリを つけさせるのが一番なんだけど・・・。)
(方法は二つ。私自身がエブラーナに嫁ぐか、もしくはその逆を・・・ 。)
(私としては前者は絶対イヤだし・・・、となると少し可愛そうな気が するけど・・この方法しかないものね。)
考えがひとまとまりし、意を決した表情をしたリディアはテシンに向 けてある案を提案した。そして、テシンはリディアのその提案に何 度も頷き、終いには「成る程!」と言い掌を叩いて納得した。
「いやはや流石、世を救った最高魔道士ですな。少々若には辛い 思いをさせてしまうが、国がかかっているが故仕方あるまい。」
テシンは興奮冷めやらぬ表情をして言い、その後豪快に笑い出し た。
「ええ、エッジには悪いですが、これしか方法はないので仕方ない でしょう。恐らくあの性格からしてきっとこれは成功すると思います よ。」
「いやしかし、リディア殿は私よりも若の性格を見切っておいでのよ うですなぁ。私としては地位的に問題あるリディア殿は若の嫁には 反対しておりましたが、これ程まで豊富な知識と、若の行動を見切 られておられると、リディア殿をエブラーナの妃として迎えても良い と思っておりますぞ!!」
「もし、この計略が失敗したらリディア殿に我がエブラーナに嫁いで 頂かないといけませんな~。」
やや冗談交じりにテシンは笑い声を上げながらリディアの嫁入りを 了解するような発言をする。
さすがにリディアとしても、突然のその発言に頬を赤くし二、三度 反論した。テシンもそのリディアの慌てぶりに笑いつつも「冗談で すよ。」と弁解する。
後は、その計画について実行日などを綿密に打ち合わせした。流 石にこればかりはエブラーナの未来がかかっているがために真剣 な話し合いが続けられた。
そして、夜更ける頃には何とか計画の目処が立ち、テシンは上機 嫌でリディアの元から去ることができたのだった。
テシンを見送った後、リディアはささやかな夕食を取ってから湯に 浸かり、後は自室のベッドに潜り込んだ。一日の疲れが睡魔という 形で自分を夢の世界に誘うのだ。
しかし、今日は眠れなかった。何故なら、先程のテシンの言葉が 今でも、自分の心を支配し、胸の鼓動を速めていているからだ。考 えるのを止めようとしても、そう考えれば考えるほど、考えがはっき りとしてくる。終いには考えるのを止そうとして顔を枕に埋めさえし た。勿論、それで事が済むとは思ってはいないが、そうしたかった 。
(今回の計画が成功すれば、エブラーナも元に戻るし、エッジも私 のことに興味を持たなくなる。)
(エッジが私のことに興味を無くせば、私もエッジのことで悩むこと もなくなる。そうすれば修得不可だった魔法も覚えることが出来る 。)
(全てはこれで済むはず。だけど、本当に私はエッジのことで悩ま なくなるのかな?)
(エッジの一方的な手紙だけで、私は悩んでいたのかな?私は何 で悩んでいたんだろう?少なからず迷惑ながら私はエッジの手紙 を楽しみにしていたような気もする・・・。)
(じゃあ、私は何に悩んでいたの?エッジと一緒に冒険していると きからずっとこういう気持ちで悩んでいたような気がする。)
(私はエッジのことを・・・。分からない、そうかも知れないけど、違う かも知れない。)
リディアがそこまで自問したが、答えは出なかった。そして、不意 に枕から顔を上げると仰向けに上体を起こし、真っ暗で何も見えな い天井を見やる。
「何考えているんだろう、私。寝よ寝よ!」
リディアは頭の中の雑念を追い払うかのようにそう言い、今度は布 団を頭までかぶった。
行動に出てから、少々時間がかかったがようやく睡魔が彼女を夢 の世界に誘おうと迎えに来たのだった。
(やっと来たか・・・。)
睡魔の精霊として呼ばれる、砂の小人にそう心の奥で文句を言い つつリディアは、夢の世界に旅立つのであった。
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