【第331話】
二本の松明
三階には生存者がいたが、私の力が及ばず全員が皆殺しにあってしまった。部屋には血生臭い人間と魔物の臭いが立ちこめていた。
松明に再度火を灯すと辺りがぼんやりと見えるようになった。今までたくさんの人と魔物の死を見届けてきた私にとってその光景は想像できたがやはり、目の前に広がる光景は目を背けたくなるものだった。
きっとこの部屋もトラップの一つだったのだろう。部屋を開けた瞬間、たくさんの魔物が待ち伏せをしていて松明を持った冒険者はあっという間に餌食にされてしまったのだ。
私のような気配や殺気で相手の位置を察知したり、カンダタのような野生的な勘を持つ戦士は暗闇で戦う術をもつが視界が防がれるだけで、人は恐慌に陥り、冷静さを失いそれが大きな被害を出す。
一方、魔物は暗闇の中でも見える暗視の能力を持つものもいる。暗闇での戦いは人間にとっては圧倒的に不利だ。
海岸には二隻の軍船があった。一つの軍船に、百人の人間が乗っていたとしたら、まだ生き残りの人間はこの塔にかなりいるはずだ。一階、二階とそれほど戦いの跡が見られなかったことから、この階以降が、魔物達との激戦地になると予測できた。メルキド大戦のような戦いになるかもしれない。しかし今回は、魔物の数は同数でも、味方の数は軍船の人間が全員上陸したとしても多くて200人、以前の戦の1/5以下だ。早く彼らと合流し、この塔がルビスの塔かどうかを確かめなければ。
松明に照らされた部屋は、右、左と左右対象に扉があった。
他に冒険者の生き残りがいるかもしれないと思い、耳をすませた。すると右の扉のほうから、かすかに物音がした。木造でできた古い床の上を歩いたときに軋むような音だ。味方か敵か。
「誰かいるんですか!?」
しかし返答はなかった。人間である可能性は低いよう気がしたがやはり音が気になる。どちらに進むか迷ったが、右からいくことにしよう。もしかして右隣に敵がいる可能性も考えて最善の対策をとることにした。
この部屋に入ってきたときに松明を放り捨て明かりを消してしまった。暗闇の中でも戦えないことはないが、明かりがあることにこしたことはない。そこで私は今持っている松明を現在いる部屋の中心に固定した。そしてもう一本予備の松明に火を灯す。次の部屋に行ったとき仮に敵がいたとしても今いる部屋に敵を誘い出せば明かりがあるところで戦えるわけだ。入った瞬間扉が締まるトラップがしかけられていたら、お手上げだが準備ができたあと、私は物音がした右の扉を開けた。
第332話 ラゴンヌ戦
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