【戴冠式の夜 Phase 3】
「ローザ、戻ってこない…」
「リディアを寝かしに行ったんじゃないのか?」
「そうなんだけど、戻ってこないんだ」
「…確かセシル殿の部屋は階段がいくつもあったはずではないか?」
疲れているヤンが僕に声をかけた。
「じゃあもしかして…!行ってくる!」
「おい、待てよ!俺も行くぜ!」
「みんなはここで待っていてくれ!」
「…セシルはいいとして何故エッジまで付いていくんじゃろな」
はてなを頭に上げながらシドは言った。それにすかさず答えるギルバート。
「シドさん、気づいてないんですか?リディアですよ」
「うむ、しかし今行くと寝起きを襲うことになるんじゃが?」
「それは…なんとかするでしょう?セシルがなんとかしてくれますよ」
ローザ…リディア…!頼むから階段から落ちるなんてことは…!
「何で頭抱えてんだ?」
「エッジ、僕の部屋は知らないんだ」
「どういうことだ、そりゃ」
「僕の部屋は左の塔の最上階。つまり…」
「へへ…なんとなくわかったぜ…そりゃ急がないとな!」
どうやらエッジも分かってくれた気がする。
「急ごう!」
僕たちは走り出した。そんなに距離はないはず…!
「ローザ!リディア!」
「おいおい、リディア寝てるんだろ!?」
「だけど!」
「ゆっくり行くのさ…そっとな」
確かにエッジの言うことは正しい。リディアは寝てるだろうし。
左の塔2階。ローザとリディアはいない。
「いるのかな」
「…たぶんな」
「だけどローザはどうしたんだろ」
「そんなに気になるなら行ってみたらどうだ?俺は…やめとくけどな」
エッジらしくない言葉が出た。
「俺は階段から落ちてないか心配しただけさ…まぁな…リディアも心配だけどよ…」
「僕は見てくる。しばらく待っていてくれるか?」
「ああ、いいぜ」
エッジも意外といいところあるんだな…と僕は思った。
そして、僕の部屋。
リディアはきちんとベッドで寝ていたけど、心配になったのはローザだった。
そのままの格好で寝てしまっている。
「ローザ…何やってるんだか…まったく…」
「…起きてるわよ」
「いっ!?」
「うふふ…寝てると思ってたでしょ?」
「それは…ね。気持ちよさそうに寝てるんだ…起こしたら悪いと思って」
「でもね、セシル。ちょっとは寝たのよ」
「どういうことだい?」
「あなたがここに来た瞬間に目が覚めたのよ…」
「そういうことかい…さぁ、夕食の時間だ」
「そうね…リディアは?」
「1つ下の階にいるお方が何とかしてくれるよ」
「???」
「エッジ、来いよ」
「おいおい、いいのかよ!?」
「いいっていいって!」
僕はエッジを呼んだ。目的はただ1つ。
「じゃあ、任せた」
「任せた…っておいセシル!?」
「僕らは夕食食べに行くから」
「リディアをお願いね♪」
「てっ…てめー!最初からこのつもりだったのか!?」
「引っかかるエッジが悪い。それに、リディアって聞いた瞬間に付いてきたからね」
「じゃあエッジも…リディアのこと…」
「る…るせー!俺はなぁ…階段から落ちてないか心配して…」
「強がりはよせよ、エッジ。顔に出てるって」
「…!!」
エッジは負けたという表情でセシル達を見た。
「フッ…負けたよ。飯行ってこい!」
「ありがと、エッジ」
「すまないな」
「いいってことさ…」
でも僕は確実にトホホ顔を見た。だけど本人は嬉しいだろうね、きっと。
「う…ううん…誰か…いるの…?」
「起きちまったか」
私は上半身を起こし、声のした方向へ向く。
「エッジ…私どうしてこんなところに?」
「泣き疲れて寝たって聞いたぞ、セシルから。それをローザが階段駆け上がってそのベッドで寝かせたんだとよ」
「そう…この部屋…」
「ああ、俺も初めて見たんだが、セシルの部屋だとよ」
「セシルの…あっ」
顔がとたんに赤くなる。私…もしかして…?
「どした?」
「なんで…エッジがいるのかなって」
「…見張りみたいなもんだよな、これって。だけどよ、道分からないだろ?」
「うん、どこだかわからないよ…」
私はまだ飲み込めてなかった。セシルの部屋だってことはわかったんだけど、バロン城のどこかまでは…
「あそこのテラスからまっすぐに見えてた塔の中さ」
「そう…なんだ」
「最上階な。ローザも大したもんだ。リディア担いでこの階段上がってきたんだろうよ…」
「え…?」
「まったく、大したお妃さんだ…」
「エッジ、戻らないの?」
「おめーが起きるまでここにいるつもりだったんだがよ、起きちまったから…戻るとするか」
「待って」
「なんだ?」
「…その…行かないで」
(おいおい、どういうことだよ!?)
エッジは私の言葉に動揺してる。
「だから…行かないで」
「なんでだ?」
「あの…その…怖い…から」
明かりはついているとはいっても、そんなに明るいわけじゃないから…
私…暗いのはダメ…みんなには話してないけどね。
「…怖いだぁ?」
「みんなには…話さなかったんだけど…私、暗いとこは苦手なの」
「暗所恐怖症ってやつか?おめーに苦手な物があるのは珍しいぜ…苦手な物なんてないと思ってたからな、俺は」
私の身体がガクガク震えている。暗いのと緊張で…
「そう言えばね…セシルやギルバートに言われたんだけど…」
「なんだ?」
「私のこと…どう思ってるの?」
「どうって…」
「お願い、正直に答えて」
「正直に…ねぇ」
「…答え…られないの?」
「いや…言って良いのかどうだかわからねぇもんでさ」
「言って。すっきりしちゃった方が身のためよ?」
私はセシルやギルバートに言われたことをそのままぶつけてみた。
どんな答えが返ってくるかはわからない。
でも、私はそのことを確かめたくてエッジに質問をぶつけてる。
「そうだな、言い切っちまった方が…良いのかもしれねぇしな…」
「こんな時だからこそ、言えるんじゃない?」
私はさらにエッジにプレッシャーをかける。
こんなこと聞かれたらどうするのかな、みんな。
絶対に言わせるよ、私。
でもね、私も気づいてるんだ。
「かもしれねぇ。だけどよ、気持ちの整理がついてねぇ…なんつーか、な…」
「もう、じれったいっ!」
私はベッドから降りて、エッジに近づく。
「さぁ、言ってみて。小声でもいいからね」
エッジの顔が赤くなったのを私は見逃すはずはなかった。
「逆に言いにくいじゃねーか…そんな近づかなくたっていいじゃねーかよ…」
「じゃあ離れた方がいい?」
「いや…」
「じゃあこのままでいいでしょ?」
私はエッジの顔をのぞき込む。
「リディア…」
「エッジ、もう…覚悟はできてるんだよね」
「…ああ」
「目、つぶって」
そう言われてエッジは目をつぶった。
その瞬間に私は…
「言いたかったのは…これでしょ、エッジ…」
「そうかもしれねぇ…正直、自分でもよくわからねぇや…」
「ここまで来て否定するの?」
「いや、否定はしねぇよ。リディアが何て言うかわからねぇからな」
「もう…恋愛に対する度胸ないんだから!」
「るせーな…でもよ、リディア」
「なぁに?」
「いろいろな女をこの世界で見てきたけどよ…」
「わかった。私よりきれい、可愛い女はいない、でしょ?」
「てめー!言いたいこと言ってくれやがって!!」
「なによ!私が言わなかったら言ってなかったでしょ!?」
「うっ…そ、それはだな…」
あ、図星。エッジも可愛いとこあるよね。
「弁解したって無駄だよ。じゃあ…戻ろうよ」
「…ああ…」
「…好きだよ、エッジ」
「…俺もだよ、リディア」
そして私たちが戻ろうとしたら…
「仲良く一緒に出てきたね」
「セシル!?ローザ!?おめーら夕食行ったんじゃ…!?」
「ってことは今の話…2人とも聞いてたの!?」
「完璧にね。ローザも全部聞いてたし」
「てめーセシル!わざとこんな状況作り出したな!?」
「僕が作ったんじゃない。リディアという言葉に釣られたエッジが悪いと思う!」
セシルはセシルで、ひどい…でも…そのセシルのおかげで私は…
でもセシル、容疑は否認してるよね。無罪なんだけどね、セシルは…
「2人とも!今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!?」
すかさずローザが諭しに入る。
「…まぁでもよ…あんたのおかげでこうなったんだ…お礼を言わせてもらうぜ」
「お礼を言うなら…ローザに言ってくれるかな?この計画、ローザがとっさに思いついたんだ」
「な…なんだってぇ!?」
「そんな…ローザが…!?」
「僕も最初びっくりしたんだけどさ。ローザって強引だし」
「ローザ…私…そんなことするような人だって全く思ってなかったのに…」
私は全くを強調する。
「なんてこったい…」
「これで、エッジとリディアも恋人同士、よね?」
「…僕の負けか」
「そうなるわね、セシル」
「どういうこったい?」
「僕が勝てばローザが男装する、ローザが勝てば僕が女装する」
「ってことは…セシル!?」
「おいおい、わからねぇよ」
「エッジ、気づいて。私たちがもし恋人な関係じゃなかったら、セシルが勝ってたの」
「ってことは!ローザ!てめー!俺達をダシにしやがったな!」
「ダシになんてしてないわよ?話が勝手に進んだだけじゃない…私のせいじゃないわよ」
「なっ…」
ローザの言うとおり、私が勝手に話を進めた。それが結果的にセシルを苦しめる結果になっちゃったけど。
「さ、戻りましょ♪セシル、あなたは私と一緒に衣装変えよ」
セシルはうつむいたままだった。
「悔しいけど、ローザの言ってることが正しいの。だから…怒らないでね」
「くそー…あとでぜってー仕返ししてやるぜ…」
こうして私たちは王の間に戻ることになった。