【第165話】

竜の女王が残した物


これ以上、ホビットさんの心の傷を広げないよう、

私は早々、ここを立ち去ることにした。

私にも充分、彼の悲しみはわかるけれど、

でも、完全にはわかってあげられない。

彼の人生を知っているわけでないし、彼の思いでを知らないからだ。


「どうして、そんなことを聞く?」

 

「いえ・・・・・・・・・・」

 

女王様を失った今、彼には仕える物がいなくなってしまい、心から愛する物をなくしてしまった。

もし、私が行った後・・・・・・自殺でもされては・・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・死にはせんわい」

 

どうも、私にはすぐに表情にでるようだ。

 

「確かに・・・・・・・・・落ち込んでおる・・・・・・・・

 だが、希望をなくしたわけではない。

 女王様は儂に新たな楽しみを残してくれた。

 これを見てみい」

 

そういって見せてくれたのは、大きな卵だ。

 

「女王様が産まわれたものだ。

 この子には、あの女王様の血が流れておる。

 儂はこの卵をかえす・・・・・・あの方の血を絶やさせないために・・・・・・」

 

「本当に、女王様のことを尊敬なさっていたんですね・・・・・・」

 

「あぁ・・・・・・・・・あの方は本当に天使のような方だった。

 だが、もう1つ、理由はある。

 もう、あのときの苦しみを味わいたくない・・・・・・・・・」

 

「あのときの・・・・・・・苦しみ?」

 

すぐに立ち去ろうとしたが、私はこのホビットさんともっと話したくなった。

きっと、私が去れば、この人はずっと一人寂しく、ここで過ごしていくんだと思う。

 

でも、私と話すことで、少しでも気分が晴れればと思ったからだ。

 

私は、彼の目をしっかりと見つめた。

 

彼はためいきをつき、座り込んでしまった。

私が、まだ立ち去らないと思ったのであろう。

彼は、自分の過去をゆっくりと語りだした。


第166話 戦乱の中の小さな幸せ

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