【第88話】 シャーマン
俺は暗闇を逃げた。
すると突然悲鳴が聞こえた。それがウッソのものと俺は信じたくなかった。
しかし、草むらから現れたのはウッソがひきつけていた仮面をかぶった見張りだった。
「クソッ!」
ウッソが殺されたのは明白だった。仲間が次々と殺されていく。
怒りと悲しみが俺を支配した。
仮面男は俺のほうに、迫ってくる。
右腕を痛めて、痛みで早く動くことができない俺はこいつから逃げることは不可能だった。戦うしかない。
投げナイフでしとめようとしたが、その前に仮面男は槍を繰り出してきた。
俺はとっさにショートソードを右手で抜き、槍を受け止めた。ロマリア時代に培った兵士としての訓練のおかげで体が勝手に動いたのだ。
しかし受け止めた振動で左肩に激痛が走る。普段なら力で押し返し、体制を崩すところだが、とにかく体に力が入らない。
俺は槍を受けがなして、すばやく剣をふるった。剣は仮面男の腕を切った。
腕を切り落とすほどの攻撃は出せない浅い傷だったが普通の人間なら戦闘力を奪うには、これで充分なはずだった。しかし、仮面男は自分の腕が切られたことにも気づかないように、のろのろと俺に近づいてきた。
魔物化されると、痛みも感じないのか。
「クソ…」
俺の武器が血塗られていた。魔物の血ではない。人の血である。こいつも、本当は人間だったんだ。
俺の前に立ちはだかる仮面男は槍を繰り出してきた。ウッソの血で塗れている槍を。
俺は槍をかわし、攻撃をくわえようとするが痛めた左肩のせいで力が入らない。攻撃はいつもの鋭さがなく宙を切る。
仮面男は大きくジャンプをして俺の攻撃をかわした。腕を切られ、常人の人間とは思えないジャンプ力だ。
そして全体重を乗せて俺に槍で狙いをつけてきた。
当たれば即死だ。俺はなんとか横に飛び、攻撃をかわしながら右手で残り二本になったナイフを投げる。ナイフは仮面男の体に吸いこまれた。仮面男が痙攣をして、倒れる。ナイフの毒がきいて、仮面男の命を奪った。
「倒したか…」
俺は乱れる息を必死におさえようとする。まだ他にもいるかもしれない。
俺は警戒しながら、辺りを見た。
第89話 帰還
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