【第425話】
バラモスゾンビ戦2
バラモスとバラモスブロスの怨念により作られた魔物。魔王を二人分合わせて作られた力は伊達ではない。私は一撃で壁に弾き飛ばされた。
私は苦痛に顔を歪めながら折れた肋骨に手を当て、ベホマを唱えた。暖かい光が私を包む。ブルーメタルの強度が高くても中の私の体がバラモスゾンビの攻撃に耐えられないようだ。もっとも光の鎧がなかったら私の体は一撃でつぶされていただろう。
前を見ると、バラモスゾンビが回復し切れていない私のところに突進してきた。食らいつこうとする。トドメをさすつもりか。私は回復の手を止め身体をねじり、辛うじて攻撃を回避する。バラモスゾンビは私がいた場所に激突し、完全に壁を粉砕した。
「うっ…」
回復呪文を中断され、また激痛が私を襲う。すぐに骨をくっつけなければ。
私は再度ベホマを唱え、その場所を離れる。ベホマは今度は完全に効果を表し、私の骨を元通りにした。
粉砕された壁からは砂煙がたっていたが、そこからバラモスゾンビがまた私に向かってきた。休む暇もなく攻撃を繰り出してくる。
私は体勢を整え、王者の剣を横薙ぎにした。
足を切り崩せればよいと思ったが、バラモスゾンビはその攻撃を察知すると後方に飛び去る。巨体に似合わず、もの凄く速い。
私は敵の着地する場所を見極め、間合いをつめる。
バラモスゾンビが着地すると同時に剣を振るった。だが攻撃は見切られ、剣一本分横に交わされる。奴に目があるかどうかわからないが、これだけ微妙な位置での回避ができるとはバラモスゾンビが魔物としてだけでなく、戦士としても半端でないことを表していた。
さらに私は追撃をかけるため、前に踏み出そうとしたが嫌な予感がし、反射的に前に屈んだ。上をバラモスゾンビの尻尾が風を切りながら通りすぎる。危なかった。
だが、まだ嫌な予感は続く。私は屈んだ体制から今度は後ろに倒れこむように飛んだ。私がいた場所にバラモスゾンビの足が砂煙を上げて床を踏みつけられる。
もし避けるのが遅ければ踏み潰されていた。
倒れこんでいた体勢から飛び起き、そのまま弧を書くように剣を振るう。
だが、バラモスゾンビはこれも後方に飛び交わす。ハイレベルの攻防が続く。
今まで戦った敵で最も素早かったのは先ほど戦ったキングヒドラ、空間を渡るアークマージ、ソードイドだった。だがこのバラモスゾンビはその上を行く。速い動きができれば、攻撃力は増し、力強い攻撃を生み出せることになる。結果として先程の攻撃のように鎧を着ていても、中の肉体を破壊することは可能になるわけだ。またこちらの攻撃があたらなければ、最大の防御ともなる。
私は女の為、力を鍛えても限界がある。
体つきも大きくなく、カンダタのような力強さがない。それが戦士として致命的な欠点だった。
戦いに生き残る為、私はスピードに磨きをかけそれを力に変えていった。技術を磨き、敵の力を利用する術を覚えた。力がない自分にとってそれを補うスピードと技、それが私の支えだった。
だがスピード負けしている。後手に回されている自分に改めてこの相手は危険だと認識する。
突如バラモスゾンビは咆哮をあげた。耳を劈く。その咆哮はサラマンダーに劣らず、目に見えない呪縛が私の魂を凍らせた。
「かっ…あっ…」
一瞬私の体が硬直する。ほんの一瞬だった。しかしバラモスゾンビが私を死に至らしめるにはその一瞬で十分だった。
第426話 バラモスゾンビ戦3
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