【第411話】 父の色
魔力が尽きるまでザオラルを唱え続けたが父は生き返らなかった。出会ったばかりの父。生きていると信じ続けていた父。やっと出会えたと思ったのに一言も言葉を交わすことができなかった。
私には父との記憶がない。顔も知らない。声も・・・たぶん知らない。
物心ついたとき、父オルテガは旅に出ていた。その為、母、祖父との三人でアリアハンで暮らしていた。
母はいつも言っていた。
「あなたのお父さんは偉大な人だよ」
小さい頃、私には父の何が偉大なのか、理解できなかった。だって父を知らないし、母や私を放っておいて旅に出ていないのだから。
周りの同じ年の友達には、たいてい父がいて、母がいた。友達のお父さんは、怖いお父さんや優しいお父さんもいる。お父さんの色はその家庭によって違う。
でも私のうちには父の色がなかった。父のことを知らないのだから。
実感のない父のことを好きでなかったし何故私たちを置いていってしまったのか、そう思っていた。
でも父の色がなかったというのは私の思い込みだった。
大きくなるに連れて、父の偉大さがようやく理解できるようになる。父が数々に残した伝説もさることながら、父は魔王バラモスを倒すため旅に出た。
人のために、世界のために何かをしようとする意志。なかなかできることではない。
誰もが自分のことはかわいく、自分の命が惜しい。しかし私たち家族が平和に暮らせるよう、そして世界の人が平和に暮らせるよう自分の命のことを省みず旅に出た。自分の命よりも人の命を大切に思い、父は勇気を振り絞って、魔王に立ち向かった。
父の勇気と名声は他の人をも奮い立たせ、勇気を与える。何故父が勇者と呼ばれ、偉大だと言われるのかそれを理解できる年頃になったとき、私は父のことを初めて尊敬した。それが父の色だと知った。
いつか父のように他人を思いやり強い人間に育ちたい、そう思い、父のことを好きになった。
父の帰る日を何年も待つ。その時、父の死がアリアハンに届く。
母は泣いた。私も泣いた。そして次の日に私は決心した。父の後を継ごうと。
それから剣も魔法も学術も必死に勉強して、十六になったときアリアハンを旅立った。
どうやって父が虹の雫なしで大魔王の島に渡ったかはわからない。しかしアレフガルドで重傷を負って、ここまで来るのに私以上に苦労をしてここまで来たのだろう。私達家族や世界を思って、一人孤独に十年以上戦い続けたに違いない。私が戦ったより遙かに長い年月。大魔王城だけでなく、今までの旅、父が切り開いた道があったからこそ、後を追って私はここまで来られたのだろう。
父の最後の言葉を思いだす。
「娘をこのような過酷な戦いに巻き込んで…すまぬと そして平和を守れなかった私を…不甲斐ない父を許してくれと…」
そう父は言った。
謝るのは私の方だ。私は父に…何もしてあげることができなかった。一番大切な時に支えることができなかった、助けることが…できなかった。
第412話 父から娘へ
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