【第432話】 勇者の挑戦3
ゾーマにライデインの直撃を与えた。倒せるまでにはないにしろダメージは与えられると思っていたのにゾーマは無傷だった。
”余には魔法も物理攻撃も効かぬ。 おまえが操るその剣の魔力でさえも、同じ結果であろう。 ではあるが、神の力が宿った剣、いかなる力を秘めているか余にも計りしれん。 そのため、余はその剣だけは警戒をしておる。 余はその為、以前神の剣を破壊した。だが落雷などで傷つけられるほど余の体はやわではないわ”
ライデインで傷つけられないなんて、どんな体をしているの。キングヒドラでさえダメージを与えられるのに。
”落雷とはこう起こすのだ”
ゾーマの声に反応して、落雷が私を貫いた。
「っっっっ!!!!」
声も上げることができず、私は倒れた。激痛を通りすぎて、意識が朦朧とする。一撃で体の自由を奪われた。バラモスブロスの死体を焼き尽くした落雷だ。光の鎧とブルーメタルの兜が軽減してくれなかったら私も同じ目にあっていただろう。ただ命を取り止めたとはいえ、体の自由がきかない。攻撃も効かない、魔法も効かない、私では大魔王を倒せないのか。これほどまでに大魔王との差があるのか…
悔しい。すごく悔しい。戦いに負けることが悔しいのではない。目的を達せなかったことが悔しい。 父の無念を晴らす事ができないのが悔しい。メルキドでたくさんの命を無駄にした人々の想いをはぐりんと約束したことを果たせなかったのが悔しい。
”チェルトあきらめちゃダメだ”
聞き覚えのある声がする。幻聴だろうか。
”まだ君はすべての力を出しきっていない”
…はぐりん?
”君には誰にも持っていない武器がある”
ダメだよ、はぐりん…武器も、魔法も効かないんだ。私の武器はもうないよ…
”違う、そんな物質的なものじゃない。 君にしかない力はなんだ”
私にしかない力?
”例えどんな敵でも君は戦ってきたじゃないか。 その気持ちはなんだい?”
…諦めないこと。
”そうだ、君はどんな状態でも諦めなかった”
うん…諦めなかった。
”君の元に神具が集まったのは、君が戦士として優れていたからじゃない。 どんなときでも諦めず、突き進む勇気を持っているから、 自分の勇気、人に与える勇気、自分の信念を付きとおす勇気があるから 神がチェルトを選んだんだ。”
勇気…
”君はその勇気を持って未来を切り開いてきた。 自信を持って。そしてボクとの約束を思い出して”
はぐりんとの約束。
そうだ、はぐりんは一人で何百年も待ったんだ。私は彼の前で涙した。あの時のことは忘れない。
”君の目的を思い出して”
私が過去に見た目を被うような出来事。テドン、メルキド、いろいろなところで見た悲しい光景。それをなくす平和な世界を作ることが私の旅の理由、私は人間を守りたい。
”君に勇気と優しさが有れば どんなことでも立ち向かっていける。 だから、諦めないで”
はぐりんの声が小さくなっている。
「待って、はぐりん!」
自分の声を発したと同時に意識がはっきりする。
ゾーマは追撃をかけようとしていた。意識を失っていたのは長い感覚のような気がしたが実際は数秒であったらしい。
”貴様、まだ動けるのか”
ゾーマの低い声が聞こえる。初めて感情がある声がした。賢者の石の力無しで私が立ちあがったことに驚いているようだ。
「私は…諦めない!!!」
私は気合いの掛け声をあげた。その声に合わせて王者の剣と聖なる守りが光りだす。光は徐々に大きくなり、回りの闇を照らしゾーマの顔にまで及んだ。
”こ、この光は…グワァアアアアア!!!!!!”
ゾーマのおぞましい絶叫が響き渡った。
第433話 勇者の挑戦4
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