僕はかなり飲まされていた。やはりローザは強い。
「ローザ、直でスピリタスは無理じゃないか?」
「うるひゃい…こうひて…こうしゅるんだからぁ!」
完全に酔っている。でもカクテルは作っている。
今回の犠牲者はギルバート。一応僕もかなり酔っている。
意外にも飲んでないのがリディアだった。
これだけ騒いでても起きない人たちはやっぱりすごいと思う。
「うぅ…また…」
そう、ギルバートは2連敗なのだ。それでも全員はカードをよく見ている。
「…もうやめようよ?みんな明日二日酔いで…」
「そうだな。ローザ、そのカクテルで最後だ」
「お、おーひぇーい…」
大丈夫だろうか、とリディアが僕の方を向いた。僕は頷いた。
「ひゃい、ぎるばぁーと…」
かなり毒々しい色をしたカクテルだった。
「ちょっとローザ…何入れたの?」
「てきとーにいろいろと…」
ギルバートが一気に行く。
「…ぶっ!」
この瞬間、ギルバートの酔いが醒めた。
「ローザ、これ…青汁でしょう!?」
「へ?」
リディアも飲んでみる。
「うん、アルコールしないけど…うっ」
リディアはあっちの方向を向いた。
「どれどれ…僕も…」
…青汁。正真正銘の青汁。カクテルじゃなかった。
「ギルバート、お前…」
「大丈夫ですよ。酔いはなんとかなってますから」
「だといいけど…」
「片付けよう。もう時間が時間だし」
気づいてみたら時計の短針が3寄りの位置、長針が8の位置だった。
「明日、絶対二日酔いですね」
「だろうね」
「う~。まだ青汁残ってる…」
リディアが顔をしかめながら布団の中に入る。
「もう…終わりぃ?」
「終わりだよ、ローザ。寝よう」
「ひゃ~い…」
ローザはそう言うと倒れた。
「…飲み過ぎたんですね」
「元々お酒強い方じゃないからな…でも言い出したのはローザだし」
「自業自得…ですか?」
「だろうね」
「僕もそろそろ寝ます。おやすみなさい、セシル。そして、おめでとう」
「ああ、ありがとう」
そして僕は眠りについた。
「おはよっ!」
「リディア…お酒弱いのによく飲んだね…」
僕は頭を抑える。完全に二日酔いだ。
「だって…みんな作ってたカクテル、全然アルコール無かったんだもん。二日酔いなんて起きないよ」
そうだったのだ。後半戦はほとんどアルコール入りのカクテルを作らず、ノンアルコールカクテルばかりだった。
しかし僕は口の中でアルコールを感じていた。
「飲み過ぎて口おかしくなっちゃったのかも?」
「そうらしいね……痛…」
頭に強烈な痛みを抱えて僕は起きた。
「大丈夫?無理しない方が良いよ?」
「ああ…エッジはどうした?」
「もう帰る準備してるよ」
「ん?リディア、何時だ?」
「あそこ…えっと、短針が1をちょっと回ったかな?」
「1…?1…!?」
「どうしたの?」
僕はそのことに気づくまでに時間がかかった。
もうエッジとリディア以外は帰っている。
「うそ…だよな?」
「ほんと。だってセシル、起こしても起きなかったんだもん」
飲み過ぎによる寝坊。
「まぁ…しょうがないか」
「ローザももう起きてるから、朝ご飯にしようよ」
「エッジと一緒じゃなくて良いのか?」
「私まだここにいたい。確かに結婚するのは決まってるけど、どうもエッジのお城は合わなさそうなの」
「慣れないお妃様をやるから…だろ?」
「ん~どうかな?ほら、起きてよ。ローザがご飯作ってるよ」
「…二日酔いはないのか?」
「どうだろ?あるんじゃない?」
僕はリディアに連れられて食堂へ向かった。
バロン城食堂室。対して大きい作りではないが、やろうと思えばここから武器を持ってクーデターを起こすことも可能。
「あ、セシル…う~頭痛いわ…」
「だから飲み過ぎだって言っただろ…」
「でも楽しめたからいいじゃない?」
「それはそうだけどさ…」
「ほら、朝ご飯。パンにミルクに…」
朝ご飯はパン食とは決まっていないが、僕の中ではどうしても朝ご飯はパン食となっている。
「リディアも同じでいい?」
「うん。エッジも同じでね」
「呼んできてくれる?」
「わかったよ~」
リディアは走って王の間の方向へ走る。
「…ぷっ…セシル、あなたその格好で寝たの?」
「うん?」
よく見たら女装した格好のままだった。
「酔ってたから全く気づかなかった」
「ほんとに?」
「ああ、ほんとだ」
「…そう。でももうやめたら?昨日だけで十分でしょ?」
「寝るまでこの衣装だとは思わなかったけどね」
「でも似合ってたからいいじゃない。とりあえずどうするの?メイク落としと着替えしてくる?」
「着替えが先!」
僕は力強く言った。たまったものではない。
こんな格好して食事するのは昨日の夜だけで十分!
「そう言えば全員送ったんだよな?」
「そうよ?エンタープライズで全員ね」
「誰が操縦したんだ?シドは起きてこないだろうし」
「リディアよ」
「リディアが!?」
「エッジも動かしたと思うけど、私が起きたときはリディアが動かしてたわよ?」
さすが田舎娘…と言いかけたが止めた。もし聞こえてたら半殺しのような気がする。
「どうしてリディアが操縦してるとわかったんだ?」
「セシルがぐがーぐがーなってるとき…そう9時過ぎね。私起きちゃったのよ、みんなの声で」
「それでリディアが言ってたのか?」
「正確には、エッジがリディアに言ったのよ。送ってやれとか言われてたわね」
「なるほどね…ローザ、一緒に飛ばないか?」
「どうしたのよ?」
「何て言うか…その…な」
僕は言いたいことを口にして言えなかった。
新婚旅行。いわゆるハネムーン。
しかしローザはすぐに感じ取ったらしく、
「わかったわ。どこがいい?」
「どこでもいいけどさ…」
「じゃあ幻獣界」
「おいローザ…それはまずいだろ?第一幻獣達は…」
「冗談よ。考えておくから着替えてきてね」
「わかったよ」
僕は食堂を出て更衣室へ向かった。
「エッジ、朝ご飯…」
「ああ、俺は良いぜ…そのまま帰るさ」
「でもローザが…」
「そんなに迷惑かけてらんねーだろ?ほら、リディアも」
「だけど…」
「だけどもだからもねぇって。正直…行きたくないけどよ」
「…そっか。わかった」
私はエッジの手を引っ張った。
「おい、てめー何しやがる!?」
「強制連行!文句は聞かないから!」
「ひでぇ…」
こうしてエッジは私のお縄についた。
食堂から少し歩くが、それほど遠いわけでもない。
バロン城更衣室。確か…
「あった。やっぱりこれが一番良いな」
僕は私服に着替える。王だからって高貴なものを着てるわけじゃない。
「よし、戻るか…」
とそこに。
「いたー!セシル待ったっ!」
「リディア!ここ男性更衣室だぞ!?」
「そんなこと言ってる暇ないよっ!セシル、このまま4人で新婚旅行しようよ!」
…同じだった。リディアとエッジも新婚旅行を考えていた。
「エッジは良いのか?」
「もう…どうにでもなれってんだ…」
「わかった。ご飯食べに戻ろう」
「うん!」
リディアの笑顔が今日も見れた。昨日も見れたが今日のほうが笑顔の価値はあった。
「えーと…リディアはこれでいいのかしら?」
「あ、それくらいでいいよ?」
ローザはジャムの量を考えている。
「セシルは拒否権なしね」
「どうしてそうなるんだ…」
「気分だから」
「そう…って気分で何とかなる問題じゃないだろ?だいたい拒否権無しって何なんだよ?」
「昨日のカクテルのお返しよ」
「な…ローザ…っ!」
僕はそれ以上言えなかった。
昨日のトランプで僕はローザに、スピリタス・ジン・ウォッカ・カンパリを入れたカクテルをロックで飲ませたからだ。
さすがにスピリタスはストレートだといってしまう。
火を付けるのは良かったが、カンパリの臭いでローザが酔ったからだ。
「俺はコーヒーだけにしてくれ。なんか食う気起きねぇ」
「ダメ。エッジはごはん食がいいの?」
「いや、パン食でも良いけどな。その時の気分によるんだよ」
「じゃあごはん食作るわよ?」
「…いやいい…正直ちょっとだるいんだ」
「昨日のことで頭いっぱいなんでしょ?」
「そうじゃねーよ…いろいろとな」
「そのいろいろが気になるよ」
「おめーにはわからねーよっと」
「もうっ…エッジのいじわる!」
「わりぃわりぃ、冗談さ」
「なっ…からかってたの!?」
「軽~くな」
リディアが右手に拳を作っていた。
「おいリディアやめとけって!」
「ふんっ!」
リディアの突き出した右ストレートは見事にエッジの顔面を捉えていた。
これで上からたらいが落ちてくればもうド○フ。と思ってたら。
「あ。落ちてきた」
リディアの頭にたらいが直撃。しかしリディアは微動だにせず。
「完全に○リフだ…」
しばらくしてリディアが声を上げた。
「………痛い………」
「金だらいは…でもどうして落ちてくるのよ…まさかね?」
「仕掛けてあるってことはないだろう?」
「だったらどうやって落ちてくるのよ」
リディアはそのままの態勢で右に倒れた。
エッジの顔面はすでに赤くなっていた。
「リディア、しっかりして」
「なんでたらいなんて落ちてくるの…よ…」
そう言った後、リディアは気を失った。
「おいエッジ…やりすぎたんじゃないのか?」
「かもしれねぇ…」
朝ご飯も食べ終わり、城の中は使いに任せておけばいいから…
「じゃあ、いこうか!」
「うん!」
「レッツ新婚旅行!…でいいのよね?」
「まぁ…行こうぜ!俺達が新しい時代を作るんだからな!」
「そうだな…ギルバートもヤンも同じさ…みんなで新しい時代を作るんだ」
そして僕たちはエンタープライズに乗り込んだ。
「僕が動かすよ。みんなは…」
「却下。みんなのエンタープライズよ。動かしてるのはみんなよ」
「そういうこと!セシルも行きたいところは私が動かすよ!」
「ほんとに…いいんだな?」
「もっちろん!だってローザだって動かしたことあるんでしょ?」
「私?ないけど?」
その場にいた全員が転けたのは言うまでもない。
今日がまた新しい1日となる。
だけどみんなの笑顔は消えることはない。
世界を取り戻した僕たちは…新しい未来を作らないといけない。
その未来は戦争や紛争もなく…平和を作っていくこと。
僕たちはそれを任されている。
平和で平等な世界。幻獣達だって人間と同じ。生き方は違うけど、ほとんど同じ。
妖精達だってそうなる。人間を嫌うのはわかる。ただ…犯した過ちを正せるのが人間だから。
今ここにいる4人だって間違いはある。
だけど間違いを正していける。それはどの種族だって同じだから。
この先には未来へのページが開かれているのだから。