【第409話】 オルテガとの再会
キングヒドラと戦っていた一人の戦士。二本の首を切り落としていたことから、凄腕の戦士だとは思われるが重傷を負っている。回復魔法を唱えたが効果が現れない。
肉体がほとんど機能しておらず、魂が離れていこうとしている。目の前の男は急激に体温が低くなっていった。
「そんな…」
私の声は聞こえないだろうが、男はさらに話を続けた。目の前で人が死んでいくのは何度もみたことがある。
だが、慣れたわけではない。慣れるわけがない。どうにかこの人を救いたい。
「そなたも…大魔王ゾーマを倒そうとした…同志なのか? そうであってくれれば…これを…」 そう言うと、男は震える手で袋の中から一つの石を私に差し出した。
「この賢者の石を…勇者チェルト・フレイユに渡して欲しい。 私の娘に…」 その一言に私の心臓は飛び上がった。
「娘… あなたは…オルテガ…父さん!!!!!!」 私は叫ぶ。目の前の人がお父さん…私には信じられなかった。
私の中のお父さんの記憶はなく顔を思い出すことができない。
家族というのは、特別な存在だ。
だから、例え顔を知らなくても、会えば、その人が父であることがわかると…思っていた。しかし…わからなかった。
自分の中での父は、生命力がありふれ、とても強く、とても大きかった。いや、きっと目の前の男の人は実際にそうだったのだろう。しかし目の前の父は、あまりに痛々しく、命の灯火が消えかけている、私の想像の父とは違った。
アレフガルドの各地で聞いた、オルテガという名前。もしかしたらという期待感はもっていたがその戦士が私の父だったのだ。
父は火口に落ちて死んだとアリアハンには伝わっていたが、生きていた。しかしやっと会えた父が…こんなことに…このままでは死んでしまう。
私は力の限り叫んだ。
「父さん!!!私よ!チェルトよ!」
しかし残酷にも、その声は父には聞こえなかった。
「竜の女王からもらった品だ。これを娘に渡して欲しい。 そして伝えてくれ。 娘をこのような過酷な戦いに巻き込んで…すまぬと」 「父さん!!!!!!」
「そして平和を守れなかった私を…不甲斐ない父を許してくれと…」
そう言うと父は事切れた。
「父さぁぁん!!!!!」
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