はぐりんは過去に、命を失った。幸せの靴を持つため、欲望にまみれた人間によって、はぐれメタル狩りにあい、その命を失った。はぐりんが、我々人間に恨みを持っていても私は何も言い返せない。
「前に話したことを繰り返すけれど、魔王が操ったから被害は出た。
たくさんのスライムが命を失った。
でも戦い、命を奪ったのは人間。
ボク達にとっては大魔王も人間もかわりがないものかもしれない。
本当に人間は正義でいられるものなのかな。
そもそも正義ってなんなの?
正しいことは何なの?
…ボクが生きているとき、それがわからなかった」
「………」
「だから、ボクは人間のいいところを見つけたかった。 だって、ホビットのおじさんは魔物であるボク達を親友だと思ってくれたんだもの。 種族が違っても 人間だって、わかりあえる可能性があることを信じたかった。 だから死にたくなかった。 ボクはその想いを持ちながら死んでいったんだ」 私は涙がボロボロでてきた。あのいつも無邪気なはぐりんが、心の奥底にこんな強い感情を持っていたとは。そして人間の可能性をずっと信じていてくれたはぐりんの心に涙が止まらなかった。
「その想いを…ミトラ神様とルビス様が受け取ってくれた。
いくら神でも命を失ったボクを生き返らせることはできなかったけれど。
肉体を失っても魂は残った。
ミトラ神様とルビス様はボクの気持ちをわかってくれた。
だからお二人は再生をつかさどる”雨雲の杖”をおつくりになられた。
一度死んだものは生き返ることはできない。
それは絶対の真理だ。
だけれど再度生きることができなくても、この杖があれば、雨が降り、緑は育ち、
再生の輪廻で新たな命を生み出すことが出来る。
人間界を封じず、ミトラ神様とルビス様は再生をして心良きものが生まれることで待ち続けたんだ。
そして人間界にそのような人物が生まれるまで雨雲の杖にボクの精神を封じ込めてくれ、
ボクは待ち続けた」
「…ごめんね…ごめんね…」
私ははぐりんに泣いて謝り続けた。私がはぐりんの命を直接奪ったわけではない。私が生まれるよりずっと前の出来事だから。しかしはぐりんにとって人間の可能性を待ち続けるというのがどんなに大変だったのかその苦労と長い年月は私には、図りきれなかった。
「何を謝っているんだい。
何百年も待ち続けて、ようやく君に出会えたんだ。
君がここまで歩んできた道のりが答えだ。だからミトラ神様はネクロゴンドでボクの姿を前世の姿に戻し
君と会わせたのだと思う。
そして君をここまで導いた。
けれど、残念ながらここでお別れだ。ボクの目的は終わったからね。
これからは君の時代だ。
君が人間の可能性を見せて欲しい。
君はこれからアレフガルド最南東の祠に行くんだ。
そして雨雲の杖、太陽の石、そして聖なる守りを持って祈るんだ」
私は泣きながらもコクリと頷く。
「………もう…会えないの?」
「あぁ…ボクの精神はもうすぐ、なくなる。
君という勇者を見届けたからね。
でもボクはいつも君の心にいる。
君が勇者である限り、人間の可能性を見せてくれる限り…ね。
君が大魔王を倒すことを信じている。
そして人間を新たな世界へ導いていてくれることもね。
ルビス様もそれを望んでいるはずだ。
人間と魔物がいがみ合うのではなく、共存できる世界を…」
はぐりん編終了です。
尻切れトンボのような終わり方だったでしょうか。
でもこういう終わり方をさせて、この直後のチェルトの感情は
読者さんの想像に任せたいという気持ちがあり、ここで終了です。
スライムの歴史は1~8はエニックス出版のモンスター物語を元に語り、
その後、9~13ではぐれメタルの歴史の続きをオリジナルで執筆し
はぐりんとチェルトが善と悪、魔物と人間の種族の違いによる視点から話を書いていました。
「はぐりん=雨雲の杖」であったわけですが
はぐりんの登場した第100話「はぐりん」をアップしたときから
このはぐりん編のストーリーは考えていて
ミディリンの更新履歴を見ると1998年8月22日に第100話を更新をしていたので
8年以上暖めつづけていたストーリーをようやく実現できてほっとしています。
(ちなみにこの話を書き終えたのは2004年のことです。掲載したのは
2007年になってしまいましたが)
はぐりんが普通のはぐれメタルと違うところを匂わせるようなことは
過去に何度か伏線で出しているのですが