【戴冠式の夜 Phase 4】
「ローザ…」
「私の勝ちよね?だってそう決めたんだし」
そう、私は賭けに勝った。
そして私はセシルに女装をさせる。
そんなに辛くはないんだけど、でもやっぱりおかしいよね?
「セシル…女の子としても生きられるわね」
私はセシルの格好に驚きを隠せなかった。
似合いすぎ。男にしておくのはもったいないくらいの可愛さで…
「セシル、女声出してみて」
「な…なんてことを言い出すんだ…」
「いいから。喋ってみて」
「まったく……ダメだ、言えないよ」
「でもみんなの前に出たら…ねぇ?」
(ローザめ…だけど…しょうがないか。負けたんだし)
私はセシルの女声を楽しみにしていた。
「……私…おかしいかな………?………絶対無理だよ、ローザ!」
「うふふ…なかなか可愛い声出せるじゃない…さ、行きましょ」
「お、おいローザ!?」
私はセシルの腕を引っ張って行く。
「くそー、ローザの野郎…」
「私たちの負けだよ。もう…そんなに怒らなくても良いんじゃないの?」
私は戻りながらエッジに話をする。
「だけどよぉ…なんかムカツクんだよなぁ、やっぱ」
「それは私もひどいと思ったよ。でもね、でも…」
私はそれ以上言えなかった。だって、ローザのおかげで私とエッジは…
「ローザに感謝しなきゃいけないね」
「どういうことだよ、リディア!?」
「教えてあげない♪」
「てめー!教えろ!」
「やだも~ん♪」
私はエッジをからかいながら王の間へ向かう。
「まだセシル達戻ってないみたいだね」
「ああ。もう踊りは終わっちまったか?」
「まだ…だと思うよ」
「リディア、踊らねぇか?」
「…いいよ♪」
私はエッジと一緒に踊り出した。
「やっと…繋がったみたいですね」
「何じゃギルバート、繋がらないとでも思っとったのか?」
「いえ、全く。僕としてはこうなって欲しかったんですよ」
「じゃろうが。しっかし、パロムとポロムも恐ろしい奴らじゃな」
シドは酔いながらも僕に言う。たぶんあと数分で寝そうな勢いではある。
「2時間踊りっぱなしですね」
「これから夕食だというのに…5歳の子どもと言えませんね」
ジオット王の娘、ルカも丁寧に僕に言う。
「ギルバート殿、よくご覧なされ」
「うん?」
僕はポロムとパロムを見た。
「ヤン殿、まさか」
「うむ、何故2時間も踊り続けられるのかが…拙者にはわかった」
「確かにポロムの動きがぎこちないとは思ってましたが…」
ポロムはケアルラをかけ続けていた。パロムはそのことに気づいている様子だったが…放置している。
「そろそろ夕食のお時間ですね」
「拙者、そろそろ戻らねばならぬ」
「早いですね?ご用事でも?」
「ファブールの者達が心配するといけないのでな。では、失礼致す」
「セシルさん達には私から話しておきますよ」
「ヤン、もう帰っちゃうの?」
「うむ、ファブールの者達が心配しておる」
「エッジ、そろそろやめようよ。ご飯くるよ?」
「そうだな。ヤン、俺がファブールまで送っていくぜ」
「すまぬ」
「なに、いいって事よ。それに…シドがあれじゃあなぁ」
私がシドを見ると、飛空挺なんか到底操縦できるような状態じゃなかった。
完全にお酒が入っていた。
「私も行く」
「へっ…そう言うと思ったぜ…来いよ、リディア」
「うん!」
私はヤンの手を取り、走り出した。
「おや?リディア達も行くみたいですよ」
「しかし今出て行くと夕食始まっているのでは?」
ミシディアの長老が僕に言う。
「ええ、それは間違いないでしょう」
「あの娘…リディアと申したか。今の時代にはあのような娘もいなければならないんじゃな」
「ええ、僕もそう思いますよ」
「リディア、先に乗るなら…ほらよっと」
私に向かって何かを投げてくる。
すかさず私はキャッチ。
「…これ!?」
「任せるぜ」
「ちょ、エッジ!?」
「俺は疲れたんだ…リディア、送ってやってくれよな」
「エッジ殿…」
「…最初っからこのつもりだったのね、エッジ」
「リディア殿?」
「あとできっちりシメとく」
「………」
ヤンは言葉を失った。それはそうだよね。
「…リディア殿、飛空挺を動かせるのか?」
「…やったことないからわかんない」
「やはりエッジ殿を起こした方がよろしいのでは?」
「だいじょうぶ、きっと!私田舎育ちだけど…こういうの好きなんだよ」
私はガチャガチャとレバーを倒したり上げたりする。
がくんっ!
「動いたね」
「…リディア殿、大丈夫なのだろうか?」
「だいじょうぶだって!…たぶん…」
恐る恐るも、私は飛空挺の舵を取った。
「ファブールってどこ?」
「ここから北東になる。そんなに時間はかからないだろう?」
「おっけいっ。じゃあ、いきまーす」
私はエンタープライズを動かした。
初めて操縦する飛空挺。でも不思議とすぐ覚えられた。
数分もかからずにファブールに着いた。
「リディア殿、エッジ殿、すまぬ。他の者によろしくと…言ってくれまいか?」
「ええ、もちろん!お疲れさま、ヤン」
「リディア殿もエッジ殿と仲良くな、では、失礼!」
私は手を振る。そしてヤンが見えなくなったのを確認して、再びエンタープライズを動かす。
「エッジ…起きて」
…反応がない。まさか、寝ちゃった?
エンタープライズは自動じゃないからね。黒チョコボだったら。
私はエンタープライズを空中に浮かせたまま、エッジのそばに行く。
エッジはかすかな寝息を立てていた。こうしてみると可愛いのにね。
私はエッジの顔に近づき…って私何やってるの!?でも…でも…!
エッジ…好き…
「俺も好きだ」
「…やだ、聞こえてた?」
「バーカ、気持ちよく寝てたのによ。夢の中でおめーが近づいてくるんだよ」
私は顔を赤くした。
「確かに目は閉じてるけどよ、ちゃんと起きてるからな」
「もうっ…バロンに帰るよ?」
「ああ、いいぜ」
私は再びエンタープライズの舵を取った。
風が気持ちよかった。星がきれいで、ときどき空を見ていた。
だけど、すぐにバロンに着いた。
「エッジ、着いたよ。降りてね」
「ああ、だけどよ、やっておくことがあるんだよ」
「なぁに?」
エッジは立ち上がって私に近づいてきた。
「…!!」
私は声を上げられなかった。それくらいに…
「まぁ…その…なんだ。これからもよろしく、ってことさ…な」
「…最後に聞いていい…?」
「ん?なんだ?」
「ほんとに…私で良いのかな?」
「バーカ、なんのための物だよ、そしたら。おめー以外に考えられないだろ?」
「エッジ…ありがとう…!私…私…」
涙が止まらなくなった。でもね、私…エッジと私って意外と似てるんだよね。
私は本当ならセシルを選びたかった。でも、ローザがいたのは知ってるよね。
私が小さいときは…セシルはお兄ちゃんだったし、ローザはお姉ちゃんだったの。
だから、どうしても2人には繋がって欲しくて…それにセシルは…私のお母さんを…
でも決してセシルのせいになんてしてないんだ。セシルは何も知らなかっただけ…
私が憎んでいたのは…前のバロン王。あんな人、刺し違えても殺したいと思ったから。
でも前のバロン王はセシル達の話を聞いてたら四天王の1匹ってことがわかって…
それからゴルベーザに憎しみをぶつけた。でもゴルベーザは…セシルのお兄ちゃんってことがわかってから…
私の憎しみ、悲しみは全ての元凶、ゼロムスにあてられた。
だから倒した時、私の心は…胸一杯だった。
「リディア、もう泣くなよ…おめーももういい歳してるんだから」
「バカっ…人の気持ちも知らないで…ぐすっ」
「ほら行くぞ。みんなが待ってる」
「うん…」
私はエッジに連れられてバロン城に入った。
左手の薬指に指輪をはめて。
「ただいま!ごめんね、遅くなっちゃった!」
私は両手を合わせてみんなに謝った。
「お帰りリディア、エッジ」
誰もが私の左手に注目していた。
「リディア、その指輪…」
「…あっ…」
「エッジ、左手を見せてくれるかい?」
「ん?ああ、ほらよ」
エッジも同じく、左手を出した。
「お揃いの指輪…ってことは!?」
「リディアが認めたんだよ。俺が言ってな」
「じゃあもう?」
「式なんか挙げねぇよ…ひっそりするさ」
「でもセシルさん達が黙っちゃいませんよ?」
「そん時はそん時だ。で?夕食だろ?」
「ええ、もうそろそろセシルさん達来るでしょう?」
「楽しみだな、リディア」
「うん!どんな格好してくるんだろうね!?」
私はセシルの格好に期待していた。
「みんな、夕食の時間よ!パロムとポロムもほら!」
僕は入るのが恥ずかしかった。
「あれ?みたことねー女の子だな…ローザの知り合いか?」
「そうですね、ローザさん、セシルさんはどうなさいました?」
「あら…気づいてないのね?」
「どーゆーこったい?」
そう、僕は全然バレてなかった。
「この女の人…セシルよ?」
『どえええええええ!?』
驚くのも無理ないか…。エッジとリディアはわかってたみたいだけど。
「可愛いでしょ?」
「セ…セシル…どうしてそんな格好を…?」
「私が説明するね。セシルをこんな姿にしたのは私たちだから」
「リディア、言わなくたって良いだろ?」
「だったらローザが説明すると思う?」
「…思わねぇ」
「だから言っちゃうの。あ~え~とね、セシルはローザとの賭けに負けたの」
「賭け?何の賭けです?」
「私とエッジが恋人になったらローザの勝ち、ならなかったらセシルの勝ち」
「それでローザが勝ったから…セシルは女装を?」
「そう言うことだよ。もしローザが勝ってたら…男装?」
「そうよ。負けたくなかったのよ」
「でもよ、ローザがこんなことするなんて思わなかったぜ…」
「ローザ…恥ずかしいんだ…早く進めてくれないか?」
僕の姿を見てリディアが寄ってくる。
「セシル、女として生きたらどうかな?」
「ば…ばか、僕は男のままでいい…」
「でも女の子でも十分行けるよね、ローザ?」
「そうね、似合ってるわよ、セシル」
「褒め言葉になってない…」
そうして夕食が始まった。僕はもちろん、女装したまま夕食を食べることになった。
夕食は楽しくて、みんなといろんな事を話し合って、さっきまで踊ってたのが嘘みたいだった。
私やローザは女同士で話し合ってたんだけど、セシルはパロムとポロムに問いつめられて、苦笑いをしていた。
「リディアってお酒飲める?」
「あ~ごめん、私お酒ダメなんだ」
「今日くらいいいじゃない!ほら飲んで」
う…いやって言えないんだよね、この場合…
「う~じゃあちょっとだけね」
そう言って私はお酒を飲む。
「やっぱり私ダメ…慣れないって言うか…味が好きになれないの」
「そう…残念…」
「ノンアルコールカクテルならいいけどね」
「う~ん…カクテルならカインなんだけど…カインいないしなぁ…」
そう。カインはこの場にいないの。今はどこにいるのか分からないし…
「あ、私自分で作るよ。ここ、なんか全部あるみたいだし」
王の間なのに。なんか運ばれてきてるんだよね、カクテルの材料で…。
卵とかライムウォーターとかあるの。私も一応できなくはないけどね。
私はカクテルを作りに行くことにした。
「あんちゃん可愛いな」
「パロム、好きでやってるんじゃないんだ…」
「そうですわね。パロム、言い過ぎには気をつけてよね」
僕はみんなと一緒に食事を楽しむ。
どんなに時間が経ったって、僕たちはずっと仲間だから。
「なんじゃセシル?酒飲まんのか!」
「遠慮しておくよ。こんな格好で飲ませられたら何するか分からないしね」
僕はリディアの作るカクテルだけで良いと思った。むしろ、僕はお酒が弱い。
「リディア、ノンアルコールカクテル1つ、頼んでいいかな?」
「どんなのがいいかな?」
「さっぱり系で」
「待っててね」
「珍しいわね、セシル…お酒飲まないのね」
「飲まないんじゃないんだ。飲めない、、、、んだ」
夕食はあっという間に過ぎていった。
歳に関係なく、シドやパロムがよく食べていたのがわかる。
しかし…ヤンがいない。
「セシル、ヤンだけどよ、ファブールの人たちに話さず行ってたらしいから帰ったぜ」
「そうなんだ…残念だ」
「まぁ…しょうがねぇさ」
「エッジ、お酒飲むかい?」
「遠慮するぜ。今日はなんか飲みたくねぇんだ」
「…リディアか?」
向こうでリディアが振り向いたが、すぐにまたカクテルを作り始めた。
「そうかもな」
「珍しく素直に答えたじゃないか。なんかあったね?」
「実は…な」
僕はエッジの左手を見て1発でわかった。
「…そうか。そうだったんだ。で式は?」
「挙げねぇよ…みっともねぇ」
「ひっそりか…それもいいんじゃないか?」
僕は相づちを打った。
「だな。さーて、寝る準備すっか」
「まだ早すぎるって」
時計の短針は11のところを回ってなかった。それどころか、9のところも回ってなかった。
「なぁに、準備だけだ」
エッジはそう言って向こうへ行った。
楽しい夕食は…時計の短針が10を回り、長針が6のところを回ったあたりで終わった。
そしてみんなは…