【第373話】

俗物


はぐりんの話を聞いて、私はさらに感動した。

はぐれメタルが素敵な種族ということは前に聞いた話でわかったが

ホビットとの友情の話や、ルビス様の加護をうけて

今のはぐりん達がいるということだった。




「はぐれメタルの体が硬い理由って、そういうことがあったからなのね」


「うん。そしてボク達はバラバラになり世界を回った。

元々、天界に上ってバブルスライムからはぐれメタルになったものはそんなにいなく

数も少なかったのだけれど、それでも少しずつ数を増やしていった。

そしてルビス様の加護と幸せの靴もあったせいで、外敵から狙われても逃げることができたしね。

けれど、その幸せの靴が逆に災難を呼ぶことにもなったんだ」


「災難?

幸せを呼ぶ宝なのに?」

「そう、その宝を手に入れようとするものが現れたんだ」


そういってはぐりんは私を見た。

知性をもつ動物や魔物が多くても、宝を集めようとする俗物というのは、

そんなにいないはずだ。もしかして…


「その宝を手に入れようとしたのは…人間?」


「そう…人間だ」


「まさか…」


「そのまさかだよ。

エルフやホビットにも、珍しいものを大切にしようとか

これが宝物であるという認識はあるだろうけれど

それを奪おうというものはいないと思う。

彼らの中で小さい争いがあっても、多種族にはあまり関心がないし

自分達の世界を守る為に閉鎖された空間で住んでいるものが多いからね。

だけれど、人間は違った。

人間が繁栄した理由の1つに、自分で領土を広げようとしたこともあると思う。

それは欲望だ。そしてその欲望の1つに はぐれメタルが持つ貴重な宝を手に入れようと

人間達ははぐれメタル狩りをしはじめたんだ。

きっと何らかで、ボクらの仲間が捕まって幸せの靴をとりあげられたんだろうね。

それでボク達は人間から標的にされたんだ」

「そんな…」


「そしてボクもその犠牲のはぐれメタルの一匹だ。

その時…ボクは命を失った」

「………」


はぐりんから語られる言葉は衝撃のことばかりだ。

はぐりんは一度死んだと言った。

今目の前にいるはぐりんは何らかの理由で、雨雲の杖に転生したものなのだろうか。


そしてこのことが事実なら、はぐりんを含め、はぐれメタルは人間に恨みを持っているはずだ。

それなのにはぐりんは私に優しく接してくれていた。

それは前の記憶がなかったからなのか。

であれば、記憶を蘇らせたはぐりんにとって今の私はどう写っているのだろう。


「ボクは死にたくなかった。

もちろん、すべての人間がそうではないと思っている。

しかし自ら望んで下界にもどって、人間の良いところを見極めようと思ったのに

人間の悪いところを目の辺りにしてしまった。残念だった」


そういってはぐりんはうつむいた。


第374話 雨雲の杖とはぐりん

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