「私の勝ちよね?だってそう決めたんだし」
そう、私は賭けに勝った。
そして私はセシルに女装をさせる。
そんなに辛くはないんだけど、でもやっぱりおかしいよね?
「セシル…女の子としても生きられるわね」
私はセシルの格好に驚きを隠せなかった。
似合いすぎ。男にしておくのはもったいないくらいの可愛さで…
「セシル、女声出してみて」
「な…なんてことを言い出すんだ…」
「いいから。喋ってみて」
「まったく……ダメだ、言えないよ」
「でもみんなの前に出たら…ねぇ?」
(ローザめ…だけど…しょうがないか。負けたんだし)
私はセシルの女声を楽しみにしていた。
「……私…おかしいかな………?………絶対無理だよ、ローザ!」
「うふふ…なかなか可愛い声出せるじゃない…さ、行きましょ」
「お、おいローザ!?」
私はセシルの腕を引っ張って行く。
「くそー、ローザの野郎…」
「私たちの負けだよ。もう…そんなに怒らなくても良いんじゃないの?」
私は戻りながらエッジに話をする。
「だけどよぉ…なんかムカツクんだよなぁ、やっぱ」
「それは私もひどいと思ったよ。でもね、でも…」
私はそれ以上言えなかった。だって、ローザのおかげで私とエッジは…
「ローザに感謝しなきゃいけないね」
「どういうことだよ、リディア!?」
「教えてあげない♪」
「てめー!教えろ!」
「やだも~ん♪」
私はエッジをからかいながら王の間へ向かう。
「まだセシル達戻ってないみたいだね」
「ああ。もう踊りは終わっちまったか?」
「まだ…だと思うよ」
「リディア、踊らねぇか?」
「…いいよ♪」
私はエッジと一緒に踊り出した。
「やっと…繋がったみたいですね」
「何じゃギルバート、繋がらないとでも思っとったのか?」
「いえ、全く。僕としてはこうなって欲しかったんですよ」
「じゃろうが。しっかし、パロムとポロムも恐ろしい奴らじゃな」
シドは酔いながらも僕に言う。たぶんあと数分で寝そうな勢いではある。
「2時間踊りっぱなしですね」
「これから夕食だというのに…5歳の子どもと言えませんね」
ジオット王の娘、ルカも丁寧に僕に言う。
「ギルバート殿、よくご覧なされ」
「うん?」
僕はポロムとパロムを見た。
「ヤン殿、まさか」
「うむ、何故2時間も踊り続けられるのかが…拙者にはわかった」
「確かにポロムの動きがぎこちないとは思ってましたが…」
ポロムはケアルラをかけ続けていた。パロムはそのことに気づいている様子だったが…放置している。
「そろそろ夕食のお時間ですね」
「拙者、そろそろ戻らねばならぬ」
「早いですね?ご用事でも?」
「ファブールの者達が心配するといけないのでな。では、失礼致す」
「セシルさん達には私から話しておきますよ」
「ヤン、もう帰っちゃうの?」
「うむ、ファブールの者達が心配しておる」
「エッジ、そろそろやめようよ。ご飯くるよ?」
「そうだな。ヤン、俺がファブールまで送っていくぜ」
「すまぬ」
「なに、いいって事よ。それに…シドがあれじゃあなぁ」
私がシドを見ると、飛空挺なんか到底操縦できるような状態じゃなかった。
完全にお酒が入っていた。
「私も行く」
「へっ…そう言うと思ったぜ…来いよ、リディア」
「うん!」
私はヤンの手を取り、走り出した。
「おや?リディア達も行くみたいですよ」
「しかし今出て行くと夕食始まっているのでは?」
ミシディアの長老が僕に言う。
「ええ、それは間違いないでしょう」
「あの娘…リディアと申したか。今の時代にはあのような娘もいなければならないんじゃな」
「ええ、僕もそう思いますよ」
「リディア、先に乗るなら…ほらよっと」
私に向かって何かを投げてくる。
すかさず私はキャッチ。
「…これ!?」
「任せるぜ」
「ちょ、エッジ!?」
「俺は疲れたんだ…リディア、送ってやってくれよな」
「エッジ殿…」
「…最初っからこのつもりだったのね、エッジ」
「リディア殿?」
「あとできっちりシメとく」
「………」
ヤンは言葉を失った。それはそうだよね。
「…リディア殿、飛空挺を動かせるのか?」
「…やったことないからわかんない」
「やはりエッジ殿を起こした方がよろしいのでは?」
「だいじょうぶ、きっと!私田舎育ちだけど…こういうの好きなんだよ」
私はガチャガチャとレバーを倒したり上げたりする。
がくんっ!
「動いたね」
「…リディア殿、大丈夫なのだろうか?」
「だいじょうぶだって!…たぶん…」
恐る恐るも、私は飛空挺の舵を取った。
「ファブールってどこ?」
「ここから北東になる。そんなに時間はかからないだろう?」
「おっけいっ。じゃあ、いきまーす」
私はエンタープライズを動かした。
初めて操縦する飛空挺。でも不思議とすぐ覚えられた。
数分もかからずにファブールに着いた。
「リディア殿、エッジ殿、すまぬ。他の者によろしくと…言ってくれまいか?」
「ええ、もちろん!お疲れさま、ヤン」
「リディア殿もエッジ殿と仲良くな、では、失礼!」
私は手を振る。そしてヤンが見えなくなったのを確認して、再びエンタープライズを動かす。
「エッジ…起きて」
…反応がない。まさか、寝ちゃった?
エンタープライズは自動じゃないからね。黒チョコボだったら。
私はエンタープライズを空中に浮かせたまま、エッジのそばに行く。
エッジはかすかな寝息を立てていた。こうしてみると可愛いのにね。
私はエッジの顔に近づき…って私何やってるの!?でも…でも…!
エッジ…好き…
「俺も好きだ」
「…やだ、聞こえてた?」
「バーカ、気持ちよく寝てたのによ。夢の中でおめーが近づいてくるんだよ」
私は顔を赤くした。
「確かに目は閉じてるけどよ、ちゃんと起きてるからな」
「もうっ…バロンに帰るよ?」
「ああ、いいぜ」
私は再びエンタープライズの舵を取った。
風が気持ちよかった。星がきれいで、ときどき空を見ていた。
だけど、すぐにバロンに着いた。
「エッジ、着いたよ。降りてね」
「ああ、だけどよ、やっておくことがあるんだよ」
「なぁに?」
エッジは立ち上がって私に近づいてきた。
「…!!」
私は声を上げられなかった。それくらいに…
「まぁ…その…なんだ。これからもよろしく、ってことさ…な」
「…最後に聞いていい…?」
「ん?なんだ?」
「ほんとに…私で良いのかな?」
「バーカ、なんのための物だよ、そしたら。おめー以外に考えられないだろ?」
「エッジ…ありがとう…!私…私…」
涙が止まらなくなった。でもね、私…エッジと私って意外と似てるんだよね。
私は本当ならセシルを選びたかった。でも、ローザがいたのは知ってるよね。
私が小さいときは…セシルはお兄ちゃんだったし、ローザはお姉ちゃんだったの。
だから、どうしても2人には繋がって欲しくて…それにセシルは…私のお母さんを…
でも決してセシルのせいになんてしてないんだ。セシルは何も知らなかっただけ…
私が憎んでいたのは…前のバロン王。あんな人、刺し違えても殺したいと思ったから。
でも前のバロン王はセシル達の話を聞いてたら四天王の1匹ってことがわかって…
それからゴルベーザに憎しみをぶつけた。でもゴルベーザは…セシルのお兄ちゃんってことがわかってから…
私の憎しみ、悲しみは全ての元凶、ゼロムスにあてられた。
だから倒した時、私の心は…胸一杯だった。
「リディア、もう泣くなよ…おめーももういい歳してるんだから」
「バカっ…人の気持ちも知らないで…ぐすっ」
「ほら行くぞ。みんなが待ってる」
「うん…」
私はエッジに連れられてバロン城に入った。
左手の薬指に指輪をはめて。
「ただいま!ごめんね、遅くなっちゃった!」
私は両手を合わせてみんなに謝った。
「お帰りリディア、エッジ」
誰もが私の左手に注目していた。
「リディア、その指輪…」
「…あっ…」
「エッジ、左手を見せてくれるかい?」
「ん?ああ、ほらよ」
エッジも同じく、左手を出した。
「お揃いの指輪…ってことは!?」
「リディアが認めたんだよ。俺が言ってな」
「じゃあもう?」
「式なんか挙げねぇよ…ひっそりするさ」
「でもセシルさん達が黙っちゃいませんよ?」
「そん時はそん時だ。で?夕食だろ?」
「ええ、もうそろそろセシルさん達来るでしょう?」
「楽しみだな、リディア」
「うん!どんな格好してくるんだろうね!?」
私はセシルの格好に期待していた。
「みんな、夕食の時間よ!パロムとポロムもほら!」
僕は入るのが恥ずかしかった。
「あれ?みたことねー女の子だな…ローザの知り合いか?」
「そうですね、ローザさん、セシルさんはどうなさいました?」
「あら…気づいてないのね?」
「どーゆーこったい?」
そう、僕は全然バレてなかった。
「この女の人…セシルよ?」
『どえええええええ!?』
驚くのも無理ないか…。エッジとリディアはわかってたみたいだけど。
「可愛いでしょ?」
「セ…セシル…どうしてそんな格好を…?」
「私が説明するね。セシルをこんな姿にしたのは私たちだから」
「リディア、言わなくたって良いだろ?」
「だったらローザが説明すると思う?」
「…思わねぇ」
「だから言っちゃうの。あ~え~とね、セシルはローザとの賭けに負けたの」
「賭け?何の賭けです?」
「私とエッジが恋人になったらローザの勝ち、ならなかったらセシルの勝ち」
「それでローザが勝ったから…セシルは女装を?」
「そう言うことだよ。もしローザが勝ってたら…男装?」
「そうよ。負けたくなかったのよ」
「でもよ、ローザがこんなことするなんて思わなかったぜ…」
「ローザ…恥ずかしいんだ…早く進めてくれないか?」
僕の姿を見てリディアが寄ってくる。
「セシル、女として生きたらどうかな?」
「ば…ばか、僕は男のままでいい…」
「でも女の子でも十分行けるよね、ローザ?」
「そうね、似合ってるわよ、セシル」
「褒め言葉になってない…」
そうして夕食が始まった。僕はもちろん、女装したまま夕食を食べることになった。
夕食は楽しくて、みんなといろんな事を話し合って、さっきまで踊ってたのが嘘みたいだった。
私やローザは女同士で話し合ってたんだけど、セシルはパロムとポロムに問いつめられて、苦笑いをしていた。
「リディアってお酒飲める?」
「あ~ごめん、私お酒ダメなんだ」
「今日くらいいいじゃない!ほら飲んで」
う…いやって言えないんだよね、この場合…
「う~じゃあちょっとだけね」
そう言って私はお酒を飲む。
「やっぱり私ダメ…慣れないって言うか…味が好きになれないの」
「そう…残念…」
「ノンアルコールカクテルならいいけどね」
「う~ん…カクテルならカインなんだけど…カインいないしなぁ…」
そう。カインはこの場にいないの。今はどこにいるのか分からないし…
「あ、私自分で作るよ。ここ、なんか全部あるみたいだし」
王の間なのに。なんか運ばれてきてるんだよね、カクテルの材料で…。
卵とかライムウォーターとかあるの。私も一応できなくはないけどね。
私はカクテルを作りに行くことにした。
「あんちゃん可愛いな」
「パロム、好きでやってるんじゃないんだ…」
「そうですわね。パロム、言い過ぎには気をつけてよね」
僕はみんなと一緒に食事を楽しむ。
どんなに時間が経ったって、僕たちはずっと仲間だから。
「なんじゃセシル?酒飲まんのか!」
「遠慮しておくよ。こんな格好で飲ませられたら何するか分からないしね」
僕はリディアの作るカクテルだけで良いと思った。むしろ、僕はお酒が弱い。
「リディア、ノンアルコールカクテル1つ、頼んでいいかな?」
「どんなのがいいかな?」
「さっぱり系で」
「待っててね」
「珍しいわね、セシル…お酒飲まないのね」
「飲まないんじゃないんだ。飲めない、、、、んだ」
夕食はあっという間に過ぎていった。
歳に関係なく、シドやパロムがよく食べていたのがわかる。
しかし…ヤンがいない。
「セシル、ヤンだけどよ、ファブールの人たちに話さず行ってたらしいから帰ったぜ」
「そうなんだ…残念だ」
「まぁ…しょうがねぇさ」
「エッジ、お酒飲むかい?」
「遠慮するぜ。今日はなんか飲みたくねぇんだ」
「…リディアか?」
向こうでリディアが振り向いたが、すぐにまたカクテルを作り始めた。
「そうかもな」
「珍しく素直に答えたじゃないか。なんかあったね?」
「実は…な」
僕はエッジの左手を見て1発でわかった。
「…そうか。そうだったんだ。で式は?」
「挙げねぇよ…みっともねぇ」
「ひっそりか…それもいいんじゃないか?」
僕は相づちを打った。
「だな。さーて、寝る準備すっか」
「まだ早すぎるって」
時計の短針は11のところを回ってなかった。それどころか、9のところも回ってなかった。
「なぁに、準備だけだ」
エッジはそう言って向こうへ行った。
楽しい夕食は…時計の短針が10を回り、長針が6のところを回ったあたりで終わった。
そしてみんなは…