【第213話】
種族を超えた唄
森での戦闘はさらに困難なものだった。
人間の血に味をしめた魔物達が
私に襲いかかってきた。
そのとき、竪琴の音色にのせて、きれいな歌声が、聞こえてきた。
うっとり聞き惚れるほどのものだった。
うったえるようなメロディー。
何か心をつかまれたような感覚をうける。
それは、魔物達も同じようだった。
私と魔物達はその歌が終わるまで動くことができなかった。
曲は中盤になって、悲しい曲調から、やさしい曲調に変わる。
不思議だな・・・・
音楽とは本当に不思議なものだと思う。
私はアリアハンのことを思い出した。
よく、ミリーと子供のとき、街で月に一回行われる
楽団の演奏を聞きに行った。
その楽団は、レーベの村から来るもので
それが街の行事となり、いつのまにか
音楽は大人が楽しむものだけではなく
私達子供の楽しみにもなっていた。
楽器の演奏と、一人の女性がそれにともない歌う。
美しい楽器が奏でる音色。
とてもすばらしいと思う
しかし、本当にすばらしい楽器は
人の声だと思う。
どの楽器にもあらわせない音色。
感情、思いで、怒り、
そういうのをあらわせる唄は、
すばらしい”楽器”だと思う。
時には楽しい曲、
時には悲しい曲、
時には妖艶で誘惑的な曲、
曲はいろいろな感情を私達に与えてくれた。
そんなことを思い出していた。
曲は終盤に入り、またもの悲しげな曲に変わる。
歌い手の唄と竪琴の音色は
見事な調和によって私達の心を魅了した。
そして、曲が終わった。
私はわれにかえる。
その唄が終わった後、きれいな歌声の主は
「さぁ・・・・おまえたち、自分たちの住みかに戻りなさい・・・・・・」
語りかけるように魔物達に言う。
そうすると驚いた事に魔物達はそろそろと
散っていって姿を消してしまった。
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