【第428話】 竜族への裏切り
バラモスゾンビをどうにかしとめることができた。 今までで間違いなく最強の敵だった。
自分が持てる知識と力をすべて使った戦いだった。
私は荒い息をつく。 魔力は数回のベホマとアストロンのみなので、まだ余力はあるが
三連戦はさすがにきつい。
”バラモスゾンビを倒すとは、運だけでここに来たようではないようだな。
約束どおり、余の姿を見せてやろう”
突然ゾーマの声が聞こえ、景色がバラモス城から切り替わった。
そこは先ほどの何も見えない闇の世界。
だが闇の一部に徐々に変化が現れた。 漆黒の闇に、別の色が混じっていく。
紺と紫が混じったような色だ。 色の集まりは一つの姿をかたどった。
黒い闇に同化しそうな薄暗く青い物体。
それは顔だった。 バラモスゾンビと同じくらい巨大だ。 その顔は骸骨のような姿であり、目は空洞だった。 だがその目に赤い光りが宿った。
”余が大魔王ゾーマだ”
顔だけの生物ゾーマは闇全体に響くような威厳のある声だった。
「はぁ、はぁ…ようやく…お出ましってわけね…」
まだ息が荒い。 私は最後の戦いのため息を調えようとする。
”見事な戦いであった。余は強いものは敵味方に限らず賞賛する”
「別に賞賛されても…嬉しくないけれど…ね」
ようやく呼吸が元に戻ってきた。
”人間ごときが、これほどの力を持つとは驚きであった。
神具の力を完全に使いこなし、余の配下をすべて退けるとは。 どうやらここまで来られたのは偶然だけではないようだな”
「当たり前よ」
私は闇に向かって、はっきりと答えた。 ここまで来られたのは死ぬ程努力したから、そして人々の支えがあったからこそ、ここまで来られた。
”しかし不思議なことがある。一つ尋ねる”
「何?」
”何故それほどの力を、おまえは有効的に使わないのだ。 その力は世界を左右するほどの力だ。
すべてを自分のものにすることができるのだぞ”
以前、はぐりんが同じようなことを私にいった。 大魔王を倒したとき、私の力は大魔王を超える力を持ったことになる。 その力は世界を左右する力だと。
「私一人の力で、すべてを自分のものにできるとは思えない。 仮にできたとしてもすべてを自分のものにしたいなんて思わない。
自分と自分の家族が平和に暮らせる、それだけでいい。 当たり前のような幸せ、それを私は望んでいる。 でも、あなた達魔族はそれを奪おうとした。
だから私は剣をとった」
ゾーマからは言葉が返ってこなかった。 「私も聞きたいことがあるわ。
竜の女王様や神竜のことを知っているわよね。 彼らと一緒に魔族、竜族、人間などが手を取り合って 共同で暮らせる世界を作ろうという計画があったこと。
何故それを裏切ったの? あなたにとっては竜族の力をただ利用為だけだったの?」
”その通り。 我ら魔族が世界を征服するためには竜族の力が不可欠であった。
余の力は当時今ほどの力を持っておらず、力を蓄える必要があった。 その為奴等を利用した。
それだけのこと”
「何で世界を征服しようとするのよ!
迷惑なのよ!」
他者をただ利用するだけの存在と感じているゾーマの言葉に怒りを感じた。 「何故あなたはアレフガルドを闇に変えたの!?
他人から幸せを奪うことがそんなにあなたにとって幸せなことなの!!? 弱肉強食の世界を作ることがそんなに大切なことなの!!!?」
”人間には我ら魔族の思考を理解できまい。 いや、人間であるおまえこそ、人間のことを理解しているのか?
自分が弱肉強食の世界に立っているということを。 お前達が物を食べるとき、動物を殺すであろう。
我ら魔族が人間を食らうのに何故殺してはいけない。 またお前達人間は、自分の領地を広げるために戦を何度も過去に行った。
同じ種族同士でだ。それこそが愚かな行いなのではないか? 自ら幸せを得る為に他人の幸せを奪う、それが戦ではないのか?
我らも自分の幸せを手に入れるために人間を虐殺する。 食料である人間を食らう。己の野望を満たす為に領土を増やす。故に戦う。
余がやっていることは特別なことではない。 うぬら人間も他の生物に関してやっていること。
すべては弱肉強食の世界の上、成り立っているということ。
竜神を騙したもの、余が力を得たい為。 余が地上、天界を手に入れる為
力を得て這い上がるには必要なことであったのだ”
第429話 弱肉強食
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