【第299話】

妖精の笛


ドラゴンロードにいった私だが、

結局オルテガの手がかりを何も得ることはできなかった。

私はルーラでマイラに戻り、草薙夫婦を訪れ王者の剣を手にした。

王者の剣は草薙夫婦の賜物で見事に出来あがっていた。

私は王者の剣を鞘から抜いてみた。



「不思議・・・・・この剣、脈打っているみたい」


「剣が真の主をチェルト様と認めたからですよ」


草薙さんは笑顔で答えた。


稲妻の剣を持ったときも激しい衝撃を受けたけれど

そのときは、封じられていた力が爆発するような感じだった。

でもこの剣はなんか不思議。

剣を握っていると自分の体の一部になったような気がした。


「剣は、人や魔物を傷つけ、殺す武器です。

 間違った者が使えば、それは凶器になります。

 しかし、剣は 人を守る武器でもあるのです。

 武器が真の持ち主だと認める・・・

 守る剣の使い主に出会ったとき、剣も命を持つものだと私は思っております」


「ありがとうございます。

 この剣を大切にします」


私は剣を鞘にしまった。

剣は鞘にぴったりと吸いつくようにおさまった。


「チェルト様。

 村長がチェルト様にお渡しするものがあるようです。

 旅立たれる前に立ち寄っていってください」


「わかりました。今から行って来ます。

 本当にお世話になりました!」


「こちらこそ、勇者様のお役に立ててよかったです。

 お気を付けて!」




「遠路はるばるようこそ来てくださいました」


草薙さんの家を出た私はまっすぐマイラの村長さんの家に向かった。

村長さんは、結構なお年寄りでとても温厚そうな方だった。


「メルキド大戦でのご活躍はこの村にも伝わっておりますぞ」


村長はメルキドでの戦いを誇らしいかのように話した。


「えぇ・・・・」


私は少し暗い顔で答えた。

村長にメルキド大戦の実状を簡単に話した。

たくさんの人が殺されたこと、仲間も傷ついたこと、

敵であれ魔物の命をたくさん奪ってしまったこと、

メルキドにはまだ多くの怪我人がいて救援物資が足りないことなど。


「そうですか・・・・それはつらく厳しい戦いでしたな・・・・」


その話を聞くと村長さんの顔もくもっていた。

たくさんの死者が出たことはもちろん認識はあったのだろうが、

人づての噂と、実際に惨劇を見たものではやはり違う。


「このような話しを聞いて大変恐縮ではございますが、

 私達はチェルト様をさらなる戦地に追いやらなければ

 ならないのかもしれません。

 まずはこの笛をご覧下さい」


そう言って村長さんは一つの笛をとりだした。

オカリナのような形をしているが、小さく繊細な

二人の妖精が笛に彫られていた。


「妖精の笛と申します。

 精霊ルビス様が作られた魔法の笛で

 強力な呪いをとく力を持つと呼ばれる笛です。

 ルビスの塔はご存知でしょうか」


「えぇ、少しは」


メルキド大戦時に、魔王軍は3つに軍をわけたという話を聞いた。

1つはラダトームを陥落させるため、

1つはメルキドの要塞を落とすため、

そして、もう1つはルビス様を封印しているルビスの塔にという話だ。


「マイラから北に島があります。そこにルビス様が囚われていると言われております。

 もうかなり前のことですので、確かなことではございませんが。

 しかし、この笛でもしかしたら大魔王の呪いをとくことができるやもしれません。

 ですが、そのルビスの塔に行くまでに凶暴な海の魔物を相手にせねばならず、

 マイラにある小船ではとても近づけないでしょう。

 さらに塔にいけば、大魔王の総勢力と戦うことになるかと思います」



村長さんはそこで言葉を一度切った。

そのあと、目を伏せ、考え事をしていたようだが、

しばらくすると、私の顔を見つめた。


「私はチェルト様にそこにいけと無理強いはいたしません。

 自殺行為だと思うからです。

 ただ、この笛は、ルビス様をお救いできるものに渡すものだとも思っております。

 そして、王者の剣を持ち、太陽の石の光を復活させたあなた様なら、

 もしくは・・・・とも、思うのです

 もし、あなた様が必要であると思われれば、この笛をお持ち下さい。

 必要でないと思われれば、そのまま置いていってください」


そういって村長さんは笛を手渡した。


「ありがとうございます」


私は迷わず笛を手にした。


第300話 ラダトームへの帰還

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