「リディアを寝かしに行ったんじゃないのか?」
「そうなんだけど、戻ってこないんだ」
「…確かセシル殿の部屋は階段がいくつもあったはずではないか?」
疲れているヤンが僕に声をかけた。
「じゃあもしかして…!行ってくる!」
「おい、待てよ!俺も行くぜ!」
「みんなはここで待っていてくれ!」
「…セシルはいいとして何故エッジまで付いていくんじゃろな」
はてなを頭に上げながらシドは言った。それにすかさず答えるギルバート。
「シドさん、気づいてないんですか?リディアですよ」
「うむ、しかし今行くと寝起きを襲うことになるんじゃが?」
「それは…なんとかするでしょう?セシルがなんとかしてくれますよ」
ローザ…リディア…!頼むから階段から落ちるなんてことは…!
「何で頭抱えてんだ?」
「エッジ、僕の部屋は知らないんだ」
「どういうことだ、そりゃ」
「僕の部屋は左の塔の最上階。つまり…」
「へへ…なんとなくわかったぜ…そりゃ急がないとな!」
どうやらエッジも分かってくれた気がする。
「急ごう!」
僕たちは走り出した。そんなに距離はないはず…!
「ローザ!リディア!」
「おいおい、リディア寝てるんだろ!?」
「だけど!」
「ゆっくり行くのさ…そっとな」
確かにエッジの言うことは正しい。リディアは寝てるだろうし。
左の塔2階。ローザとリディアはいない。
「いるのかな」
「…たぶんな」
「だけどローザはどうしたんだろ」
「そんなに気になるなら行ってみたらどうだ?俺は…やめとくけどな」
エッジらしくない言葉が出た。
「俺は階段から落ちてないか心配しただけさ…まぁな…リディアも心配だけどよ…」
「僕は見てくる。しばらく待っていてくれるか?」
「ああ、いいぜ」
エッジも意外といいところあるんだな…と僕は思った。
そして、僕の部屋。
リディアはきちんとベッドで寝ていたけど、心配になったのはローザだった。
そのままの格好で寝てしまっている。
「ローザ…何やってるんだか…まったく…」
「…起きてるわよ」
「いっ!?」
「うふふ…寝てると思ってたでしょ?」
「それは…ね。気持ちよさそうに寝てるんだ…起こしたら悪いと思って」
「でもね、セシル。ちょっとは寝たのよ」
「どういうことだい?」
「あなたがここに来た瞬間に目が覚めたのよ…」
「そういうことかい…さぁ、夕食の時間だ」
「そうね…リディアは?」
「1つ下の階にいるお方が何とかしてくれるよ」
「???」
「エッジ、来いよ」
「おいおい、いいのかよ!?」
「いいっていいって!」
僕はエッジを呼んだ。目的はただ1つ。
「じゃあ、任せた」
「任せた…っておいセシル!?」
「僕らは夕食食べに行くから」
「リディアをお願いね♪」
「てっ…てめー!最初からこのつもりだったのか!?」
「引っかかるエッジが悪い。それに、リディアって聞いた瞬間に付いてきたからね」
「じゃあエッジも…リディアのこと…」
「る…るせー!俺はなぁ…階段から落ちてないか心配して…」
「強がりはよせよ、エッジ。顔に出てるって」
「…!!」
エッジは負けたという表情でセシル達を見た。
「フッ…負けたよ。飯行ってこい!」
「ありがと、エッジ」
「すまないな」
「いいってことさ…」
でも僕は確実にトホホ顔を見た。だけど本人は嬉しいだろうね、きっと。
「う…ううん…誰か…いるの…?」
「起きちまったか」
私は上半身を起こし、声のした方向へ向く。
「エッジ…私どうしてこんなところに?」
「泣き疲れて寝たって聞いたぞ、セシルから。それをローザが階段駆け上がってそのベッドで寝かせたんだとよ」
「そう…この部屋…」
「ああ、俺も初めて見たんだが、セシルの部屋だとよ」
「セシルの…あっ」
顔がとたんに赤くなる。私…もしかして…?
「どした?」
「なんで…エッジがいるのかなって」
「…見張りみたいなもんだよな、これって。だけどよ、道分からないだろ?」
「うん、どこだかわからないよ…」
私はまだ飲み込めてなかった。セシルの部屋だってことはわかったんだけど、バロン城のどこかまでは…
「あそこのテラスからまっすぐに見えてた塔の中さ」
「そう…なんだ」
「最上階な。ローザも大したもんだ。リディア担いでこの階段上がってきたんだろうよ…」
「え…?」
「まったく、大したお妃さんだ…」
「エッジ、戻らないの?」
「おめーが起きるまでここにいるつもりだったんだがよ、起きちまったから…戻るとするか」
「待って」
「なんだ?」
「…その…行かないで」
(おいおい、どういうことだよ!?)
エッジは私の言葉に動揺してる。
「だから…行かないで」
「なんでだ?」
「あの…その…怖い…から」
明かりはついているとはいっても、そんなに明るいわけじゃないから…
私…暗いのはダメ…みんなには話してないけどね。
「…怖いだぁ?」
「みんなには…話さなかったんだけど…私、暗いとこは苦手なの」
「暗所恐怖症ってやつか?おめーに苦手な物があるのは珍しいぜ…苦手な物なんてないと思ってたからな、俺は」
私の身体がガクガク震えている。暗いのと緊張で…
「そう言えばね…セシルやギルバートに言われたんだけど…」
「なんだ?」
「私のこと…どう思ってるの?」
「どうって…」
「お願い、正直に答えて」
「正直に…ねぇ」
「…答え…られないの?」
「いや…言って良いのかどうだかわからねぇもんでさ」
「言って。すっきりしちゃった方が身のためよ?」
私はセシルやギルバートに言われたことをそのままぶつけてみた。
どんな答えが返ってくるかはわからない。
でも、私はそのことを確かめたくてエッジに質問をぶつけてる。
「そうだな、言い切っちまった方が…良いのかもしれねぇしな…」
「こんな時だからこそ、言えるんじゃない?」
私はさらにエッジにプレッシャーをかける。
こんなこと聞かれたらどうするのかな、みんな。
絶対に言わせるよ、私。
でもね、私も気づいてるんだ。
「かもしれねぇ。だけどよ、気持ちの整理がついてねぇ…なんつーか、な…」
「もう、じれったいっ!」
私はベッドから降りて、エッジに近づく。
「さぁ、言ってみて。小声でもいいからね」
エッジの顔が赤くなったのを私は見逃すはずはなかった。
「逆に言いにくいじゃねーか…そんな近づかなくたっていいじゃねーかよ…」
「じゃあ離れた方がいい?」
「いや…」
「じゃあこのままでいいでしょ?」
私はエッジの顔をのぞき込む。
「リディア…」
「エッジ、もう…覚悟はできてるんだよね」
「…ああ」
「目、つぶって」
そう言われてエッジは目をつぶった。
その瞬間に私は…
「言いたかったのは…これでしょ、エッジ…」
「そうかもしれねぇ…正直、自分でもよくわからねぇや…」
「ここまで来て否定するの?」
「いや、否定はしねぇよ。リディアが何て言うかわからねぇからな」
「もう…恋愛に対する度胸ないんだから!」
「るせーな…でもよ、リディア」
「なぁに?」
「いろいろな女をこの世界で見てきたけどよ…」
「わかった。私よりきれい、可愛い女はいない、でしょ?」
「てめー!言いたいこと言ってくれやがって!!」
「なによ!私が言わなかったら言ってなかったでしょ!?」
「うっ…そ、それはだな…」
あ、図星。エッジも可愛いとこあるよね。
「弁解したって無駄だよ。じゃあ…戻ろうよ」
「…ああ…」
「…好きだよ、エッジ」
「…俺もだよ、リディア」
そして私たちが戻ろうとしたら…
「仲良く一緒に出てきたね」
「セシル!?ローザ!?おめーら夕食行ったんじゃ…!?」
「ってことは今の話…2人とも聞いてたの!?」
「完璧にね。ローザも全部聞いてたし」
「てめーセシル!わざとこんな状況作り出したな!?」
「僕が作ったんじゃない。リディアという言葉に釣られたエッジが悪いと思う!」
セシルはセシルで、ひどい…でも…そのセシルのおかげで私は…
でもセシル、容疑は否認してるよね。無罪なんだけどね、セシルは…
「2人とも!今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!?」
すかさずローザが諭しに入る。
「…まぁでもよ…あんたのおかげでこうなったんだ…お礼を言わせてもらうぜ」
「お礼を言うなら…ローザに言ってくれるかな?この計画、ローザがとっさに思いついたんだ」
「な…なんだってぇ!?」
「そんな…ローザが…!?」
「僕も最初びっくりしたんだけどさ。ローザって強引だし」
「ローザ…私…そんなことするような人だって全く思ってなかったのに…」
私は全くを強調する。
「なんてこったい…」
「これで、エッジとリディアも恋人同士、よね?」
「…僕の負けか」
「そうなるわね、セシル」
「どういうこったい?」
「僕が勝てばローザが男装する、ローザが勝てば僕が女装する」
「ってことは…セシル!?」
「おいおい、わからねぇよ」
「エッジ、気づいて。私たちがもし恋人な関係じゃなかったら、セシルが勝ってたの」
「ってことは!ローザ!てめー!俺達をダシにしやがったな!」
「ダシになんてしてないわよ?話が勝手に進んだだけじゃない…私のせいじゃないわよ」
「なっ…」
ローザの言うとおり、私が勝手に話を進めた。それが結果的にセシルを苦しめる結果になっちゃったけど。
「さ、戻りましょ♪セシル、あなたは私と一緒に衣装変えよ」
セシルはうつむいたままだった。
「悔しいけど、ローザの言ってることが正しいの。だから…怒らないでね」
「くそー…あとでぜってー仕返ししてやるぜ…」
こうして私たちは王の間に戻ることになった。