【第167話】

生まれてくるはずだった子供


ホビットさんは、思い出すように自分の過去の話しをし始めた。

血なまぐさい戦争。

その中にある小さな幸せ。

私は結婚もしたことないし、子供もできたことはないけれど

新しい命ができる幸せ、それはなんとなくわかるような気がする。


「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

急に黙りこくってしまった。

 

どうしたのだろう?

 

「正直私が、こんなことを言うのは申し訳ないと思いますけれど・・・・・

 戦争というのを体験したことないから、

 わかるっていったら、おかしいと思うけれど

 でも、なんとなく・・・・そのすさんだ世界に、

 小さな命が生まれる、その幸せな気持ちはわかるような気がします」

 

正直な気持ちを言ったつもりだった。

 

戦いは、人の精神状態をおかしくする。

戦争はしたくなくても、魔王軍との戦いをいくつもくぐり抜けてきた。

血なまぐさい戦い。

したくもない戦い。

しかし、やらなければ、やられる。

戦いとはそういうものだ。

平和を取り戻すのには、心を鬼にしなければいけない。

 

私も、幾たびの戦いを繰り返し、

はっきりいえば、精神がおかしくなりそうだった。

しかし、平和への願い、お父さんへの願い、今まで知り合ってきた人たちへの願い。

それを常に考え続け、耐えてきた。

 

戦いは、本当につらい・・・・・

何かを頼りにしなければ、やっていけないのだ。

そして、このホビットの支えは自分たちの子供だった。

 

 

「・・・・・・・・・・生まれてくれれば・・・・・・・・」

 

「え・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・流産だった・・・・・・・・・・・」

 


第168話 流産

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