【第270話】
戦前夜
メルキドの全軍の前で私は演説を行った。私一人の力でどれだけ力を与えられるかわからない。
けれど私はみんなの希望であり続けなければいけない。それはわかった。その現実から逃げるわけにはいかないんだ。もっと強くならないといけないんだ。私はみんなの道しるべにならないといけないんだ。
私はその想いをそのまま口にした。
「すげぇ・・・・・・」
「さすが、チェルト様・・・・・」
全軍が、私の声に応えてくれた。
私自身も驚いた。自分の声がこれほど人に影響を与えるとは思っていなかった。
でもたくさんの人が私の名前を呼んでくれる。たくさんの人が私を支えてくれる、それがわかった。
だから私もみんなの期待にこたえるよう、がんばらないといけないんだ。
「神に選ばれし勇気ある者・・・・
その言葉に偽りはありませんな・・・・チェルト様・・・・」
「本当にすげぇ勇者様に育ったぜ・・・・
お前の名声はいずれ、きっと、父オルテガをはるかに
超えるものになっているだろう・・・
すでにアレフガルドでは、そうだろう。
そして大魔王ゾーマをもし倒すことができたら、
誰もがお前を英雄とたたえる・・・・その光景がはっきり浮かぶぜ・・・・・」
後ろで騎士隊長とカンダタがそうつぶやいていることも知らず、私は剣をかかげていた。
部屋に戻ってきた。良かった・・・・みんなに元気を与えることができて・・・・・
でも・・・・・・本当はいろいろな想いが交差している。早くドラゴンロードに行きたいという想い。
もう1つはこの戦において、またたくさんの人が死ぬということ。下手すれば全員が死ぬのだ。それを阻止するためオルテガはドラゴンロードに向かったのだが、間に合わないときそれは私たちだけで戦うしかない。
みんなが団結して大魔王ゾーマと戦うことを選んでくれたことはうれしい。だが心ではわかっていることだが、たくさんの命を失われるのはやはり・・・・つらい・・・・
私はみんなを死地に追いやっているのかもしれない・・・
いや、そんなことはない。少なくともこのままほっておけばみんな死んでしまうんだから・・・
アレフガルドはずっと闇のため朝がくることはなかったが、そんな複雑な想いで私は眠りについた。
第271話 カンダタの想い
前ページ:第269話 「勇気を与えし者」に戻ります
目次に戻ります
ドラゴンクエスト 小説 パステル・ミディリンのTopに戻ります