【第436話】
光の空
ゾーマが最後に残した言葉は気になる。だけれど、はぐりんとの再会により私は取り戻した世界を感じることにした。新たな闇のことは、これから考えよう。
私は目を覚ました。
確かゾーマを倒した後、地割れに飲み込まれ、それから…
私は腰に手をあてた。ある雨雲の杖が。
さっきのはぐりんとの出来事は夢?それとも本当にあったの?
雨雲の杖からは何の返答も返ってこない。
私は辺りを見渡した。薄暗く、少しじめじめしている。
ここは…ゾーマ城ではない。それに、体中の神経が切れていたのに今は痛くない。
きっと、夢なんかじゃない。はぐりんがきっと助けてくれたんだ。
私は立ち上がった。
ここは…どこかの洞窟?
であれば、リレミトを使って洞窟を脱出すればどこかすぐわかるはずだ。
あとは地上に出れば、どこに出てもルーラを使って主要都市に戻れるはず。
でも、父さんの亡骸は持ち帰る事が出来なかった。もう一度大魔王の島に行くことはできるのだろうか。
とりあえず今はこの場所を離れるしかない。
私はリレミトを唱えた。しかし、声がでなかった。
あれ…なんで。
私はもう一回リレミトを唱えた。
呪文は発動しない。
そういえば、確か以前同じようなことが…それにこの洞窟、なんか見覚えがある。
私は辺りを見渡した。
記憶が戻ってきた。ここは…沈黙の洞窟だ。
勇者の盾を手に入れ、はぐりんの力を借りて、サラマンダーと死闘を演じた想い出が蘇る。
”魔王の爪あと”と呼ばれる亀裂の上にいるようだ。ここからなら、それほど時間がかからず出られるだろう。
私は記憶を頼りに洞窟の階段を上がっていく。
洞窟の外に出た。外に出ると、まだ暗闇だった。ゾーマを倒したのに…何故まだ暗いの…まだ大魔王の魔力が影響しているのだろうか。
私は不安げに空を見た。
空に異変が起きた。
空が徐々に明るくなってきたのだ。
炎と魔法以外で見る、数百日ぶりの光。
アレフガルドに来てから、相当の月日がたっていた。忘れていた日の光。
数十分も経つと闇は完全になくなり、雲一つない青空が広がっていた。
辺りには日の光をたっぷり浴びた風になびく草原が広がっていた。
これが本当のアレフガルドの姿なんだ…
ようやく世界を取り戻した喜びがあった。
だが、同時に悲しみもあった。
この取り戻した世界には、いろいろな人の犠牲で成り立っている。
父との別れ。カンダタが右腕を犠牲に体を張って身を守ってくれたこと。メルキド大戦で、ルビスの塔で何百、何千もの人の犠牲が出たこと。
心を鬼にし、私自身数え切れない程の魔物の命を奪ってきた。
なんだか…涙が出てきた。長かった。とても長かった。
嬉しさと悲しさ、いろいろなことを思い出してきた。
「つらかった…つらかったよ…… 父さん…えっ…エッ…ヒック…つらかったよ…」
今まで我慢してきた思いが抑えきれなくなってしまい、私は泣き崩れた。
第437話(最終話) 王位継承
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