【第294話】

決心


泣いたのはもう記憶にない。

しかし私は声を出さずに泣いた。

親として何一つ娘にしてやれなかったことに。

娘に一人で想像も絶する戦いをさせてしまったことに。

過酷な運命を背負わせたことに。




竜神は何も言わず、ただ私を見守っていた。

そして私が落ち着くのを待ってくれた。


「信じがたいごとだ・・・・

 だが、あなたが嘘を言っていないこともわかる。

 これが、現実なのだな・・・・・・・」


「あなたの気持ちをわかると言うと嘘になるかもしれません。

 しかし、一つあなたに理解していただきたいことは、

 チェルトさんは、自分で望んで旅に出て魔王を倒したのです」


竜神はまるで私の心を見透かしたかのように言った。


「・・・・・・・・・・・」


「しかし大魔王を倒すことができるのも

 闇の羽衣を取り払うことができる彼女だけなのです」


「例え・・・・・そうであっても

 実の娘が大魔王との戦いで命を失うかもしれない、

 それは、想像はできない」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・だが、そうであれば

 私は一刻も大魔王を倒さなければならない。

 娘にこれ以上危険な目をさせるわけにはいかない」


竜神はその言葉を聞いて複雑な顔をした。


きっと私と娘が力をあわせてることが

大魔王を倒すことを望んでいるのかもしれない。


しかし娘と一緒に戦う、それは考えられなかった。

あたりまえだ。

親として・・・親として何もしてやれることはなかったが、

これ以上娘につらい道を歩ませるわけにはいかない。

私は決心した。


「すまぬ、私にあなたの力を授けてもらいたい」


「・・・・・・わかりました。

 しかし大魔王を倒すことができるのも

 闇の羽衣を取り払うことができる彼女だけなのです」


「それでも娘に大魔王と戦わせるわけにはいかない。

 私が命にかえても・・・・命をかけても倒せぬかもしれない。

 しかし道づれにしても大魔王を倒してみせる。

 たとえ、我が身が元に戻らなくても・・・

 ・・・・だから、私は力が欲しい・・・・」


竜神は、静かにうなずいた。


第295話 竜の力

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