【戴冠式の夜 Phase 5】
「電気…消して欲しくない人!」
「あ、はい!」
僕の声に真っ先に反応したのはポロムだった。
「あの…私は…」
「5歳児には過酷よね…」
ローザがぼそりと言う。
「長老様、2人、一緒の布団で良いんですか?」
「かまわんじゃろ?しかし…いいのですかな、こんな大広間で寝るなど…」
そう、ここはさっきまで夕食場でもあり、ダンス会場でもあった。
「構いませんよ。それに…バロン王も見てくれてるはずですし」
「…わかりました。セシル殿、お言葉に甘えさせて頂きますぞ」
「ええ、元からこの予定だったので…」
「あの…セシル…」
「ん?」
「その…私も…暗いのダメなんだ…」
「そういえば言ってたな…でもエッジが隣にいるよね?」
「でも…暗いのは…」
「エッジに甘えなさいっ。怖くなくなるわよ~」
「ローザ、てめぇ…」
「何言ってるの、リディアと結婚するんでしょ?」
『でええええええ!?』
それを聞いて、全員が飛び起きた。
2人を除いて。
シドは右の塔で寝るとか言って行ってしまったし。
ギルバートは知っていたらしく、とうとう言っちゃいましたか、の表情だった。
「式はいつですか?」
「挙げねぇよ。そんなことしてられっかってんだ…」
エッジがちょっと怒った感じで言う。
「さすが若様ですわね…」
「すげーなエッジ…モテんじゃねーか…」
「俺様はハンサムだしな!」
パロムの一言を聞いて、上機嫌になった。ナイスパロム。
「リディアはそれでいいのかい?」
「私の気持ちだから…決着は付けなきゃね」
「ってことだから、リディアは俺の…妻だ!」
「…ごめんねギルバート」
「な…何言ってるんだリディア…?」
「私のこと…好きだったんでしょ?」
「僕は…アンナが一番好きさ…でもアンナはもういないんだ。けど、アンナはいつも僕の側にいる」
よく言ったよ、ギルバート…
「…言い切っちゃったね」
「そうだね。僕自身もびっくりしてるよ」
「俺は寝かせてもらうぜ。おやすみ!」
「おやすみなさい、エッジ」
「おやすみ、エッジ」
エッジは布団の中に潜り込んだ。ただし、ダブルだってことを忘れていた。
「そうか…リディアと一緒だったんだよな…」
「一緒に寝て欲しいんでしょ?」
「…好きにしてくれよ…俺は疲れてるんだ…」
「もう…可愛くないの!」
結局、王の間の電気が消えることはなかった。
ジオット王は娘のルカを抱くようにして寝ているし、ギルバートはもう少し起きているといった感じだった。
「ギルバート、寝ないのか?」
「うん、僕はもう少し飲みたいんだ」
「そういえばギルバートってもくもくと食べてたわね」
「ああ、僕は結構食べるんだ…普通の人の2倍は食べるんじゃないかな」
「うわ、すごい…私なんて普通の人の半分以下でお腹いっぱいになる…」
リディアがギルバートの方を向いてぼそりとつぶやいた。
「リディア、カクテル作れるかい?」
「あ、作れるよ。何が良いかな?」
「まったりとしたものがいいね。アルコールは自由で」
「はいはぁ~い」
リディアはまたカクテルを作ることになった。
「だけど…リディアがカクテルなんて…驚きですよ」
「こんなの、フィーリングだよ」
「それにしては上手いよ。シェイクとか…」
「えへへ…ありがと。ってセシル、その格好じゃ寝ないよね?」
「寝れたら神だと思う」
僕はそう言った。まだ女装させられているからね。
一同爆笑。そんなに面白かったのか…?
「あはは…確かに神ね。お兄さん…ゴルベーザを超えるわよ?」
「別の意味でね…」
「でもセシル、女声は出せないのでは?」
「出そうと思えば出せるってだけさ…」
この時点で起きてるのは…僕とローザとリディアとギルバートだけ。
「はい、ギルバート」
「ありがとう。このカクテル、名前とか付いてるのかい?」
「全く。でも…色からしたら…造語だけど、リシャンペナ。ディープブルーみたいな感じだね」
リディアがテーブルにつく。
「賭け事は嫌いなんだけど、トランプ、しない?」
「持ってるのかい?」
「だってただ話してるだけじゃつまらないでしょ?」
「まぁ…いいけど」
「負けたら何かあるの?」
「きついお酒のカクテルが待ってるわ」
「火気厳禁…ってことかい…?」
「そうなるかもしれないわ。気をつけてね」
「結局…私が一番労力使うってことじゃない…?」
「そうでもないわよ?最下位がカクテル飲むし、3位がカクテル作るの」
「なるほど…ってことは私が作れば!?」
「ええ、美味しいカクテルかつ、きついカクテルね。私もできなくはないけど」
「僕はカクテル作ったことがない…一応素振りは知ってるけど」
「僕も同じですね」
「ところで…何やるの?」
時計は短針が11寄りの10、長針が9の位置だった。
「大富豪」
「うわぁ~!私弱いんだよぉ~!」
「その辺は気合でなんとかしなきゃいけないんじゃないか?」
「あ、みんなルールは知ってるわね?」
「もちろん。ローザに散々泣かされたからね」
「僕も一応できますよ。細かいのは知らないだけで」
「8切り・イレブンバック・階段革命でおっけ?」
「ああ、いいよ」
「リディアも大丈夫?」
「…たぶん!」
ルールわかってるといいけどね…幻界にもトランプはあったのかな?
「うわぁ…僕が飲むのか…」
「僕が作るのかい…?」
「記念すべき最初の犠牲者は…セシルね」
「ギルバート…」
「さて、何行きましょうか…まずは卵黄ですね…そしてトニックウォーターですね…」
「うわ、最初から濃いもの出してきてる…セシルが壊れそう…」
「これも運命ね、セシル」
「ひどい…ローザ…」
セシルの女の子声が聞けた。
「あ、可愛い声♪」
私は♪マークなんて付けたりしてセシルをからかった。
「ギルバート…頼むから1発目から危険な物は…」
「そしてジンとウォッカを入れます…そして…シェイク!」
「ギルバート…上手いわね」
「うん、上手い。初トライのはずじゃ…?」
「できました」
「グラスに開けてみて」
ドボドボドボ…
「うへぇ…これ、飲めるの…?」
「黄色ポーションです」
ずるっ。ギ…ギルバート…。私もローザも転けちゃった…
「少量だからそうでもないんじゃない?」
「じゃあ…行きます…」
ゴク、ゴク、ゴク。
セシルの表情は…!?
「…もう…何も言えない…」
「ジンとウォッカが効いたのね。じゃあ第2回戦!」
ぐったりしてるセシルを強引に起こして連発して始める。
「あ…待って…待って…いやぁ!」
「上がりっと。ふぅ…今度はローザが飲む番だね。で、作るのは私ね…」
「リディア…」
「大丈夫、お酒1つだけだよ」
「良かった…」
「スピリタスね!」
「な…なんです…って…セシル…助けて…」
「こればっかりは助けない。自業自得だね、ローザ」
「はぁ…」
アルコール度数96…でも50mlしか作らないからね。ギルバートだって50mlくらいだったし。
「何を入れるんだろうね」
「楽しみですね」
「ビルドで…よし、完成。自作なんだけどアトミックボムね」
スピリタス30ml、レモンウォーター5ml、ライムウォーター5ml、着色料は一切使いませんっ!
ってレモンウォーターとライムウォーターで入ってるよね。
「うわ…これビルドはきっついって…すぐいきそう…」
「もう1種作ろうか?」
ニヤニヤしながら私はローザに迫った。
「や…やめて」
「冗談なのに」
「リ…リディア…っ!」
「さっきのお返しね。ダシにした報いみたいなものよね。でも…ありがとね、ローザ」
「繋げたくて繋げたくて…ね。はぁ、飲みきった!次行きましょ」
まだまだ大富豪は続くのです…