【第412話】 父から娘へ
脱力感が私を包む。立つ気力も無い。何もやる気がおきない。もうこのままここで命尽きても良い、そう思いさえする。
私は父が最後にくれた、賢者の石をうつろな目で見た。
そこには生気の無い私の顔が映る。
”この賢者の石を…勇者チェルト・フレイユに渡して欲しい”
父の声が頭の中で繰り返される。
「勇者」か…
父は私のことを娘と言うだけではなく「勇者」とも言った。
私は父の手を重ね合わせて、見つめた。
「…立たなきゃ」
私は重い体を引きずるように立ちあがった。父が戦った理由は私が戦っている理由でもある。
父が目指したものは、家族のため、人のために平和な世界を作ること。ここで戦うことを辞めてしまえば、父と私がここまで戦ってきたことが無駄になってしまう。私と父の絆がなくなってしまう、そんな気がした。それに、私が戦わなければ今まで力を貸してくれた人達の努力も無駄になってしまう。
父の後を継ごう、アリアハンに出たとき、そう決めたんだ。このような戦いを今日で終わらせるんだ。これ以上悲しみを作らないために。 本当なら…お父さんを埋葬をしたい。
でも今、ここで引き返したら、ここまで削ぎ落とした魔王軍は戦力をたて直すだろうし虹の滴による橋がいつまで効果があるかもわからない。自分の父を今弔ってあげることもできないことが悔しい。
「父さん…ごめんね… 後で大魔王を倒したら…迎えにくるから… あとは私に任せて、今は安心して眠って…」
私は唇をかみしめてあふれ出る涙をこらえた。
第413話
最後の戦い
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