第七日目

  アルパカにいる間、父さんは風邪をひいていたが、しばらくすると回復した。父 さんが風邪をひくというのはめったに無い。というより、初めて見たと思う。
病み上がりなのに動物を飼ってはまずいかなと思ったが、父さんは飼ってもいい と言ってくれた。二人と一匹で村へ戻る。


サンタローズは山に囲まれているため比較的涼しい。とはいえ、もう夏を迎えよ うとしていたと思う。十分暑いはずだったが、あの時は異常に涼しすぎた。
酒場で変な女の子を見掛けた。ベラとか言ったと思う。四季をつかさどる妖精の 村で異変が起きている、とかいって、僕をそこまで案内してくれたのだけれど、 それがびっくりしてしまった。僕の家の地下に向かうのだから。
地下からは不思議な階段が伸びていた。が、僕にしか見えないようだ。父さんが 僕の話声を聞いて降りてきたけれど、どうやらそれが見えないようだった。
父さんが一階に上がってから、僕らはその階段を上って妖精の村に向かった。


妖精の村というのはすばらしいところだった。妖精も、人間も、魔物もみんな仲 良く暮らしている。そんなところだった。ここは地上の四季をつかさどっている と、妖精の長のポワンさまが言っていた。でも、そのための道具、春風のフルー トというのが盗まれてしまったらしい。「ポワンさまも、みんな共存なんて甘い 考えしてるから、よそ者に盗まれるのよ」なんて言う人がいた。妖精も大変らし い。ポワンさまに頼まれて、ベラと一緒に取り戻しに出かけた。

盗賊はまだ子供だった。僕より少し大きいくらいだったと思う。 ちょっとした 誤解をあやしい魔物につけ込まれて、妖精たちを困らせてやろうとしたらしい。 彼の誤解を解いて、その魔物をやっつけると、フルートは取り戻せた。 本当の犯人はその子供でなくて、雪の女王だということを伝えたら、妖精たちの 怒りもすこしはやわらいだようだった。でも、その雪の女王と言う魔物について は誰も知らないようだった。知らない魔物が増えてきたようだ。悪い前触れでな ければいいが、というおじいさんの言葉を思い出す。


フルートのおかげで地上に遅れていた春が来た。真っ白な雪景色がいっせいに色 づく。
「困った事があったら、いつでもいらっしゃい」というポワンさまの言葉を胸に、 地下室に帰ってきた。


妖精の村から地下室へ戻ると、不思議な階段はゆっくり消えていった。
そして、階段の伸びていた天井のほうから、桃色の花びらが一枚、はらりと落ち てきた。
外に出るとそんなに時間がたっているようには見えなかった。
長いような、短い旅だった。


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