今日はいろいろあった。今はあの修道院を目指して進む途中で、野宿をしている。
関所はみごと通りぬけた。ヘンリーが番人に一発ぽかりと叩いて、身分を明かし
たのだ。
なかなか劇的な瞬間だった。おかげでラインハットまでは何事もなく行けた。
ラインハットはひどいありさまだった。明らかに政治が悪い。質の悪い、魔物の
傭兵が町をうろうろしているし、乞食も増えている。税金を払えないものはすぐ
処刑するし、他国へ侵略も始めているようだ。
最初のうち、ヘンリーは「デールは何をやっているんだ」なんて言っていたが、
政治の実権が太后君にあるということを聞くと、かえって冷静となった。
「あの女自身は政治なんかちっとも分からないのに、なぜだろう?」と首をひね
っている。
そのうちヘンリーが地下道のことを思い出し、そこで地下牢を見つけて疑問は解
けたようだ。太后の本物らしい女の人が閉じ込められていた。ヘンリーは「哀れ
な女だ」と言って素通りしようとしたけれど、あの言葉はショックを受けたに違
いない。
「確かに10年前第一王子を亡き者にしようとしたのはわらわじゃが、今は改心し
たのじゃ」
太后は目の前にいるのがヘンリーだとは気がつかなかったようだ。
デールに身分を明かして地下牢のことを話すと、デールは真実をうつす鏡への手
がかりをくれた。一種のクーデターになるからには明らかな証拠が必要というこ
とだろう。僕とヘンリーは伝説の鏡を探しに、名も知らぬ塔へついた。
塔は鍵かかかっていて開かなかったが、修道院に手がかりがあると知った。付近
の小高い丘からあたりを見渡すと、北西の方に見覚えのある地形が見える。まさ
に、あの修道院だ。
というわけで、今、そこへ向かう途中だ。ただ、思ったよりも遠い。着くのは明
日になるかもしれない。
「マリアさん、いるんだよなあ」とヘンリーがつぶやく。手の早いことだと僕が
つっこむと、何言ってんだ、馬鹿と返された。
冗談が通じるようなので安心したが、あの国のこと、あの家族のこと、どう思っ
ているのだろうか?