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< 双月 >
- On the night before the decisive battle -

第2話 『蒼き月』

酒場で思わぬ合流を果たしたセシルとカインは、
ジョッキ片手にローザとリディアを置いていく事について語り合っていた。
意見が真っ二つに割れた二人は、偶然合流したエッジにも意見を求めてみる。
そこでエッジが零した言葉は、二人の意表を突くモノだった。それは――

「アイツらが『戦士の顔』をしてるなら、オレは止めないぜ」


Phase-2 戦士の顔


――刹那の硬直。

それが解けると、僕は丸くした目をしばたかせた。
何を言っているんだ?――と。

ようやく解ったのは、エッジがローザたちを連れて行くことを
条件付きで容認したという事――それだけ。
それ以外は、言葉の意味からして理解不能だった。

突然の前言撤回――その真意を詰問するように、
今も皿を抱え込むように料理を平らげているエッジの顔を覗き込む。
まったくワケが解らないぞ、と。

エッジは意にも介さず、遅れてやって来た料理の数々を受け取っていた。
僕は店員が離れたところを見計らって説明を求める。

「止めないって、どういう事だよ?」

「ん? どういう事って訊かれても……。
 そりゃあ~、まぁ言葉通りってとこだろ?」

エッジは見向きもせずに即答。

要領を得ない返答に、僕は苦虫を噛み潰したような顔。
そういわれては身も蓋もないが、
自分の質問も端折りすぎていたのは事実。
僕はエッジの発言をサッと思い浮かべて質問を変える。

「だったら、『戦士の顔』っていうのは何だよ?」

「ああ、それね……」

僕が向けた怪訝な視線に、エッジは頷く。

「ウチの親父の格言みたいなもんさ」

勿体ぶった口調で、そう宣ってくれた。
のらりくらりと追及の手を逸らしてくれるエッジに、僕は憤然とする。
が、ワケが解らないままでは気持ちが悪い。

エッジは送られてきた催促の視線に鼻を得意げにひくつかせると、
肉の剥ぎ取られ、素っ裸になった骨でこちらを指しながら、
ニッと笑みを作った。

――そうして、ようやく重い口を開いた。

「オレたちは明日、敵の親玉をブッ倒しに月へ往く。
 ――だけどさ、それぞれの思惑って見事にバラバラだろ?
 カインの旦那は、借りを返したいだけだし、
 オレだって気に入らないヤツをブッ倒したいだけだ。
 そういう意味じゃ、セシルの旦那の月の民がうんぬんって御託も大差ない」

「…………」

「……でも、目的は同じさ。
 『敵の親玉を一捻りしてやる』ってのはな。
 その目的のお陰で、オレたちは一丸となっているワケさ」

僕は眉を顰める。

「……それとローザたちが、どう関係してるって言うさ」

話の意図が読めずそう言ってやると、
エッジは「まぁ、黙って聞いてろ」と返して話を続けた。

「目的は同じなら、そこに向かう理由は違ったって構わない。
 それは俺達自身が証明してるだろ?」

困惑顔で見つめる僕にエッジはニパッと笑いかけた。

「……ってことは、あの二人だって同じ目的さえ持っていれば、
 オレたちと同じってことにはならないか?」

「同じ……目的……?」

「ああ、そうさ」

得意げに頷くエッジ。
僕はそこに向かって呆れの声を上げた。

「ちょっと待ってくれ。
 そんなことを言ったら『一緒に居たい』ってだけでも、
 いいって事になるんじゃないのか?」

「違う違う」

苦笑いのエッジ。

間髪入れず、両手を左右に振って間違いのジェスチャー。

「それじゃ目的と理由が入れ替わってるだろ?
 言ってみれば、『一緒に居ること』が目的になっちまってるんだ。
 『ゼムスを倒しに行くこと』を理由にしてさ」

僕は更に眉間のしわを深めた。
それを隠すように頭が痛いと額に手を当てる。

「む、何だかよく解らないぞ」

「ははは、わからねぇかな」

「俺は何となく分かるぞ」

横からカインが笑った。

「つまりは仲間全員が一つの目的を見つめ、
 その達成を最善に考えて行動できるかってことだろう?」

「お、わかってんじゃん、カイン」

うんうんと、何度も頷くエッジ。
ピンと人差し指を立てて、僕の方へ向き直った。

「オレのオヤジはこういう言い方をしたぜ」


『目的のために己を捨てることができ、

 尚かつ、それを取り戻せることを信じられる人間――それが戦士だ』



声色まで真似て、そう宣うとエッジは呵々と笑った。

「ま、初めて聞いたときはサッパリ解らんかったけど、今なら解るぜ。
 セシルも人の上に立つ人間なら、これは知っておくべき事さ」

エッジは酒で口を湿らせて一息吐き、
打って変わった真摯な口調で言葉を続けた。

「目的を度外視でいるヤツや皆とずれているヤツは、和を乱す。
 また、困難な目的ほど、達成に和の乱れは禁物だ。
 仲間を無用な危険にさらす原因にもなりかねない。
 だから、もしそんなヤツが居たら、問答無用で切り捨てた方がいい。
 ――非情と言われようと、何と言われようとな」

真剣な眼差しを僕たちに送って、エッジは瞑目する。

「だが逆に、どんな理由で付いてこようと、
 目的が同じ……目的に向かう意志が共通なら、和は乱れない。
 そういうヤツが集まれば、意志は目的に向かって収斂して強い力になる」

エッジは目を薄く開いて、苦笑を浮かべた。

「オヤジ曰く――そういうヤツは、顔を見れば判るんだとさ」

エブラーナ王のことを思い出したのだろうか……
その声には一瞬、懐かしい色が帯びていた。

――と、すぐに表情を戻したエッジは、セシルの顔を見る。

「目的に向かう想いさえ本物なら、
 そこにどんな思惑が在ろうと、意志は必ず一つになる。
 女子供だって、自分に出来ること、出来ないこと……
 どんなヤツだって目的の達成を最善に考えて上で、
 それでも『付いていく』って言えるのなら、絶対に邪魔にはならねぇ。
 アイツらに俺達と同じ『ゼムスをブッ倒す』って意志が在るなら、
 ……それは無視出来ねぇだろ?
 もし、そんな顔してたら迎え入れるしかないんじゃないのかい?」

エッジはジョッキの中身を一気に飲み干すと、
テーブルにドンと置いて「違うかい?」と更に覗き込んできた。

「…………」

「セシル、そんなもんさ」

カインはさっきの仇を取るように頷いて見せた。

僕は憮然として兄貴風吹かすカインから目を逸らす。
そのまま目を閉じて、エッジの言ったことを反芻してみると……。

……確かに一理ある。

だが、そう認めつつも僕は眉を顰めた。

エッジたちの言い分――その正しさは兎も角、
それを容認してしまっては……
また、彼女たちを戦いに巻き込むことになってしまう。
――しかも今回は死出の旅路かもしれないのだ。

(僕は……)

僕は、エゴかもしれない自分の考えを捨てきれず、
どんどん眉間のしわを深めていく。

そんな僕をあやすように、カインは言った。

「だったらセシル……一つ賭をしよう」

「は?、賭けだって?」

「ああ、そうだ。
 ローザとリディアが明日、真剣に付いてきたいって言うかどうかを、さ。
 判定は、付いてくるって訴えてきたときの顔が
 連れて行くに値するかどうか……。
 多数決で決めるってのは、どうだい?」

途端――横で膝を打つエッジ。

「いいねぇ、面白い。オレは乗ったっ!」

呆気に取られている僕を尻目にエッジが嬉々と答えた。

「ローザは付いてくると思うぜ。
 嬢ちゃんの方は……ま、ピクニック気分だからな。
 置いてく方に賭けようっと」

「おれは両方付いてくると思う。
 セシルは当然、両方置いていく、だよな?
 ……よし、これで賭は成立だ」

勝手に進行していく話しぶりに、僕は焦る。

「お、おいおい待てよ……
 それって、認めたら連れて行くってことなのか?」

「当たり前だろ?」

「あ、当たり前って……」

カインとエッジは、あからさまに溜息を吐く。

「セシル――
 俺達は死にに往くんじゃない。
 負けられない戦いへ往くんだぜ?
 だったら、目的に向かわない私心は廃するべきだろ?」

「純粋に戦力が増える……それは喜ぶべき事さ。
 ……あ、まだ納得できないのか?
 意外にガキっぽいな、セシルの旦那は」

顔を見合わせて苦笑を交わすと、
二人は僕を見た――覚悟を決めろ――と。

僕は口の端を引きつらせる。
文句の一つも挟みたかったのだが、二人はもうノリノリだ。
しかも、彼らを説き伏せる材料を……僕は持ち合わせていない。

僕は鈍痛を抱えたように額に手を当てた。

「お、ようやく納得したみたいだな」

ご丁寧にジェスチャーを通訳してくれるエッジ。

どうやら僕に拒否権はないらしい。
悲しいかな……しょうがない。

「……わかった。それで良いけど……。
 二人とも、彼女たちをそそのかすんじゃないぞ。
 そのときは賭は不成立だからな」

「ああ、異論ない」

「それでいいぜ」

カイン、エッジ、共に頷く。
僕も苦い顔で頷き返して、

「で、何を賭けるんだ?」

「勝った者が負けた者に一つ命令できるってので、どうだい?」

「ま、それくらいが妥当だろうな」

カインの同意に僕も頷く――あっさりと決定。
それほど変な命令もないだろうと高をくくっての同意だ。
正直、余り熟考して変な罰ゲームになっても困る。
この辺りで手を打っておくのが無難だと思えた。

(でも、エッジあたりが勝ったら拙いかな……?)

僕はそんな思いが過ぎり……反射的に溜息が。
まったく……今日、何度目の溜息なんだか……。



「さぁ、暗い顔はここまでだっ」

エッジは、ぱんっと両手を会わせる。 

「今夜はパ~ッと行こう、パ~ッと。
 オレたちゃどう転んでも遊んでいられる最後の夜さ。
 騒がにゃ損ソンッ!」

打って変わった陽気な声に思わず苦笑する。

確かにその通りだった。
この戦いが勝利に終われば、僕とカインはバロンの復興、
エッジはエブラーナの再興に忙殺されるだろうし、
負ければ当然……。
どっちに転んだとしても、
気楽に笑っていられる最後の夜であることに違いはないだろう。

「「そうだな」」

僕とカインが同時に頷くと、
エッジは「だろっ?」って得意げに笑った。

同意を取ったエッジは、メニュー片手にサッと立ち上がると、
店員を捕まえて、あれやこれやと注文していく。
まったく以て素早い素早い。

エッジの変わり身の早さに呆れて、
カインと僕は顔を見合わせ……同時にプッと噴き出した。

「でも、まぁ偶にはハメを外すのも良いか」

「それもそうだな、今日はとことん飲もう。カイン」

「ああ、久々に酒蔵を空にしてやるか」

「そうと来れば……」

僕らは示し合わせたように同時に立ち上がる。

そして、注文を続けるエッジを両脇を固めると、
捕まえた店員を取り囲んで、メニューを奪い合うように注文していく。
もう、メニュー全部持ってこいと言った方が早いかもしれない。

「お、いいねぇ~」

エッジはお株を奪われ、
一瞬呆気に取られたような顔で、そう洩らすが……。

しかし、エッジがそのままで終わるはずもなく、
ニッと笑みを見せて……更に調子に乗った。

――軽やかな跳躍。

宙を舞うように華麗に飛び上がると、手近なテーブルの上に音もなく着地。
料理を蹴飛ばしてないところは流石だ。

「よぉし、みんな。こっち見ろっ!」

周りの客に向かって声を張り上げる。

なんだなんだと注目が集まる。
充分に視線をかき集めたところで、エッジはこう宣言した。

「いいか?――今日の飲み代は、ぜ~んぶオレ達の奢りだ。
 何喰ってもタダッ!、何飲んでもタダッ!!
 だから勘定心配せずにじゃんじゃん飲め、じゃんじゃん喰えぇぇ~」


途端――店内が騒然となった。

僕とカインも一瞬ギョッとなったが、結局苦笑を浮かべただけだった。
路銀は腐るほど有るし、それも一興だと思える。
こんな馬鹿げた事が出来るのも、きっと最後だ。

僕もカインもエッジに向かって、ぐっと親指と立てた。

エッジもウインクで返してくる。

すると一端は騒然とした店内が水を打ったように静まりかえっていく。
エッジの言葉を聞いた者も――
喧噪で聞こえず、又聞きの者も――
等しく仁王立ちしたエッジに視線を送る。

そして、全員の注目が集まったところで誰かが言った――「マジかっ!?」と。

エッジは勿体ぶった視線で客達を見回す。
当たり前だと言わんばかりに白い歯を見せて破顔する。
そして、ぐっと親指を立てた。

「応よ!」

「「「「「「「「「「うおおおぉぉぉ~~~!!」」」」」」」」」」


地鳴りのような声、声、声――

まさに耳を塞ぎたくなるほどの大音響だった。
どよめきと笑いの止まらない客たちに、エッジはご満悦だ。
怒濤の注文合戦が始まるのを見て、腹を抱えて愉快に笑った。

逆に災難は店員だった。

接客の店員は、客という客に引っ張りダコのタライ回しにあい、
服や髪を引っ張られて無事なものはいない。
もちろん厨房の方もネズミ算に増えていく膨大な注文で火の車だろう。
酒、酒、料理、酒、料理……いったいどれほどあるだろうか……。
まあ、物が無くなるまで続くだろうけど。

一番気の毒だったのは、
おそらく最初エッジに捕まった店員だったろう。

指折りしながら注文を暗記していた店員は、
エッジだけでも多かった注文を僕とカインに横から増やされて大慌て。
終いには、他の客からも四方八方同時に注文を受けて、
まるでコンフュを喰らったように目を回した。

それでも文句を言わなかったのは、店員の鑑ということだろうか……。

(ま、運の尽きと諦めてくれよな……)

僕は同情の視線を向けながら、
ふらふらと厨房へ戻るその店員の背中に苦笑を零した。

もう、店内は大混乱だった。


     ☆


「はいはい、ご注目~」

料理も酒も一通り行き渡ったところで、
エッジがおもむろにジョッキ掲げて、椅子の上に立ち上がる。

――と、ざわついていた店の客全員の注目が一斉に集まる。

エッジは「静粛静粛~」と手のひらをヒラヒラさせ、
静まりかえったのを見計らって、コホンと咳払い。

「え~、それでは僭越ながら私めエッジこと、
 エブラーナのエドワード=ジェラルダインが
 今宵一夜の宴、乾杯の音頭を取らさせて頂きます」

と、気取った顔で宣言――

「なぁ~に、かしこまってんだ!?」

すぐに誰かのちゃちゃが入って、途端に高笑が湧く。
当然、僕もカインもだ。

「うるせぇよ、ソコ」

エッジも、そこはわきまえたもの――
ワザと憮然とした顔を作って軽く流し、更に爆笑を誘う。
そして、その受けの良さにニヤリと笑った。

「……ま、いいや。
 んじゃ、みんなジョッキ持ったか!?」

「「「「「「「応っ!」」」」」」」

「料理も揃ってるか!?」

「「「「「「「応ぉっ!」」」」」」」

「よぉ~し、じゃあジョッキを掲げろ~」

「「「「「「「応ぉぉぉっ!!」」」」」」」

「それじゃあ~」

「「「「「「「くぁんぱぁああああああああ
『うるさぁい!! ドガッ、』
 ああああ~~~いっ!!」」」」」」」


――耳を塞ぎたくなる絶叫が店内に満ちた。

続いて、絶叫の余韻醒めやらぬ中――
或る者たちは、豪快な一気飲みレースを始め、
或る者たちは、芸を興じて場を湧かす。
誰もが骨付き肉やジョッキを片手に店内を練り歩き、
面白い事はないかと見て回る。
店員は、相変わらず接客でおおわらわ……。

――まさに混沌。

一斉に始まった、飲めや喰えや歌えやの大騒ぎ。
もう、これは誰にも止められない……。

――が。

「……あれ?」

店内がそんな奇声怒声で渦巻く中、
減っていない最初のジョッキを手に持ったまま、僕は一人キョトンとしていた。
その頭上には『はてな』が幾つも飛んでいる。

「なぁ、カイン」

「……んぁ、なんだ?」

早くも3杯目を飲み干そうとしているカイン。
場の雰囲気に浸っていたようで、一瞬遅れてこちらを見た。

「妙な音というか、妙な声というか……
 聞こえなかったか? さっき」

「さっき?」

「乾杯の音頭のときだよ」

カインは「……ん?」と首を傾げて、

「……いいや、俺は気が付かなかったが」

「そうか、僕の気のせいかな」

何だか、とても聞き覚えのある声が聞こえたような気がしたけれど……。
それにすぐ横の壁……あんなにヒビ、入っていただろうか?

僕は、ふむと顎に手を当てて……『ま、いいか』と肩をすくめた。

なんだかんだと言って、今日はよく飲んでいる。
自分では気が付かないウチに、かなり酔いが回っているのかも知れない。

「お、酒が進んでないじゃないか、セシル」

すぐそこでジョッキを持ったエッジが笑っていた。
持ったジョッキは片手に三つ、もう片方に三つ――計六杯だ。
どうやら、手の回らない店員に業を煮やして接客を手伝い始めたらしい。

真っ先に自分たちの分を確保するところが、如何にもエッジらしいが……。

「そんなんじゃ、みんなに飲まれちまうぜっ!」

そう言って、ククッと笑うエッジ。

「言ってろよっ」

僕はふんっと鼻であしらい、手に在るジョッキを一気に空けると、
エッジの持ってきたジョッキを一つ奪って、また一気に飲み干す。
そして、最後にプハッと酒気を吐き出した。

「お、やるねぇ~」

「俺も負けていられんな」

二人、顔を見合わせて苦笑を上げた。
僕はそんな二人に向かって、

「なんの、まだまだぁ~」

と気勢を上げ、エッジの手からもう一つジョッキを奪い取った。

「「「…………ぷっ」」」

視線が丸くなった二人の目とぶつかって、今度は三人同時に噴き出す。
そして、そのまま腹を抱えた大笑いに繋がった。

――陽気で無邪気で、何の打算もない素直な笑い声。

そんな腹の底からの笑い声に、
周りの客たちもワケも分からず同調して、連鎖して……。
店全体が陽気な笑い声で包まれていった。



(楽しいな……)

僕の酒気漂う意識の海に、そんな想いがたゆたう。

(みんなで味わう、こんなひとときを――僕は守りたい)

他愛のない、こんな些細なひとときを。
ここに居て僕を助け、力になってくれる仲間達を。
暗黒騎士として蹂躙した僕を受け容れてくれたこの――ミシディアの民を。
そして……かけがえのないこの星の人々を。

――守りたい。
みんなの幸せを守りたい。

(だから、戦えるんだ――)と、そう確信する。

不意に窓の外を見た。

明るい夜空――そこにぽっかりと浮かぶ二つの月。
中天から傾き始めたそれは、闇夜の双眸のように僕を見つめてくる。

僕は、覗いた月に向かってジョッキを掲げた。

(負けられない。
 どんな敵が待っていようと、絶対に負けないからな……)

僕はそう月に誓うと、一気に飲み干す。

そして、意識は程良い酩酊感と共に、
目の前で繰り広げられる大宴会の雰囲気に融けていった。



僕たちの夜は――まだ、終わらない。



第3話 『真昼の月を見上げて』 -餞-
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