【戴冠式の夜 Phase 6】
もう何回やったか分からない。
僕はかなり飲まされていた。やはりローザは強い。
「ローザ、直でスピリタスは無理じゃないか?」
「うるひゃい…こうひて…こうしゅるんだからぁ!」
完全に酔っている。でもカクテルは作っている。
今回の犠牲者はギルバート。一応僕もかなり酔っている。
意外にも飲んでないのがリディアだった。
これだけ騒いでても起きない人たちはやっぱりすごいと思う。
「うぅ…また…」
そう、ギルバートは2連敗なのだ。それでも全員はカードをよく見ている。
「…もうやめようよ?みんな明日二日酔いで…」
「そうだな。ローザ、そのカクテルで最後だ」
「お、おーひぇーい…」
大丈夫だろうか、とリディアが僕の方を向いた。僕は頷いた。
「ひゃい、ぎるばぁーと…」
かなり毒々しい色をしたカクテルだった。
「ちょっとローザ…何入れたの?」
「てきとーにいろいろと…」
ギルバートが一気に行く。
「…ぶっ!」
この瞬間、ギルバートの酔いが醒めた。
「ローザ、これ…青汁でしょう!?」
「へ?」
リディアも飲んでみる。
「うん、アルコールしないけど…うっ」
リディアはあっちの方向を向いた。
「どれどれ…僕も…」
…青汁。正真正銘の青汁。カクテルじゃなかった。
「ギルバート、お前…」
「大丈夫ですよ。酔いはなんとかなってますから」
「だといいけど…」
「片付けよう。もう時間が時間だし」
気づいてみたら時計の短針が3寄りの位置、長針が8の位置だった。
「明日、絶対二日酔いですね」
「だろうね」
「う~。まだ青汁残ってる…」
リディアが顔をしかめながら布団の中に入る。
「もう…終わりぃ?」
「終わりだよ、ローザ。寝よう」
「ひゃ~い…」
ローザはそう言うと倒れた。
「…飲み過ぎたんですね」
「元々お酒強い方じゃないからな…でも言い出したのはローザだし」
「自業自得…ですか?」
「だろうね」
「僕もそろそろ寝ます。おやすみなさい、セシル。そして、おめでとう」
「ああ、ありがとう」
そして僕は眠りについた。
「おはよっ!」
「リディア…お酒弱いのによく飲んだね…」
僕は頭を抑える。完全に二日酔いだ。
「だって…みんな作ってたカクテル、全然アルコール無かったんだもん。二日酔いなんて起きないよ」
そうだったのだ。後半戦はほとんどアルコール入りのカクテルを作らず、ノンアルコールカクテルばかりだった。
しかし僕は口の中でアルコールを感じていた。
「飲み過ぎて口おかしくなっちゃったのかも?」
「そうらしいね……痛…」
頭に強烈な痛みを抱えて僕は起きた。
「大丈夫?無理しない方が良いよ?」
「ああ…エッジはどうした?」
「もう帰る準備してるよ」
「ん?リディア、何時だ?」
「あそこ…えっと、短針が1をちょっと回ったかな?」
「1…?1…!?」
「どうしたの?」
僕はそのことに気づくまでに時間がかかった。
もうエッジとリディア以外は帰っている。
「うそ…だよな?」
「ほんと。だってセシル、起こしても起きなかったんだもん」
飲み過ぎによる寝坊。
「まぁ…しょうがないか」
「ローザももう起きてるから、朝ご飯にしようよ」
「エッジと一緒じゃなくて良いのか?」
「私まだここにいたい。確かに結婚するのは決まってるけど、どうもエッジのお城は合わなさそうなの」
「慣れないお妃様をやるから…だろ?」
「ん~どうかな?ほら、起きてよ。ローザがご飯作ってるよ」
「…二日酔いはないのか?」
「どうだろ?あるんじゃない?」
僕はリディアに連れられて食堂へ向かった。
バロン城食堂室。対して大きい作りではないが、やろうと思えばここから武器を持ってクーデターを起こすことも可能。
「あ、セシル…う~頭痛いわ…」
「だから飲み過ぎだって言っただろ…」
「でも楽しめたからいいじゃない?」
「それはそうだけどさ…」
「ほら、朝ご飯。パンにミルクに…」
朝ご飯はパン食とは決まっていないが、僕の中ではどうしても朝ご飯はパン食となっている。
「リディアも同じでいい?」
「うん。エッジも同じでね」
「呼んできてくれる?」
「わかったよ~」
リディアは走って王の間の方向へ走る。
「…ぷっ…セシル、あなたその格好で寝たの?」
「うん?」
よく見たら女装した格好のままだった。
「酔ってたから全く気づかなかった」
「ほんとに?」
「ああ、ほんとだ」
「…そう。でももうやめたら?昨日だけで十分でしょ?」
「寝るまでこの衣装だとは思わなかったけどね」
「でも似合ってたからいいじゃない。とりあえずどうするの?メイク落としと着替えしてくる?」
「着替えが先!」
僕は力強く言った。たまったものではない。
こんな格好して食事するのは昨日の夜だけで十分!
「そう言えば全員送ったんだよな?」
「そうよ?エンタープライズで全員ね」
「誰が操縦したんだ?シドは起きてこないだろうし」
「リディアよ」
「リディアが!?」
「エッジも動かしたと思うけど、私が起きたときはリディアが動かしてたわよ?」
さすが田舎娘…と言いかけたが止めた。もし聞こえてたら半殺しのような気がする。
「どうしてリディアが操縦してるとわかったんだ?」
「セシルがぐがーぐがーなってるとき…そう9時過ぎね。私起きちゃったのよ、みんなの声で」
「それでリディアが言ってたのか?」
「正確には、エッジがリディアに言ったのよ。送ってやれとか言われてたわね」
「なるほどね…ローザ、一緒に飛ばないか?」
「どうしたのよ?」
「何て言うか…その…な」
僕は言いたいことを口にして言えなかった。
新婚旅行。いわゆるハネムーン。
しかしローザはすぐに感じ取ったらしく、
「わかったわ。どこがいい?」
「どこでもいいけどさ…」
「じゃあ幻獣界」
「おいローザ…それはまずいだろ?第一幻獣達は…」
「冗談よ。考えておくから着替えてきてね」
「わかったよ」
僕は食堂を出て更衣室へ向かった。
「エッジ、朝ご飯…」
「ああ、俺は良いぜ…そのまま帰るさ」
「でもローザが…」
「そんなに迷惑かけてらんねーだろ?ほら、リディアも」
「だけど…」
「だけどもだからもねぇって。正直…行きたくないけどよ」
「…そっか。わかった」
私はエッジの手を引っ張った。
「おい、てめー何しやがる!?」
「強制連行!文句は聞かないから!」
「ひでぇ…」
こうしてエッジは私のお縄についた。
食堂から少し歩くが、それほど遠いわけでもない。
バロン城更衣室。確か…
「あった。やっぱりこれが一番良いな」
僕は私服に着替える。王だからって高貴なものを着てるわけじゃない。
「よし、戻るか…」
とそこに。
「いたー!セシル待ったっ!」
「リディア!ここ男性更衣室だぞ!?」
「そんなこと言ってる暇ないよっ!セシル、このまま4人で新婚旅行しようよ!」
…同じだった。リディアとエッジも新婚旅行を考えていた。
「エッジは良いのか?」
「もう…どうにでもなれってんだ…」
「わかった。ご飯食べに戻ろう」
「うん!」
リディアの笑顔が今日も見れた。昨日も見れたが今日のほうが笑顔の価値はあった。
「えーと…リディアはこれでいいのかしら?」
「あ、それくらいでいいよ?」
ローザはジャムの量を考えている。
「セシルは拒否権なしね」
「どうしてそうなるんだ…」
「気分だから」
「そう…って気分で何とかなる問題じゃないだろ?だいたい拒否権無しって何なんだよ?」
「昨日のカクテルのお返しよ」
「な…ローザ…っ!」
僕はそれ以上言えなかった。
昨日のトランプで僕はローザに、スピリタス・ジン・ウォッカ・カンパリを入れたカクテルをロックで飲ませたからだ。
さすがにスピリタスはストレートだといってしまう。
火を付けるのは良かったが、カンパリの臭いでローザが酔ったからだ。
「俺はコーヒーだけにしてくれ。なんか食う気起きねぇ」
「ダメ。エッジはごはん食がいいの?」
「いや、パン食でも良いけどな。その時の気分によるんだよ」
「じゃあごはん食作るわよ?」
「…いやいい…正直ちょっとだるいんだ」
「昨日のことで頭いっぱいなんでしょ?」
「そうじゃねーよ…いろいろとな」
「そのいろいろが気になるよ」
「おめーにはわからねーよっと」
「もうっ…エッジのいじわる!」
「わりぃわりぃ、冗談さ」
「なっ…からかってたの!?」
「軽~くな」
リディアが右手に拳を作っていた。
「おいリディアやめとけって!」
「ふんっ!」
リディアの突き出した右ストレートは見事にエッジの顔面を捉えていた。
これで上からたらいが落ちてくればもうド○フ。と思ってたら。
「あ。落ちてきた」
リディアの頭にたらいが直撃。しかしリディアは微動だにせず。
「完全に○リフだ…」
しばらくしてリディアが声を上げた。
「………痛い………」
「金だらいは…でもどうして落ちてくるのよ…まさかね?」
「仕掛けてあるってことはないだろう?」
「だったらどうやって落ちてくるのよ」
リディアはそのままの態勢で右に倒れた。
エッジの顔面はすでに赤くなっていた。
「リディア、しっかりして」
「なんでたらいなんて落ちてくるの…よ…」
そう言った後、リディアは気を失った。
「おいエッジ…やりすぎたんじゃないのか?」
「かもしれねぇ…」
朝ご飯も食べ終わり、城の中は使いに任せておけばいいから…
「じゃあ、いこうか!」
「うん!」
「レッツ新婚旅行!…でいいのよね?」
「まぁ…行こうぜ!俺達が新しい時代を作るんだからな!」
「そうだな…ギルバートもヤンも同じさ…みんなで新しい時代を作るんだ」
そして僕たちはエンタープライズに乗り込んだ。
「僕が動かすよ。みんなは…」
「却下。みんなのエンタープライズよ。動かしてるのはみんなよ」
「そういうこと!セシルも行きたいところは私が動かすよ!」
「ほんとに…いいんだな?」
「もっちろん!だってローザだって動かしたことあるんでしょ?」
「私?ないけど?」
その場にいた全員が転けたのは言うまでもない。
今日がまた新しい1日となる。
だけどみんなの笑顔は消えることはない。
世界を取り戻した僕たちは…新しい未来を作らないといけない。
その未来は戦争や紛争もなく…平和を作っていくこと。
僕たちはそれを任されている。
平和で平等な世界。幻獣達だって人間と同じ。生き方は違うけど、ほとんど同じ。
妖精達だってそうなる。人間を嫌うのはわかる。ただ…犯した過ちを正せるのが人間だから。
今ここにいる4人だって間違いはある。
だけど間違いを正していける。それはどの種族だって同じだから。
この先には未来へのページが開かれているのだから。