【第410話】 蘇生魔法ザオラル
事切れた父から返事は返ってこなかった。涙が止まらない。ひどすぎる。せっかく会えたのに…何で。こんなことってないよ…いっぱい話したいことだってあったんだ。
神がいるのなら、父を生き返らせて。そう思った瞬間、私はハッとした。蘇生の魔法の存在を思い出したのだ。
この世の中には蘇生魔法と呼ばれるものがある。死んでしまい、時がたち魂が離れてしまった人には効き目がないが心臓が停止しても、まだ魂が残っていれば生き返らせることができる高度な魔法がある。
厳しい修行と高い徳を持った僧侶だけが神の力を借り、唱えることができるザオリクとザオラルいう魔法だ。ザオリクは肉体的な損傷がそれほどなく、死んで間もない人間であればかなりの確率で蘇生ができる。ただしこの魔法を使えるだけの高い徳と修行を積んだ僧侶を私はかつて見たことがない。そのため幻の存在だ。ザオラルも同様で、ザオリクよりはかなり蘇生頻度は低いが蘇生を試みることができる魔法である。
ザオリクの唱え方を私は知らない。書物にも掲載されていないし、どこかで教えているということもされてないからだ。使い手がいない今、滅びた魔法の一つかもしれない。
しかしザオラルは文献は残っており、私は一通り僧侶系と魔法使いの魔法を過去に学習したことがあるため知識として唱え方は知っている。ただ実践はしたことはない。またこの魔法はかなりの魔力を消費するので以前の私には唱えられなかった。しかし今なら使えるかもしれない。
ただベホマで回復できない傷を負っているのに、ザオラルで生き返らせることができるのかそんな不安はあった。しかしすがりたかった。そして認めたくなかった。父の死を。
泣くことは後でもできる。
今は悲しむことより少しでも生き返る可能性があることに賭けることにした。私は父を床に寝かせ、体内の魔力を高めた。
そして過去の知識を頭の中から引きだし、祈る。
「お願い…父さん、生き返って…」
私が魔力を解放したと同時に父の体が光る。
「お願い…お願い…」
私は何度も願った。もし私に力があるのなら、父を蘇らせて!
私の祈りと共に光が強くなる。
そしてザオラルの魔法は完成した。しかし、父は動かない。
…失敗だった。
極度の疲労が私を襲う。しかしここで諦める訳にはいかない。私は再度ザオラルの魔法を試みた。同じように父の体が光り出す。生き返って…ただそれを願った。しかし父がザオラルにより生き返ることはなかった。
魔力が尽きるまで何度もザオラルを唱えたが、一度も成功することがなかった。肉体の損傷が激しすぎるのだ。
「何のための魔法なの!!!!」 私は床に自分の拳を叩き付けた。八つ当たりだということはわかっている。でも怒りを、悲しみを、どこかにぶつけられなければ耐えられなかった。
「魔法とは人を幸せにするためのものじゃないの!? 何の為に私は今まで魔法を収得してきたの!!! 私には人一人救う力もないの!!!!! 世界で一番大切な人を助けることもできないなんて…うっ…うっ……」
私は自分の無力さを呪いながら、泣き叫んだ。
第411話 父の色
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